三百二十九生目 昇進
夜。
約束の時間になったため街壁内への入り口に立っていた。
バローくんが眠そうにあくびをする。
「冒険者ギルドから招待されました」
「ん、コレは確かに。どうぞ」
入るには見張っている衛兵に蝋が見えるように手紙を見せれば良いとも書いてあった。
正式な冒険者ギルドの蝋は言われた通り強い力があるらしい。
すぐに扉を開いてくれた。
冒険者証を預かるということなので渡す。
後で更新して返してくれるらしい。
中へ入りそのまま客室へ。
予想通りふたりの人影。
「おお、これはどうも」
「おや、お久しぶりです」
カムラさんが挨拶したのは全身を輝く特殊な鎧で身を包み顔も覆われているオウカ。
「あ、あの時の!」
「その節はどうも」
バローくんが反応したのが人狼衛兵……として潜入調査していたゴウだ。
予想通りの面々だ。
魔王復活秘密結社周りの話を出来る者……となると限られるからだろう。
「夜分遅く済まないね。なにせほら、魔王を復活させようとする輩に追われていてね。とりあえず座っちゃって」
「あ、はい」
オウカに勧められるまま全員座る。
向かい合うように座って話し合いが始まる。
「さて、面倒な事は抜きにしよう。私たちは互いの秘密を知っている、そうだね」
「ええ、こちらも話は伺っています」
「先輩冒険者さんなんですってね! 会えて光栄です!」
「そして私たちはローズさんが魔物だということも知っている、ということでよろしかったですね」
「ええ」
オウカにカムラさんそしてバローくんとゴウに私。
5者の対話だ。
「改めてあなた達から直接魔王復活秘密結社相手の話を聞きたいと思い、私達で直接出向きました。書類にのっていることでもいいので改めて説明してください」
「ええ、では」
そこから改めて事のあらましを説明していく。
紙面上ではざっくりごまかした解決したときや相手の強さなんかもこと細かく。
特に最後の魔王復活秘密結社の相手と出会ったのは私だけなので念入りに。
「……かくかくしかじか、ということですね」
「ふむ、それで顔は見たのかい?」
顔か……
見たけれどカムラさんとそっくりだというのいいづらいな……
私の視線に気づきカムラさんが頭にてをかける。
え。もしかして。
「顔は、私とそっくりだったそうですよ」
「カムラさん、良いんですか!?」
「ええまあ、私ではないのは調べて貰えばわかるので……
それに彼らには隠す必要もない、みたいですので」
カムラさんが目を覆っていた隠しを取り見開く。
ほうという声がふたりから上がった。
死者の目は濁っているからだろうか。
「確か……リデッドゴズ。しかも正気を保っているとは」
「よほど高名な方に作られたようで」
「ええ。ただその際に創造主が参考にしたのかもしれませんが、私の顔にそっくりな相手が、犯罪に手を染めているようなので」
細かく当ててきた。
さすが熟練冒険者だ。
「あまり死霊創作には詳しくないのですが、具体的なイメージ想定に実在人物を使った……とかですかね」
「まあ絵とかも見て描いたほうが良いしね。人間の死霊術師の得意とする死霊型が人間型なのは自分自身を想定できるからだったはずだし」
「そういうものなんですねえ」
バローくんが私の気持ちもついでに代弁してくれた。
ユウレンにまかせているからなぁそっち系は。
「ともかく、その顔すこしスケッチ取らせて。こっちでも追ってみるから」
「よろしくお願いします」
「あれ、意外に疑いがなく話が進むんですね」
「まあ、こっちはそっちの身の裏はまあまあ調べていたうえ、今回の情報があれば詳細もわかるだろうし、それなのに誠実な対応をしてくれた時点で……ってことさ」
「ですね」
オウカの言葉にカムラさんが頷く。
なるほど僅かな間に濃密なやり取りが。
その後いくつか魔王復活秘密結社周りで質疑応答があって……
「よし、こんなところかな! そろそろ肝心のものを渡そうじゃないか!」
「ということは!」
「うん、昇格おめでとう! これが書面だ!」
丸められた紙を人数分渡される。
触っただけでわかる紙質の良さを実感。
技術力が比較的そこまで高くないこの世界で良い質だとパッとわかる紙を使うとは……
自然に緊張が高まる。
固く丸められた紙を慎重に平らに戻す。
そこに大きく書かれていたのは……
「ランク……L!?」
「僕はランクJだなんて! すごい!」
「ほほう、ランクKまで跳ね上がるとは」
私たちは最低ランクのAマイナスでバローくんでもAプラスだった。
最下級から一転いきなり大量昇進。
バローくんの話によると本来はAマイナスならAになり飛び級でも2つか3つ程度らしいが……
「悪いね、私達よりもまだ下のランクで」
「いえいえ、そんな!」
「さすがにこれ以上の異常な昇進は不可能でした」
「やはり、異常なことなのですか」
「はい」
ゴウはカムラさんの言葉に肯定した。