二十一小隊活動記録#01 鬼隊長、化ケル 前編
とある時間に……
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過去のこれをみるとたのしいとのこと
二十一小隊活動記録#01 鬼隊長、化ケル
我々は四つ脚の畜生共とは違い高度な社交界を構築するものである。全ては群れのために、全ては女王陛下の為に。ああああ。よし。今日も我が輩の声は美しい。うむ。今朝もビシリとトサカが決まっているではないか。群いちの美声を持つ【鐘】が大木の上で刻を告げる。
二一小隊隊長の一日の始まりである。
……とまぁ、かっこつけてみたものの。
隊長といえど、我が輩は軍ではランクが下の方、二一小隊は餌取り職【ランカー】のうちさらに下っ端の集団だ。
我が輩はリーダーを仕方なく引き受けているだけだ。
ラブソングも戦闘も下手な下っ端となると総じてリーダー格になるやる気もなく、女王とのロマンスをとうに夢見ることすら諦め、群れから追い出されない程度にやる気を見せるといった次第だ。
責任を持たざるを得ないうえに死にやすい隊長の仕事など誰もやりたがらない。
我が輩が隊長になったのはいちばん歳だからというしょーもない理由ではあるが、みなではぐれコッコに逆戻りすることはどうしても避けたい事態だ。
「コラーー!! 起きろーー!!」
「いだー!」「ねむい!」「隊長がきたぞー!」「尻を隠せー!」
とうに朝日は昇ったというのに惰眠を貪っていた21小隊隊員どもの尻を[キック]して回る。
ぶつくさ不満を垂れる部下たちを引きずって、さて、仕事だ。
*
仕事を開始して暫く。日は中天を超え、鳥籠のなかに木の実が少々たまったころにトラブルはやってきた。
「たいちょー! たいちょー!」
遠くから部下の呼び声がしたので慌てて向かってみれば、そこには――
にんげんのひよこ。
ニンゲンは羽毛も毛も生えてない柔らかいトカゲのような皮膚を持つケモノである。
その幼体だ。生まれてしばらくはたっているらしく我らよりもずいぶん大きい。
何故こんなところにいるんだ。
おい、ちょっと待てよ。
ニンゲンのひよこは真っ青になっているし、ガクガク震えている。
「死にそうになってるではないか!!」
とりあえず部下は[キック]しておいた。
我々の声は呪いの声だ。
我々に仇なすものを退ける祝福の歌である。
まー、ようは、聞くと呪われるのである。
運のいいことに我々は下っ端なので歌は下手で声量は小さいため死ぬほどではないのだが……裏を返せばあまり外敵にダメージを負わせられないということでもあるのだが。
呪いは美声であればあるほどその祝福を増すのだから。
ちなみに呪い付加はスキルさえとれば外せるのだ。
なお我々は他のけものどもとは意志疎通をとらぬ孤高のモンスターであるためまったくもって必要としないスキルである。
"祝福反転""隠密""静粛""ノイズキャンセラー"
使うのはこれら。
周りの部下にもかけておくのを忘れてはならない。
行動力消費は少ないスキルだが部下たち全員にかけるとなると老体にはなかなか堪えるものだ。
ちなみに我が輩がこのようなスキルを持ってるのはくちばしが黄色かったころに『他のやつらとは違う事をしてやるぜーオレはオレの道をいくんだー!』とスキルポイントを盛大に無駄遣いした結果だ。
戦闘系スキルを取らなかった末路がその後の下っ端運命を決定付けた。ハッハッハ、笑ってくれたまえ、そこの君。
「うえー、変な声になった」
「僕の美声が……聞くに耐えないダミ声に……」
「いやぁああ! 気持ち悪いぃいい!!」
部下たちの反応は著しく悪い。ブーブー文句を垂れるうるさい部下共の尻を蹴飛ばして黙らせておく。
さて。
「ニンゲンってうまいの?」
「どーだろう?」
軽率な部下たちが鳥籠を解いて警戒心もなくニンゲンのひよこをツンツンと足先やくちばしで軽くつついている。
ニンゲンのひよこの顔色は戻っていて、まるい目を見開いて我らを眺めている。
「○○! ○×○!?」
ニンゲンのひよこが鳴き声をあげた。
一匹の部下がニンゲンに脚を掴まれた。
振り回されている……
「ギャー! 殺すー!!」
「だめだ、落ちつけ。黙ってニンゲンのおもちゃになっていろ。ニンゲンを傷つけでもしたら貴様のトサカをもぎ取るぞ」
「隊長にはプライドがないんですか! ニンゲンのガキにいいようにされてるんですよ」
「モンスターがニンゲンのひよこを殺したとなれば我らの群れの危機となる。高等なモンスターはニンゲンを襲わぬものだ。このまま放置すればまずい、我らの残滓で、我らが誘拐犯だと誤認されかねない――ニンゲンのところに戻しにいこう」
「ぎゃー! 羽がむしられてるー! ハゲになるー!! タスケテー!」
大騒ぎする部下たちを――我が輩は部下ごと軽く蹴飛ばした。
部下が抗議の声をあげるより早く、さっきまでニンゲンと部下がいた場所を鋭い爪が割いていた。
ダン!
「グルルルル!」
荒々しく地を掻いたのは鋭い牙をもった四つ脚のケモノだ。
ニンゲンのひよこが迷子でなくここにいるということは攫ったモンスターもいるということだ。
失念していた。こんなに近くにいるとは。
祝福の声を消していることが徒になった。
……逆か。我々がうるさかったからさっきまで離れていたのだろう。
四つ脚のケモノが地をかきながら吠える。
どうやら『これはワタシのエサだ!』とでも主張しているのだろう。
「下等なケモノがニンゲンの味でも覚えたか! それとも気まぐれか? 愚か者め! 冒険者に狩られて毛皮を地面に敷かれるのが貴様の運命だ!」