三百三十七生目 商談
「……かくかくしかじか……というわけよ」
ウロスさんに3人でお弟子さんに関する最新情報を話した。
聞いている間は軽い相槌をうちそして聞き終えると『うーむ』ともらす。
腕を組んで小さい身体が揺れる。
「そんなことになっていたのじゃんか……どうやら、迷惑かけたじゃんの、アノニマルースの者たち」
「いえ、ウロスさんのせいではないですから」
謝られたがこれはもはや管轄外というやつだろう。
それよりもお弟子さんの情報を出来るだけ集めなくては。
あれこれと聞き出す。
「弟子の情報? そうじゃんな……まず割りと性欲はあったらしく夜はいつも出かけ……そういうことじゃんない?
ああ、葉巻が好きで良く吸ってたじゃんな。それと死霊術師としての才能はそこそこ……だけどそのありあまる力で無理矢理縛ってコントロールしようとしがちだったじゃんな。わりとマルチで才能があって……単純な強さがあり、自力で叶えるだけの才覚はありそうじゃんったな。野望の内容は語ってくれたことがないじゃん」
語られた内容はそこまで深くはなかったが。
野望か……
野望が魔王復活……いや魔王復活に関係して自分の野望を叶えようと?
推測の域は出ない。
その後ウロスはユウレンとカムラさんと共にアノニマルースの観光をしにいくこととなった。
まあ久々に水入らずの会話もしたいだろう。
ユウレンの今の立ち位置も話さなくちゃだしね。
その日は私はそこで別れた。
こんにちは。ホリハリーでフードすらかぶりふだんとは違う格好をしています。
つまり2足歩行。
黒っぽい珍しくはない冒険者の男性服やら線の細さを詰め込んで太くするやら。
頭部のウィッグも男性用にしたのもちろん理由がある。
私は冒険者ローズとしてではなくとある付き人という立場でいるからだ。
大商人らしい豪華な客席に机を挟んでその大商人そのものとも対面している。
だが彼の視線は私に注がれていない。
隣の……大きな人に注がれている。
2mを超す巨体に全身をゆったり覆うローブ。
頭まである布のスキマから黒鱗とその目が垣間見えている。
というかぶっちゃけドラーグだ。
「今確認させましたが、確かにアレはとんでもないもののようで……」
大商人のヒゲおじさんが興奮した跡の汗を拭いながら笑顔を浮かべる。
ドラーグはびくりとしたあとに考えて口を開く。
「そ、そうですか、それは良かったです。実際はかなり薄めて売ることににゃ……なりますね」
もうちょっと自然にお願いしたいな!
途中で噛んだし。
「ええ、とは言っても100分の1に薄めても、深い傷を癒やし行動力を取り戻して、剣を握れるでしょうなぁ。買い手は数多ですし、こちらで市場が壊れないように調整すれば、実に実に」
「そ、れぇ……っと、それと、容器は、使い切りで効果を失ううえ、魔法の解析も、移し替えも難しいですから、そこからも……」
「さすがドラ様。所有権保護の方も申請して下手に複製をしたら違法になるようにもしておきましょう」
いわゆる特許か。
今日は恵みの泉から湧き出る治癒と活力のエネルギーが龍脈によってぎっしり詰まっている水を大商人へ売り込みにきた。
保存が難しくてほとんど長く持たなかったが妖精たちが持っていた少しの間だけ持つ古い水壺に着目した。
ただそのままでは保管出来るほどながくはなく長期的な保管が可能になるまでかなりの試行錯誤をくりかえしてやっと出来たのだ。
私達が使う以外にもニンゲン界への売り込みもかけられないかと考えていたところにドラーグの話を思い出した。
ドラーグはニンゲン界に多くのコネを持っていて商人とも仲が良かった。
出会ってみたらまさか世界指折りの大商会を持つ商人で驚いたが。
私は直接見て売りこみたいのもあったが信用されているのはドラーグ。
なので私がここにいる理由は……
[次は 私の発見が彼の田舎とあなたの架け橋になり、盛り上がるとうれしいです]
[ドラーグ:はい]
「ぼ、私の発見が、ろ、彼の田舎と、あなたのカケハシになり、盛り上がってくれるとうれしいなって……」
「ええ、ええこちらこそ! お坊ちゃんからも、ぜひ故郷にお伝えください」
こんな感じで即席カンニングペーパーを作っては受信機を通してログに文字を送っている。
九尾開発のこの機能はすごく便利だ……
ドラーグの演技がグダっているがそれでもいい感じに運んでいるあたりドラーグの運と信頼性がすごい。
私もペコリと頭を下げておこう。
大商人はヒゲをいじってご満悦。
私がここに直接いる理由はまさに私が代表として来ているからだ。
表向きには『貧困な田舎だが特別な泉があり村とドラーグの協力によって持ち運びが出来るようにされて売って田舎を潤したい』として足を運んだ事になっている。
無口な青年役でボロを出さないように黙っている。
というかドラーグに多くを丸投げすると本当にことがトントン拍子に進むのだ……
私の『村長がまともに出歩けないし息子はその世話やら畑につきっきり、かわりに背丈は少し小さいが青年という歳ではある村長の孫が来た』という設定に関してあまり突っ込まなかったからな。
いやまあ貧困な村だとどうしても栄養の少なさで背丈の発達をあまりしないことはあるが。
140cm代の男性青年でなんとかゴリ押せるとは。
あっという間に高額で定期的な収入が得られそうで恐ろしい。
年単位で見れば私達が冒険し稼いだお金が『まあ個人なら頑張ったよね』となる程度。
私達の命がけが……いや嬉しいのだけれど複雑だ……