三百三十六生目 弟子
「はぁ〜……大体話はわかった。師匠かと思ったけれどやっぱり師匠だったのね」
「そうじゃん」
空きテントの中に4人集合して座る。
ユウレンが大きいため息をついたがやはりウロスさんだとわかったらしい。
「なんでウロスさんだと彼女をひと目でわかったんですか?」
「強いて言うなら……雰囲気ね。なんというか他者には真似出来ない雰囲気が漂っていたもの」
「うちの弟子は優秀じゃんなー」
多分雰囲気に関しては褒めてないと思うよウロスさん。とはとても言えず。
とりあえず話を進めることにした。
カムラさんがごく自然に注いだお茶を飲む。
「おお! ウロスの好きな茶じゃん!」
「特別に出させてもらいました」
カムラさんがウロスさんにペコリとする。
見た目だけで言えば幼い子に敬服しているおじさまと言った様子で混乱しそうだ。
「まあ来てしまったのは仕方ないわね。聞きたいことがあったのよ」
「なんじゃん? 恋の相手なら、やっぱりマミー系が個人的にはイケて――」
「アンデッドへの個人的な恋愛事情の話じゃなくて、カムラのことよ」
今さらっと包帯男系の話がなんたらと聞こえたが聞かなかったことにしよう……
カムラさんの名前を聞いてウロスは思いの丈を止めてくれた。
「あー、なるほど、カムラの話なら確かにこのウロスに聞くのが早いじゃんな」
「そう。カムラを作った際にその顔、何か参考にした?」
「したじゃん」
や、やはりか!
あっさりその答えが口から跳びてたウロスは周囲の驚きが理解出来ずに首を傾げている。
「そ、それで誰、誰を参考にしたの!?」
「うん? んいやあ、昔いたなかなか見どころの有る生意気な弟子をモデルにしたんじゃんよ。逆に従順なタイプにしてやってバカにしてやろうと思ったんじゃん」
「さ、さすが師匠ね……」
色々と問題発言な気がする。
それにしてもこの師匠に生意気と言わせるとは……
「まあここまでちゃんとした子が出来るとは期待以上だったじゃん! そうあれと願いはしたじゃんが、ここまでしっかり自分の足で歩ける子で助かったじゃん!」
「恐れ入ります」
「性格とかも細かく自分でいじれたりするのですか?」
私の質問にウロスはうーんとうなる。
「簡単というわけではないじゃん。そもそも自由意志を持っているから、ウロスから勝手に学んだり、おかしいと思ったら離反するかもしれないじゃん。
生まれた瞬間に大雑把に、そう、根が真面目くらいはあっても、ここまで育つかはその後の彼の学習成果そのものじゃん」
ウロスはカムラさんを見て笑顔になる。
自慢の息子……ということなのだろうか。
見た目は逆なのだろうが。
「ええ、こう見えても私、実はひとり旅に出たこともあるのです」
「あの時は驚いたじゃん! いきなり許可求めるじゃんも!」
「意外だ……」
ケラケラとウロスさんは笑った。
私がこぼした言葉にカムラさんは頷く。
「まあ当時はなんとなくでしたが……今から振り返ると、創造主が良くするという旅に、話を聞いていて憧れたのでしょう」
「数ヶ月いなかったわよね?」
「ええ。今ではやってよかった希少な体験でした。その時に色々と出来る斧は便利でしたね。木を割ったり敵を割ったりして過ごしましたよ」
なるほどカムラさんの斧のルーツはここからだったか。
おっとそうだ。
話が脱線していた。
「それで話は戻りますが、その元になった弟子さんの詳しいことや名前などは……」
「あー、いや、知らぬじゃん」
「あら、ちゃんと記憶が受け継がれなかったのかしら?」
ユウレンが悪い笑みを浮かべる。
ウロスはそれを特に気にするでもなく否定した。
「いんや、よく覚えているじゃん。むしろなんもこっちに教えずに、挑んできて返り討ちにして、勝手に弟子にしろって生意気を言ったのがアイツじゃん。それまでは弟子なんてとった事なかったし、呼び名は『弟子』だったじゃん」
「つまり私の先輩、弟子一号だったのね」
ユウレンが解釈しウロスは肯定した。
ただこれって情報がほとんど無いなあ。
「そこそこ若い頃に出会って、ウロスが転々とする間にもついてきたじゃん。まあ、カムラくらいの顔のころに別れていなくなったじゃん。あの弟子は実力だけはあったじゃんから、心配はしなかったじゃんね」
「ふむ……」
言うべきか言わざるべきか。
ウロスさんはその弟子さんを信用しているようだが今は……
カムラさんとユウレンと私の間に視線で合図が走る。
「師匠、話があるのだけれど」
「何じゃんさっきから話しておるのに?」
「実は……」
ユウレンを筆頭に私たちは魔王復活秘密結社とそれに携わっているかもしれないお弟子さんを見たという話をした。
ウロスは見た目はともかく実態はおばあさんだ。
真実を知り自身で処理出来る思考と権利はある。