三十一生目 蜜蜂
ハチが上空を覆い尽くした!
[ミブンバチLv.8 状態:無恐怖 異常化攻撃:毒]
[ミブンバチ ハチの中でも比較的大人しい。いざという時は百を越える大群で巣を守る]
空から急降下してきたハチたちを私は影避けで迎える。
相手が二匹、影に突っ込んでいくスキに炎の爪で斬った。
熱したナイフでバターを斬るようにすんなり切り裂くと一瞬で炎がハチの身を包んで絶命。
息つく間もなくハチが襲ってくる。
攻撃方法は高低差を活かしたダイビングアタック。
高いところから低い所へ加速しながら落ちる威力はレベルの低さに関わらず危険だ。
なによりそれが連続で何度もなんども来る。
シールドとスタッドボーンで衝撃を和らげつつ反撃。
私はそれを切らさないようにしてとにかく仲間たちを支援する。
熱で斬るなり突くなりすればたいてい蜂は斃れてくれるため、私は補助と回復だ。
それにしても無恐怖状態はダテではなくて足元に多くの仲間が転がっていても躊躇せずに突っ込んでくる。
突っ込んだ後はこちらを取り囲むように動くため、互いに背後を取られないように固まって動く。
数ですり潰そうとするようだが私の行動力節制スキルで行動力が足りるように動いている。
ヒーリング程度ならインカ以外みんな使えるというのも大きい。
普通ならパーティ維持のために余裕が減ってきて生命力か行動力が犠牲になり底をつく。
それをスキル構成や私の全体化技術で防いでいるわけだ。
もはやブンブンという羽音が全面を覆い尽くしている。
こちらが一振りするたびに敵が落ちるもののキリがないな。
……にしても、ここまで来てなぜか敵が針を使わないことが謎だ。
むしろハチといえば針みたいなものなのだが……
毒攻撃もそれだろうし。
あ、もしかして。
こいつらミツバチタイプなのか?
これだけ大きく黄色と黒色のシマシマでいかにもと見せているが、ミツバチなのか!
ミツバチは自身の針を使えば針が抜けて絶命してしまう。
恐怖は無くとも針を使って死ねば巣を守るという使命は果たせない。
ちょっとした毒を与えて死ぬぐらいならば直接殴る方を選ぶのは合理的だ。
ミツバチは毒キノコに似た無毒キノコみたいな危険さをアピールして生き延びるタイプだから、虚勢でも力を振りかざせば良い。
針が必殺どころか自身が死ぬみたいなものだから、木に守って貰えれば良い。
合理的に生き残る道を選び、進化をしていくのはすごく虫らしい。
ついでに虫は脳とかもだいたいない。
無敵が効かない相手だ。
インカがヒャッハーとか言いながら生きいきと切り裂いている。
こわいわー、モラルの勉強をもうちょっとしたほうがいい。
「インカ兄さん、前に出過ぎ」
インカに私がサウンドウェーブの声変換で届ける。
実は最近ひたすらこれと似たような事をしている。
インカ兄さん、ハック弟くんとセットで言って名前の刷り込みだ。
最初はかなり謎をぶつけられたが、今やすっかり自分の名前だと言うのが浸透したらしい。
ちなみにインカとハックの発音は私が練習して再現した日本語だ。
「ハック弟くん、インカ兄さんをフォロー」
「わかっ……」
ブンブンブンブンと羽音が響く。
もう返事もなかなか聴こえない。
もちろんこの音もわざと出して妨害しているんだろう。
本来なら連携も取れないが私がサウンドウェーブで無理矢理直接届けている。
おかげで隊列が乱れずに済んでいる。
にしても数が減らない。
実際には圧倒的な匹数も減少してきているはずだ。
私が全体化ヒーリングをかけなおしたりしている間にもハートペアがポロポロハチを落としている。
敵も無限じゃないし、この状態だと木は妨害しに来れない。
影避けで斬る。
フレイムボールが爆ぜる。
全体化シールドで防御をかけ直す。
私はもう目が回る忙しさだ。
……やっとレーダーに映る数が減った!
終わりが見えてきた!
「みんな! ハチの増援が尽きてきた! あと少しだ!」
あと少しかどうかはわからないが、そう言わないと心が挫ける。
私の行動力だって限度はあるし、仲間も単純な攻めを繰り返すだけだがいつかは尽きる。
それと、疲れる。
スタミナ的な面でも限度はある。
それでも、疲れた味方を下がらせたり私が代わりに前に出れば何とかなる。
空中を含め全方位から攻められていても何とか下げれるところがある。
それが敵の亡骸だ。
もはや数えるのが馬鹿らしいほどあるため盾にできる。
即席バリケードで何とかなるわけだ。
ハチたちには数以上の突破力がない。
緑色の体液を撒き散らしその液体すらも炎で蒸発する。
何とも言い難い悪臭が場を埋め尽くす頃にやっと。
やっと最後の1匹を斃した。
もちろんこれで終わりじゃない。
死に体とは言え木が残っている。
これほどまで強い相手だったがここで油断すれば不意に死ぬ事もある。
それだけは避けねば。
たっぷり時間がかかったせいで木の生命力もほぼ全回復している。
そこからの木の抵抗は激しかった。
誰だって死んでしまうとなると必死さを出さずにはいられない。
行動力も根から何か吸い上げているのか回復はしているものの全快にはほど遠い。
もはや行動力が尽きて動けなくなるんじゃないかと言う段階まで枝葉を振り続けた。
けれどいつかは尽きる。
「はあ!」「やあ!」
ハートペアの息の合った連携で牙が刺さり、ついには大きな音を立て命尽きた。
聴くものに大きな悲しみを抱かせるような咆哮。
まあ私たちにあったのは疲労感なので情もへったくれもなかったが。
そしてメキメキと大きな音を立てたあと、ついには動かなくなった。
「やった……勝った!」
ハックの声に合わせ、全員が雄たけびを上げた。
そらーもうテンションが上がって叫ぶよ。
だけどこれからが大事な時。
女王様にご対面だ。
木を炎の爪で切り倒す。
そして上の蜂の巣ごと倒れた。
あまりにも大きかったため一部壊れてしまったがまあ許容範囲。
そして中からモゾモゾと何かが這い出てきたかと思うと飛ぶことすらなく目の前に現れた。
先程のハチたちより一回り大きなそれ。
特に腹部が肥大化している。
あれでは飛べないだろう。
[ミブクイーンLv.3 状態:通常 異常化攻撃:なし]
[ミブクイーン ミブンバチたちの女王であり産みの親。自らの戦闘能力は皆無だが群れを統率し攻める。]
なるほど、それがさっきの無恐怖状態かな。
そして私たちは戦闘能力が皆無の意味を知る。
出てきた女王蜂は何をするでもなくうろうろとし、私達が身構えているとそのまま巣を登り始め。
そして。
凍え死んだ。
ハチたちは寒さの中、動きが鈍りながらも抵抗はした。
しかし女王蜂はそもそももう戦うという思考が残されていなかった。
虫の合理化の一つかもしれない。
そしてハチは冬の間は巣の中で集まって体温を維持しているという。
仲間が全滅すれば女王蜂だけではもうどうなるか、わかりきっている。
それでも女王蜂が自ら出てきて巣を登りだしたのは、最期の意地だったのかもしれない。
せめて自分だけは思い通りにはならないと。
この後蜂蜜狩り成功祝いにめちゃくちゃ蜂蜜まみれになった。
蜂蜜は巣の中から地道に掻き出しつつ使うこととなった。
大きすぎるから運べないのと、絞る機械が無いこと。
それに穴が大きいからちょっと壊せば誰でも取り出せるんだよね。
近くに火を焚いて一応他の獣が寄らないようにした。
ある程度は許容範囲だが限度はある。
それにしても恐ろしいほど蜜が詰まっていた。
これでしばらくは甘味に困らないだろう。
早速コレで縄文クッキーを作った。
「凄い! めちゃくちゃおいしい!」
「お腹がもたれるほどハチミツ食べたけれど、こっちならもっとイケる!」
と、インカとハックに好評だった。
蜂蜜はそのままだとクドいもんね、特ににおいが。
TIPS
ホエハリ族はにおい好き:
ホエハリ族は言う味わいとは多くはにおいの事だ。
においをメインに舌に乗せた食べ物の味を少しだけ乗せて合計として味として見るよ。
あまりににおいがキツイ食べものはホエハリ族は苦手だ!