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外伝 魚を食べよう

ここは物語の狭間の物語

どこかにあるひとつのお話




 儀式を始めよう。

 トラウマ克服儀式だ。


 ここに取り出したるは死亡済みで血抜き等の処理を行った(イオシ)

 こう落ち着いて見るとおとなサイズだと魚の中でもそこそこ大きいのは魔物だからか。

 鮮度が高く今にも泳ぎ出しそうだ。

 泳ぎだしたら頭を破壊しよう。


 背は青く腹は銀色に光っている。

 パツンと張った肉からのりにのった脂のノリが伝わってくる。


 ホエハリのとき発明した炭は実はだんだん質が向上している。

 その炭をこちらもホエハリ製陶器の容器に詰め込んだ。

 弱めた炎魔法で火をつける。


 あとはゆっくり仰いで炭を熱していく。

 陶器の容器のふちに細く伸ばした針を抜いては交差するように並べていく。

 金網がないから代用にね。

 充分に針も温まり炭に均等に熱が通った。


 イオシには軽く塩だけふってある。

 針網に3尾並べる。

 針網にイオシの身体が触れたとたんジュワと焼ける音が耳を楽しませてくれる。


 さてまだ焼けるまで余裕がある。火の番もしながら大事なものを準備する。


 “白かずらの実”

 見た目は瓜なのだがその実。

 味はさっぱりしゃきしゃきしてまだ熟していない若い実は辛い。


 熟していない白かずらの実を収穫したときイタ吉なんかは『熟れたほうがおいしいじゃん』と不可解そうな目を向けてきた。

 ふふふ、後悔するがいい


 まず白かずらの皮をナイフでむいて種をとる。

 前足の手のひらにあたるところに小さい針をびっしりはやして白かずらの実をザリザリと撫でた。


 ザリザリザリザリ。


 雪のような白かずらのすり下ろしが出来上がっていく。

 できたすり下ろしを味見。

 うんピリ辛!


 白かずらおろしを作っているうちにじゅわぁとイオシの油が金網を通り過ぎて炭に落ちるいい音が聞こえてくる。

 香ばしい匂いが漂ってきた

 あっ、いつのまにかイタ吉が後ろでそわそわしながら待機している……


 身を崩さないように3尾をひっくり返す。

 いい網目模様の焼き跡とともに焼けた油のいい匂いが鼻をくすぐる。

 お腹がすいてきた。

 白かずらおろしの余計な水分を絞って捨てて陶器のお皿にその白かずらのおろしを三角錐のかたちに盛る。


 よし。あとは待つだけだ


 摘まみ食いしようとしたイタ吉の前足を尻尾ではたき落とす。

 一尾あげるから待ってなさい


 そっと伏せて網の下から焼け具合を確認する。

 そろそろいいかな。


 崩さないように更に炭焼きイオシを盛り付けて。

 忘れてはいけないのがこれだ。

 わたしが取り出したのは小瓶である。

 蓋を開けて独特の香りのする黒色の液体を少量かけた。


 さて、実食だ。


 "変装"で指を変化させ器用にしておく。

 木の枝で作った自家製お箸で炭焼きイオシの身を一口分はがす。

 私は骨まで食べられるのだけど雰囲気は大切だ。

 骨はあとで食べる。

 それにすこし白かずらおろしを乗せて、ぱくん。


 香ばしさと甘さ。

 それよりも感じるのは旨みだ。

 油と身がうまい。

 くどくなりそうな油もピリ辛の白かずらおろしが中和して純粋に旨みだけを舌に伝えてくる。


 おいしい。


 身体の半分の身を食い尽くして、さてひっくり返す前に……

 お腹の柔らかい部分。

 箸の先端で細かい骨を避けながら濃い色をしたイオシのモツをほじくり出す。


 あ~うまみだ~

 栄養と油のうまさ、苦み。おいしい。

 お酒(パイロンのミ)がほしい。

モツを味わったあとはひっくり返して後半戦だ。

 頭と骨だけ残っていくのはちょっと寂しくもある。


 やがてイオシは骨だけになった。

 人間だった時と違うのはこの次があることだ。

 骨も頭も口に放り込んでバリバリとしっかり噛み砕く。

 喉にささったらイヤだしね。

 残ったモツのうまみ。

 ヒレと尾が香ばしくパリパリしている。やがてお皿はすっかり空っぽに。

 ごちそうさまでした、っと。


 イタ吉はというとイオシを頭から丸かじりしたあげく白かずらおろしを同時に飲むように食べた。

 野性的に正しくはあるが風情も何もないな!

 ただ『ん! うまい!』と白かずらおろしも褒めていた事は良しとしよう。


 コレでトラウマ克服の儀式は終わりだ。

 私は改めて過去を食べたのだ。

 そうこれで! きっと! 魚が多少平気になったはずだ!!


 はぁ。なんとかおいしかった。

 舌は嫌悪を示さなかった。

 またいつか食べようかな。

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