三百三十九生目 死面
「生きるとは! 楽しく過ごすこと」
「「はい!」」
「まあ大変だけど、そのために色々身につけたりするんだけどね」
こんばんは。私の前には10匹の魔物がずらりと並んでいる。
彼らはアヅキたちとは違う直属の部下にあたる。
遠征とスカウトを行うための精鋭たちだ。
全員が通常の魔物ではつけないような装備を全身にまといそのうえで機敏に走り動ける。
5匹のチームが2つの編成でよりぬきを選抜して今までしごいてきた。
見極めるのと鍛えるのそれに彼ら自体もスカウトしてくるのとですごく時間がかかったが満足だ。
レベル平均値33。
全員が1回はトランスをして強力な肉体と精神を得ている。
"進化"は出来ないもののみな能力の鋭利化に成功し5匹で1つの最高に強い編成となっている。
私にだってまともに相手取るのは難しいほどに成長した。
「今日、本格的にお仕事を開始! 各地を旅して私の空魔法"ファストトラベル"を用いて根本的な活動範囲を広げる」
相手が印象的な場所にたどり着いたさいに私から"率いる者"で"ファストトラベル"を借りて同じ所に飛ぶことで移動が可能になる。
前も言った通り借りる魔法は私の方へ経験換算されるためワープ先登録も出来るのだ。
これを利用して各地に足を伸ばす。
「さらに道中の魔物のスカウトと迷宮探索。かなり苦労すると思うので、細かく連絡や休みをつけて慎重に行ってください。恵みの泉水は前も言った通り万能からは程遠いですから」
「「わかりました!」」
確かに恵みの泉水は生命力と行動力を癒やして治し活動するための能力を取り戻す。
ただ元気になったという勘違いをしてしまうだけで血は戻っていないし体力そのものはあまり治らない。
栄養があるわけでもないから腹は満たせないし死者は蘇らない。
「では、a班とb班で行く方向にあると言われている2つ名持ち魔物と迷宮をまとめてあるから、各自持って行くように。解散!」
「「はい!」」
全身に鎧や服を着込んだ魔物たちが一斉に動き出して資料を手にして2班に別れ歩いていく。
私はそれを見送って……っと。
さて自分はウロスさんやユウレンに会ってくるかな。
密林前に彼女らはいた。
ウロスさんは相変わらず活発に笑い……
隣の……あれ? 気配はユウレンなんだが……あれ?
背中から感じる気配が段階的にひとつは上になっている。
身体に霊気のような黒い霧がまとわりつき一部は白骨のようにも見える部分が服飾のようにある。
霊気の形をしっかり視認出来ないが肉のない尾のように腰から伸びている部分もあるような。
私に気づいてふりかえったその顔を見てさらに驚いた。
まるで人の死相を象徴化して貼り付けたような仮面をかぶっていた。
目が閉じられ死化粧をした既に生なきものの感情のない面。
それは見ただけで生者が死に吸い寄せられるような不思議な力を感じた。
彼女がその面に手を添えて……
撫でると溶けるように消えていった。
「あら、何か用?」
「ゆ、ユウレンだったのかあ、やっぱり」
「ああ、さっきの?」
現れた顔はユウレンだった。
先程までの視認化できるほどの霊気もないし骨のような部分も見当たらない。
何かを解除したのかな。
「うん、なんだか霊気とかお面とかすごくて」
「おお、ローズちゃん! ユウレンはね、トランスさせたよー!」
「さ、させたんですか」
させたって表現はなんなのだろう。
それはさておきユウレンの姿が元に戻ったのはニンゲンから遠くなると得られるというニンゲン姿に戻るスキルかな。
[マスデスク Lv.2]
[マスデスク 個体名:ユウレン
人間種がトランスを重ねた姿で生死すら曖昧。顔の部分にある面は霊気により形作られた外殻であり、肉体の一部とも言える。その面で死者と対話し生者と繋げる]
「どう? 師匠の勧めで人としての顔が隠れるようにしてみたのよ」
「あー、なるほど」
ユウレンがふたたび手を顔にやると面が現れる。
確かに完全に覆われるため指名手配からも逃れそうだ。
ただ……
「もう少し霊気や気配を抑えないと、さすがに危険さを撒き散らすようで……」
「あ、あら、そうかしら」
「うはは! 派手なのはいい事なんじゃん! まあウロスみたいに、コントロールは出来たほうが良いじゃん!」
そうユウレンの師匠ことウロスは笑う。
確かにウロスは下手に魔力やら霊力や気力やら撒き散らしていないし上手。
ただユウレンはもともと戦闘や狩りが苦手なせいかあまりうまくない。
「うーん、こうかしら。何か違う?」
「ほら、身体から漏れ出る気配に意識を傾けて。音や視線の隠し方は難しいけど……強さの振りまきやだだ漏れは、まだなんとかしよう」
「そうじゃん! だだ漏れだと生きているやつが近寄れないじゃん!」
あの私まだ生きています……
そんなこんなしつつユウレンに私とウロスによる指導が日が昇るまで続いた。
まあ少しは……出来るようになったかな?
後は日々の努力だろう。