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三百二十三生目 豹変

「ここだ、入ってくれ」


 そう案内されたのはどう見ても一軒家だった。

 これアレかな、アレなのかな。

 腰の剣に手を触れちゃうぞ?


「ええっと……」

「ああ! 家だからか! すまない、ココは俺の家と兼ねた工房なんだ。そら」


 そう言って彼が扉を開くと熱と鉄のにおい。

 そして広がる光景は鋼を打つための施設そのものだった。

 良かった。アレな展開ではなかった。


「へぇぇ……立派な工房なんですね」

「改造に改造を重ねていたら、いつの間にかこうなっちまってな」


 家の中だとは思えないほどにしっかりとした鍛冶場が出来上がっていた。

 明らかにお金かかっているなーと思いながら見ていたらわりと見栄え度外視で手元にある材料つかって形にしたみたいなものが多い。

 もしやレベルの高いDIYというやつか。


 あと使うのかあちこちに魔物素材がある。

 というより剥製のようなものも。

 ……なぜかやたら毛皮とか牙とか明らかに飾っているものが多くない?


 あ! あれはガウハリの背にある大きな金トゲ! (やり)と言ってもおかしくないほど立派なサイズだからすぐに分かる。

 壁に立てかけてあって明らかに飾られていた。

 中に通され座りひと息つく。


「さて、名前を言ってなかったなぁ、すまない。俺はカンタ。ほそぼそと剣鍛冶をやっているものだよ」

「あ、私はローズオーラと言います。冒険者駆け出しです」


 カンタは白い歯をニッと見せて笑う。

 なぜかちょっと恥ずかしがっていなければ爽やかな笑顔だ。

 そのあとスッと沈黙が流れる。

 ええと?


 私の方を見て怒るような悲しむような暗い顔をしている。

 え、え。

 私何かした?

 あまりに気まずい沈黙。


「ええと、あの……」

「……」


 目を閉じられた。

 手を組んでいるしちょっと怖い。


 何時間かのような重い1分が過ぎてカッと目が開いた!

 な、なんなんだ!?

 あまりの気迫が恐ろしい!


 剣呑な雰囲気に身構える。

 刹那の時に相手の僅かな動向にすら気を配り戦闘に移れるようにする。

 その時カンタの口が重々しく開かれた。



「それで、ぶしつけですまないのだが、アンタは魔物かい?」

「ブッ!?」


 えっ!?

 いきなりなんなんだ!?


「いやー、すまないね、人を見る目はないんだが魔物を見る目は自信があってね。まあこの部屋見てなんとなくわかるだろうけれど、趣味で魔物が好きでね。

 いやー、ほんとキミのこと捕まえるとかそういうんじゃなくて、街中に家畜でもないのに堂々と潜入している魔物がいるだなんて! って思ってね。もうたまら……おっと、表で言うと危ないし、剣も気になるから声をかけたんたけれど、どうかな?」


 めちゃくちゃ目をキラキラさせながら言われた……

 心音やにおいそれに"見透す眼"でよく見たがまるで言葉に嘘がない。

 それはそれでどうなのだ……


「どうして魔物だと?」

「自然に立ち振る舞っているが魔物らしい……と言うよりニンゲンくさくない気配にわずかに血と殺しをくぐり抜けた気配、ああいや、血がにおうとかじゃなくて、独特の雰囲気みたいなものだ。それに魔力の質も、どうもニンゲンくさくない。

 すまないが俺以外にも執拗に疑われたやつとかもいなかったか?」

「ウッ!」

「どうやらいたようで」


 人狼衛兵ゴウにそういうば初対面時めっちゃ疑われたっけ。

 最終的にはバレたなあ。

 やはり完ぺきとはいかないのか……


 いやあ純粋な少年のように言われたが実際は中年男性なわけで好意っぽいのも気味は悪い。

 ただそういう細かな私情を除けば味方なようなのはありがたい。

 と言うかほんといきなりキラキラと話しだしたな!


 (せき)を切ったように語りだしたその姿には驚いた。

 さっきまでのタメはこれか……

 うーん……よし。


 頭のウィッグを取り払った。

 3つ目が顕になる。

 その瞬間にカンタは驚き見る目が明らかに変わった。


 わなわなと震えまるで怒る前のように。

 こ、今度はなんだ!?


「言われたとおり、確かに私は魔物です……他言無用でお願いします」

「ええ! それはもちろん。うわあ、町中でこんな近くで本物の生きている魔物が……! 家畜じゃないし! なああああ! ど、どうしよう、すまないけれどモフモフしたい気持ちが……!」


 自然にカンタの両腕が伸びてくる。

 なんだろう、あの冒険者……アマネの姿がダブる。

 苦笑いしながらオーケーしたら頭をものすごい撫でられた。


「うわああああ!! かわいい(ぐぁぁんわいい)です(でしゅぬぇええええ)! ココが(ごぉごぉがぁ)良いん(うぃうぃうん)ですか(でしゅかあぁぁぁいい)?」


 ひゃあいきなり猫なで声で舐めるように撫でられる!

 そらケモノとしては低いよりは良いけど……その、元ニンゲンとしてはねえ。

 ああ! 耳はやめて耳は!


「んにゃああああぁ!! しっかりかたいのに柔らかい!! 良いモフモフでしゅねえぇぇっ!!」


 ニンゲンとしての気味の悪さとケンハリマとしての気持ちよさが同時にやってくる!

 くっ、こやつ……

 毛皮なでがうまい……!

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