三百三十八生目 観客
生命力と行動力を全治させる代わりに持ち運びが特殊な方法以外困難な恵みの泉水。
市場に出そうにもやたら強力かつ相場もわからず市場崩壊させ商人たちから攻撃されるのは避けたかった。
なので世界指折りの大商人とドラーグを通じて恵みの水を売れたのはとても良かった。
実際に売る時はずっと薄めて強力すぎる製品として出回らないようにするつもりらしい。
原液だと生命力も行動力も全回復したあげく多少の損傷も治っちゃうからね。
そんなに便利だと今までの回復薬業界から大反発はまったなしだ。
なので一般は薄くしてそれよりも少し濃い目にしたのを医療ギルド系に大商人がおろすことで話がまとまった。
「いやあ、良い取引させてもらいました!」
「こちらこそ」
「良かったです!」
大商人と別れ見送られつつ外に向かう。
実際の荷卸や詳細な商品決めなんかは後の話だ。
ただドラーグがちょっと話すだけですぐに大雑把ながら善意ですごく良い条件出してもらえたから悪いようにはならないはずだ。
「ふう……なんとかなりましたね」
「助かったよドラーグ」
これでアノニマルースに資金と商売概念を……
おや曲がり角に待機している気配。
私はさっとドラーグの後ろに回り込む。
ドラーグは頭にはてなを浮べながら角を曲がり……
「あ! ドラ! 終わったのね!」
ドラというのはドラーグのニンゲン偽装時の名前。
そしてドラーグに寄ってきた角待ちしていたのは女性たち6人。
みなドラーグに助けられたりして友だちになった仲らしい。
まるで彼女らは偶然終わったところに合流出来たみたいな雰囲気だったが角待ちしていたからね。
偶然も何もないからね。
努力のたまものだね。
「ああ、みんな! そっちの用事はもう良いの?」
「まあね」
「ドラもお昼食べる?」
「た、食べる!」
ドラーグから見たら彼女らのことは子犬や子猫に纏われてるくらいの気分らしい。
竜だと気づかれなければハーレムなんだけどね……
わいわいとして運ばれるように歩いていくが私もついていったほうが良いのかな?
そうこう悩んでいる間にハーレム内のひとりがこちらに気づいてテクテクと歩いてきた。
まあ今は普通にしているからバレるよね。
たしか……このこはちょっとぼんやりとした雰囲気がありつつもあの大商人の娘だ。
「……お兄さんも、来ます?」
「あ、ああ。邪魔じゃなければそうさせてもらうよ」
「うん」
私が男装な理由はこのハーレムたちにもある。
普段のローズとして別人と認識されるためでもあるがハーレムの一員またはハーレムの敵として見られるのはどちらにせよ厄介だろうし……
声は"サウンドウェーブ"なんだから自由にいじれるから男声も問題はない。
ただ似合う声となると少し悩んだ。
細かく調整して納得のいく青年声になったと思う。
まあ好みの問題だが。
明らかにお高いですよというオシャレな雰囲気のレストラン。
そしてやはりお高いですよという値段が並ぶものを提示されみなガンガンと好みのものを注文。
なにせみな良いところの身分でもありつつ今回は大商人さんにおごりだからだ。
このレストランに入った時に『先に伺っていますので』と言われた。
恐ろしく気がきく。
わざわざどこにいくか調べてから部下を先回りさせて伝えたのか。
「うわー! おいしい! 本当に、え、なにこれおいしい!」
「さあじゃんじゃん食べてドラ! アタシもじゃんじゃん食べる! おかわり!」
「二人共本当に良く食べるねぇ」
「ドラ、おいしいしか言ってない」
ドラーグの周りは笑い声が絶えない模様。
ハタからみるとみんな実に仲がいい。
微笑ましい光景というやつか。
人数は8人だから自然に私の前に1人くる。
先程の大商人の娘さんだ。
パンとアイスを交互に食べているのすごい気になる……
「……これ、食べます?」
「いえ、大丈夫です……」
「……はい」
事前にちょっとは聞いていたがマイペースだなあ。
ドラーグとその隣の女性が来るものすべて山ほど食べているのもマイペースというかハイペースというかな感じだが。
私は普通にパンとハンバーグ。
ニンゲンたちの料理でも私に合うものと合わないものはなんとなく分かるようになってきた。
それとやはりというか高いお金を出すと前世の基準はともかくかなりおいしいものが高確率で食べられる。
このハンバーグも良い肉汁出している。
しかもパンが白パンである。
ふわふわして柔らかい。
いやまあ黒パンも好きだけどね私は。
ただこの世界でのお値段差はかなり白パンは高かったはず。
多少のマナーは約2名のおかげで気にならない。
もはやマナーも何もないほどに来てはそのまま口に流し込んでいた。
こうやって見ると竜ってなんでも食べるんだな……
向こうは賑やかだが正面の彼女は参加しないのかな。
一応このハーレムらしきものの一員のはずだけれど。
「……あっちに、加わらなくて良いの?」
「もう、加わっているから」
彼女は目線をこっちに向けて話したがすぐに目線をドラーグたちに向ける。
つまりどういうことだろうか。
彼らの騒動を見守る大商人の娘は静かに微笑んでいた。
……なんとなくわかったような気がする。