三百二十四生目 伝説
「いやあ、すまない。年甲斐もなくはしゃいでしまった」
「……い、いえ、それで剣の方なんですが……」
疲れた……
獣を撫で慣れた動きなのが色々な意味でダメ。
猫なで声からやっと元に戻ったよ。
終わったことは良いとして。
剣をさしだすとカンタは早速鞘から引き抜いて様子を見る。
土を魔法で固めたものに私の血を混ぜて土の加護を付与し形を整え焼いて削った小剣。
色も鋼色に変化させて行動力を土魔力に変化させて相手を叩き斬るギミックつき。
「ふうむ、やはり材質は金属じゃない。土? 異常な硬度を誇っているがこれは……おお、もしや魔物から得られる加護を。それに魔法記述もおそらく美しいと言われる類のもの。属性付与させて単純な破壊力を増しているのか。単純だからこそこの能力は素晴らしい」
ちょっと見られただけで全部バレたーッ!
ただの魔物大好きマンじゃなかった。
プロだった。
さきほどとは打って変わって声色も真面目。
ギャップが大きい……
まあさっきはペットに接するぐらいの気持ちだったのかもしれないが。
「ただ、焼きが甘めだし能力もそこまで引き出せていないのは確か……素材は良いが環境がダメ? それに金属ともっと相性良く配合出来るし、持ち主の想いに答えたいがまるで出来ていないと言ったところか……すまないが、もしやあまりこの剣に高度な戦闘経験は積ませていない? それこそ大事な時はローズさん自身の力で倒してしまうとか」
一切合切あっているのがつらい!
はい、けっきょくは偽装用というのがメインだもんで!
思い入れは強いけれどこの剣自体私がうまく使えるわけではないから。
「……かくかくしかじか、という感じで」
「なーるほどね。この剣自身からはもっと役に立ちたいという強い意思を感じる。こういう剣は化けるよ。なにせ意思を持つ剣というもの自体がレアだからね」
遠くからもこの剣の意思を聴いたからこそここまで見抜けたのかな。
だとしたらこのニンゲンはもしかしてスゴイのでは。
土の加護は血を土になじませて形を整えればその役割を果たすための道具として単純ながら意思を持つことは今まででも発覚している。
ただそこまで思っているほどだったとは……
「その剣は、そんな意思を……」
「いくつか加護持ちの武具を見たことはあるが、それでもこれほど強く思考する武器は珍しいんじゃあないかな。おそらく持ち手の魔力や強さそれに行動に影響されたのかもしれない。ただの鋼の盾と剣が勇者と共に世界を救うことで勇者の名にふさわしい力を身に宿す、だなんて話は、すまないが鍛冶屋では定番なおとぎ話でねえ」
カンタは剣を鞘にしまい机の上に置いた。
私の能力や行動に武器が影響された……
服でも同じような話を聞いたし同じ経験をしている。
これは剣も何かあるかもしれない。
「この剣、私が見様見真似で作ったんです。鍛冶師ではないのですが、このぐらいなら出来たので」
「なるほどう、プロじゃないのにここまで出来る時点ですまないがプロ顔負けだなあ。それに魔物で鍛冶が出来るものは少ない。
技術が少ない状態でこれほど仕上げるだけでも立派だ!」
プロに褒められたがそれは『アマチュアながら』というのが頭につく言葉。
まあ実際そうだから仕方ないね。
「それでこの剣、まだ力を引き出せるんですか?」
「俺もどうなるかはわからんが、やれるだけやってみたいと思う。どうする?」
「……お願いします」
魔物への語りはともかく剣への語りは本物に見えた。
それに魔物に通じているのなら私の剣のような特別なものにもくわしそうだ。
「ああ、詳しい商談はまたどうなるかわからんから後にするとして……精一杯やらせてもらうよ」
「お願いします」
「明日とりあえず来てくれ。多分そのころには最終的なものがどうなるかわかる」
そう言ってその日は別れて帰宅。
バローくんたちに話したら今度は一緒についてくるとのことだった。
まあちょっと彼とひとりで出会うのはいろんな意味で不安になるので正直ありがたい……
そして翌日。
早速カンタの家兼工房へ。
中に通され早速工房の剣を見せてもらった。
見た目は大して変わっていないが明らかにオーラを放っているのが見える。
明るく力強い黄土色だ。
何もしておらずこうなったわけではないだろうというのは良くわかる。
「あの……ところで、この部屋と良い、もしやあなたは……?」
「うん?」
バローくんが自信なさそうに部屋をキョロキョロと見回す。
バローくんこの街住まいだし知っているのかな。
「伝説級の職人、魔獣奪魂の人では……?」
「うん? あー、なんかそう言われているって聞いたような」
「ええー!!」
え、もしかしてただの魔物大好き鍛冶師じゃなかったの!?