三百三十二章目 競売
人ごみを見つけて入り込んだ建物。
その中はあえて薄暗くしてあるようだ。
足元注意の表記を何度か見た。
のろのろと先へ進みとあるところで椅子が並べられた場所につく。
みなバラバラに座っているので私達もお邪魔しよう。
大量に椅子があり少し遠くに舞台があるとするとここは見世物小屋というやつかな?
チケット支払っていないのだがいいのだろうか。
そんなこんなしている間に舞台上にニンゲンがやってきた。
舞台前挨拶かな。
「本日はどうぞおこしいただきありがとうございます! 最近は巷ではウワサが色々とありますが……我々には必須の労働力です。今回も皆さんを満足させる品をそれぞれ用意しておりますので、どうぞごゆるりとご覧ください」
ふむ、買い物?
労働力……奴隷かな?
「ああ、何が行われるかわかりましたよ」
「え、一体なんなんです?」
「よく知っているものの売り買いですよ」
含めた言い方のまま会話が終わってしまった。
やがて観客たちの拍手と共に舞台袖からニンゲンたちが歩いてくる。
その後ろについてきたのは……
「ああ、スケルトン!」
「労働力といえば彼らです」
何体ものスケルトンたちが揃いも揃って良い服を着込みその力を誇示するように骨を鳴らしポーズを取っている。
私達の群れ内ではユウレンが作成と管理をしているためニンゲンの街ではどうなっているかは知らなかった。
ということは連れてきたニンゲンは死霊術師なのか。
「さあさ、1番は家事全般が得意です。湯沸かし、洗濯、簡単な料理も作れます! 開始2000から!」
「2000!?」
びっくりした。
2000シェルはつまり約20万円。
確かに便利そうな骸骨だがそんなにするのか!
「ええまあ、一般死霊術師が作るスケルトンで売り払われ切り離されても、飼い主がうまく使えば5年以上は持つこともあるそうですし、1年程度なら死霊術師がアフターサービスしてくれます。
かなり安価な労働力ですよ」
「そ、そう聞くとなんとなく確かに……」
ユウレンが本来は超金持ちだった理由の一端がわかった。
あちこちから競りのように値段が増えて行き最後は3000シェルで落札された。
その後も競りは続く。
戦闘用、建築用、畑仕事用……
種類は豊富で存外私は見ていて飽きないし骸骨たちのアピールも死霊術師たちがやらせていると思うとちょっと笑えてくる。
ただ……カムラさんはこういうの見てて面白いのだろうか。
「カムラさん、カムラさんは正直こういうのがあまり良くないと思いますか?」
「おや、どうしてですか?」
「いえ、カムラさんはその……種族的に」
アンデッド同士だから。
そう言いたいのをカムラさんが察してくれてにっこりと微笑む。
「なるほど、確かに良い疑問ですね。ですが、答えを言うとつらいとか困るといった物は一切ないですよ」
「そうなんですか?」
「ええ。ローズさんは知らないネズミが売られる様を見ていてどう思います?」
知らないネズミ……
前世のペットショップに並ぶハムスターを想像する。
寝ていたり回し車で走っていたりキュート。
「見ていて飽きませんが、良い飼い主にあたると良いね、ぐらいですかね」
「そうですか。実は私もこの会場で感じていることはほとんど同じです。大枠としては同じでも、種族や立場など何もかもが違いますから」
「なるほど……」
カムラさんにとってはペットショップではしゃぐネズミたちを見ているだけのようなものか。
少し胸のつかえが取れた気がする。
まあ確かに骸骨たちも正規の手段で呼び出せば種類としては骨の魔法像だ。
アレには死者の怨念を縛り付けて云々というものはない。
実に良い労働力となっているんだろう。
それと買われてからがちょっと面白い。
頭に被り物をするのだ。
深くフードのようなものをしたり仮面をつけたりして頭を隠す。
なるほど町中で骸骨を意識しなかったのはこれが原因か。
確かに素顔のままたくさんいたら年柄年中ハロウィンだ。
この世界にハロウィンがあるかはしらない。
かなり売り手がついてきて競売が後半戦に差し掛かる頃。
なぜだか入り口近くが騒がしくなってきた。
中のニンゲンはほとんど気づいていないが。
「さあ次の商品は、どんな重い物でも運びます、重量型の――」
「そこまでにしてもらおう!」
会場入り口側から聞こえた声に一堂どよめく。
ツカツカと複数の歩く音が聴こえるが同一の靴から響く音。
そして彼らは確かに同じ白い衣を纏っていた。
「これはこれは……どうも光教の宣教師のみなさま」
明らかに不穏の気配が強く漂っていた。
司会のニンゲンの声は表面上取り繕っているがザラツキが感じられる。
敵対しているのは明確だった。