三百二十五生目 鞭剣
伝説の職人!
バローくんが驚いているがどれほどすごいことなのだろうか。
「その魔獣奪魂というのは?」
「ええ、彼の二つ名なのですが……そもそも彼は多くの武器に種族ごとの特攻……つまりすごく効く武器を作り出していたのですが、伝説の武器であり二つ名のもとであるソウルイーターは、"魔物特攻"というすべての魔物を斬り裂いてしまう大鎌を作り出したんです」
「そ、それはすごいし恐ろしい……」
「ああ、いや、本当は魔物に愛される武器を作りたいんだがうまくいかなくてな……その副産物だ。もしもの時のために未だに国庫に眠っているらしいが、ちゃんと手入れしてやってくれているのか……」
色々ととんでもないニンゲンだった。
狙ったものはまだ出来ておらず出来たのは黒歴史モノでその話を掘り返されはずかしがっている感じなのかな。
レベルが高い話だ。
あれかな。魂を奪うように愛される武器を作ろうとしたら物理的に魂を奪っちゃったのかな。
色々と洒落になってないな。
「でも、そんな腕前の人に剣を見て貰えるのはうれしいです」
「私の斧も一度見てもらいたいものですね」
「ああそうだ、剣の話をしないとな!」
私とカムラさんの話をきっかけに本題へ移る。
剣が不思議な光を放っているところにおもむろにカンタが金槌に光をまとわせて思いっきり殴ると強く光り輝く。
スキルだろう。
「うわっ!?」
光が徐々に収まるとその大幅に変化した輪郭が見えてくる。
刃が肉厚になりなぜかいくつかの節目が見える。
光が収まればひと回り大きくなった剣が現れた。
「これが、この剣の『なりたい姿』になるな」
「なりたい姿、ですか?」
「ああ。一時的に力を引き出しているんだ」
ふうむ剣の"進化"みたいなものかな。
「こいつをこの姿に仕上げるのに5日ほどくれないか? その間剣なしになってしまうが……」
「まあ今のところ剣がなくても何とかなりますから」
「分かった……そうだすまないが、これを仕上げるのにはおそらく持ち主の肉体の一部、髪の毛なんかがあると良いのだが、あるかな?」
これはアレだ。
私の土の加護のことや魔物としての能力をつけたしたいのかな。
私は両腕を出してトゲを出したあとに"針操作"で抜く。
「このぐらいあれば足ります? もっとかな」
ポロポロと。
バラバラと落ちそうだったのでおっとっと。
机の上に転がす。
「ああ、それはすごい! それだけあれば……いや、個人的にもうちょっと欲しい……」
支払いもこれで出来ないかなと思いつつガンガンと針をだした。
その日はいったんそれで別れて任せることに。
ただの日常も日々アノニマルースの改良に勤しむことになりあっというまに日が進み……
私はあの剣と鍛冶師の力がどれほどのものなのかまだ知らなかった。
武器というものはまさに力だ。
その力が最大限発揮された時。
私の想像を遥かに越えて力になってくれる。
そしてそれに私が応えられるかは私次第。
5日後!
剣を受け取りにバローくんやカムラさんと共に工房へ来た。
約束の時間だしいい感じになっているかもしれない。
「こんにちはー」
「おお、来たね! さあさ、出来ているよ」
早速中に入れてもらい座る。
机の上には納刀してある私の剣らしきものが。
納刀している状態だと言うのに既に強く気配を感じる。
「剣が変わったから鞘の方も改造したよ。なかなか様になっているでしょ?」
「ええ確かに……」
「呑まれるような雰囲気さえ感じますね……」
「私に持たれたがっている……?」
吸い込まれるように腕が伸びる。
手に取り感触の違和感に気づき裏返すと瞳のような宝石が顔を覗かせた。
「ああ、それはホークアイ。どうやら『いる』らしくてつけたんだ。なかなかカッコイイだろう?」
「ええ、なんだか見つめられている気がしますが」
ぐっと力を込めて鞘から剣を引き抜く。
カチリと音が鳴って刀身が見えだした。
「ああ、だろうねぇ。きっと剣も持ち主を見たかったのかもしれない」
重厚な刀身ながらも軽く刃物が鞘に擦れる音が心地よい。
ぬらりと抜けていく剣にはやはり謎の節目がついていた。
ゆっくりと引き抜いて。
天へ構える。
ドクンという鼓動と共に光が発生する。
力強く禍々しくおぞましくそして頼もしい。
前までの私が作っただけのものとはまるで違う。
「うん……? 扱い方が、わかる!」
「おお、まあローズさんの身体を使って有るから深く絆が得られているんだろう。使い手として認められているんだ」
こう、かな?
剣を撫でて魔力を流し込み刀身の先端辺りを持つ。
力をこめるとカチンという音と共に刃が節目で割れた。
そして割れた節目の間に黄色い魔力光が走った。
光に支えられるように刀身が浮く。
地面へ向けて軽く振ると長く伸びてまるで鞭のようにしなった。