三百三十生目 劣勢
「異常な昇進……ですか」
私の冒険者ランクが最低のAマイナスから一気にLへと増えた。
ほか二人も同じような大上昇。
たしかにコレは……
「お察しの通りキミたちの力によって例の魔王復活秘密結社たちを抑えさせたいがためのランク贈与さ」
「なるほど」
「高ければその分こきつかえるからね。その代わり権力も与えられるが、権力はできるだけ渡したくない。そのせめぎわでこうなったわけ」
「オウカさん、だからそういう事言わなくていいです」
「……なるほど」
カラカラと軽く笑いながらオウカが話すのをゴウがツッコミに回る。
オウカの笑いはどちらかと言えば嘲笑のようでもあった。
上の態度に不満というあたりか。
「権力というのは?」
「まあ詳しくは紙に書いて渡すけれど、ざっくり言うとキミたちなら小さな町の長くらいはあるよ」
「本当にざっくりですね……」
「す、すごい、町長クラス……」
「あくまで例えです、例え」
バローくんが震えだしたがそのうち止まるだろう。
それにしてもそうか。
私達を本格的に冒険者ギルドの高難易度依頼にあてる気か……
「やはり高ランク冒険者って不足しているのですか?」
「うん、痛いところつかれたね!」
「各地が荒れるほどに高難易度依頼は頻発するわけですが、対して高位冒険者は少なすぎて……」
「みんな冒険者として実力が上がる前に、引退したりしますしね……」
「私達のように長期スパンでの依頼に備えるものも少なくなく、危険すぎるものはすでに稼いでいることが多い高ランク冒険者は、わざわざ挑まないことも多いですね」
安全第一は結構なことである。
冒険するにも確かな足場があればこそだ。
まあわざわざ大成してまでイヤなことはしないよなあ。
「まあ、それはそれとして冒険そのものに挑みたい奴らは絶えないんだけどね!」
「そうですね。ただ、きつい危険きなくさいというのはどうしてもありますし、そういうものこそ必要とされるのが、現実ですね……」
いわゆる冒険者3Kというやつか……
どこの世界も似たようなものはあるらしい。
「それと、最近高ランク冒険者の死も多くなっている」
「ええっ!?」
「うん? そこまで珍しいことなの、バローくん」
「は、はい。ですよね?」
バローくんが震えていたのがさらに別の理由で震えだした。
危険な依頼を受けるのならばいかにも死亡率は上がりそうだが……
「ある一定以上の強さ……まあ熟練冒険者とよばれるほどになると、常に退路を確保し盾になった仲間は高い金を払ってでも蘇生させられる」
「蘇生屋さんですね」
「それに自前で蘇生できたりそもそもの強さや知識がケタ違いでそもそも致死ダメージを負うことがあまりない。
冒険者としてのカンも抜群だからね! まあ全部私達のことでもあるんだけれど!」
今度は明るく笑っている。
じ、自慢だった……
とは言え確かにそうなるのか。
「そして、それでもパーティーが全滅するところがそこそこ発生するようになりました。最近では、猛進の牛刀のところや……」
「ええ! 猛進の牛刀!?」
「金鷲讃歌なんかもやられたようです」
「えええ!! 金鷲讃歌も!? な、なにがあったんだろう……」
「こちらも調査中ですが……多かれ少なかれ魔王復活秘密結社が絡んでいるでしょう」
さっきからバローくんが大げさなリアクションしてくれるのでわかりやすい。
どうやらかなりの有名所が沈められているようだ。
ああそうだ。
「深獄探索記を書いた我竜銀河は知りませんか? 昔の本ですがギルド自体はまだ活気的だって……」
「先日、そのギルドトップグループが行方不明かつ蘇生班の探索が打ち切られた報告が上がっています……」
「そ、そんなぁ」
本を読んで憧れたチーム。
本のメンバー自体は既に引退し死去もしたひともいるそうだが巨大ギルドとなって強豪集団になっていたはずだ。
改めて危険さをつきつけられたからか気持ちが悪くなってきた。
「ま! そんなわけで絶賛人手不足。駆り出されることは覚悟してね。それに活躍の評価はマジメだから」
「今回の件はやはり直接話を聞けて良かったと思います。書面上では色々と控えめに書いてありましたからね」
「私一応剣士扱いなので、破綻しないようにまとめるとどうしてもああなってしまって……」
「まあ、苦労の跡は確かにあったよ。だからこっちで『解釈』の余地があったわけだし」
どうしても難しいところであるんだ。
まあ正確に裏を読み解いてくれたようで良かったけれど。
「今後はジャンジャン危険依頼渡すからね!」
「ええぇ……」
「コレは本当にこちらも頭が痛いのです。迷宮はやはり危険ですが問題も多い。
生活のいたるところを迷宮品に頼っていることも事実ですから放置するわけにもいきませんし、本当に魔王が復活したらシャレにならないですからね」
「ですね……」
結局ゴウの言葉に納得するしかなかった。
安全に楽しく生きることを謳歌できるのは。
いつの日なのだろうか。