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三十生目 蜂蜜

 雪が降り続ける。

 これがどれほど怖い事かを今思い知っている。

 地面はあっと言う間に凍えつきその上に雪が降る。

 もちろんそれは積もるわけで……


「ああー、寒い」

「私も火に当たらせてー」


 訓練を終えた私とインカは炭火に当たりにいく。

 訓練中はヒートストロングの魔法で身体があったまるが、効果が切れればまた冷める。

 赤外線で身体の芯からあっためにくる白木炭が積まれた所はかなり暖かい。

 掘られた場所で焼かれる土器のところも暖かいが、一番人気はやはり群れの中心だ。

 そこの焚き火は調理するための火ではあるが、今はずっと火を保っている。


「暖かい……」

「雪が冷たすぎる〜」


 口々に火へのありがたさを呟きながら寝る私たちはかなり野生生物という感じが薄まっている。

 火のおかげで周囲だけは雪が無い。

 これほど暖かく過ごせるとは誰も思っていなかったらしく、群れの中では若干火や炭に異常な想いを持ち始めている。

 こだわりと言うか、信念というか。

 上がった生活レベルは落とせないということでダイヤペアが必死に働き回っていた。

 炭が湿気らないようにあのなんでも入るポシェットにしまって天然洞穴に運んだり。

 少しでも減ってきたら過敏に次を作り出したりで。

 火が消えそうになると近くにいたホエハリがパニックを起こすのでなだめつつ火をつけたり。

 これまでにないものが突然出てきたせいでてんやわんやだ。

 ……犯人は私だな。


 いや、まさか言葉が通じるだけでここまで浸透するとは思わなかった。

 野生生物ってもっと頑なに生き方を変えないかと思っていたからだ。

 まあ、それを言ったら人の先祖はどうなるんだと言う話か。


 さて、群れの中はなんだかんだうまく回っている。

 だからちょっとやりたいことがある。

 寒い冬だからこそ出来る事。

 蜂蜜狩りだ。




 現在私たちはハートペアにインカとハックという構成で外に出ている。

 縄張り内ではあるが、少し離れた土地まで歩いてきた。

 肉球は案外寒さを防ぐので雪の中でも動ける。

 そして辿り着いたのが大きな木の近くだ。


「これが例の?」

「そう、甘いやつがあの中にあると睨んでいます」


 この木、見た目はただのデカイ木だがその上の方には大量の蜂の巣がある。

 しかも蜂の巣の穴もサイズもハンパじゃない。

 前見た蜂のサイズが私より少し小さいぐらいしか違わなかった。

 地球でそんなサイズのハチを見かけたら気絶する。


 しかも厄介なのはこの蜂の巣、単なる木についていない。

 それは木の方を観察すればわかる。

[ギスモLv.12 状態:耐寒 異常化攻撃:麻痺]

[ギスモ 5m以上あることが多い木の魔物。普段は擬態しているが身に危険が迫ると反撃する]

 魔物だ。

 これは植物系の魔物なんだ。

 その植物にハチの巣がある。

 共生関係というやつだろう。

 レベルがパッと見高くないが、サイズが私より遥かに、もう遥かにデカイ。

 まあ樹木だからね。

 このサイズ差を活かされたらなかなか勝ち目は無い。

 重量で潰されれば終わる。

 しかもハチが大群で襲ってくるだろう。

 前見た時は数え切れないぐらいうじゃうじゃしていた。

 そう、前見た時は。


 今、私たちは彼らの近くにいるはずだがうんともすんともブンブンとも来ない。

 ハチの巣は静まりかえり木は広葉樹だったが今はその葉を全部落としている。

 見るからに貧相だし、雪に凍えている。

 そう、彼らの弱点は寒さだ。

 他の季節があまりにも攻撃心まるだしなので誰も近づかないが冬は違う。

 それに目をつけて寒くなるまで待っていた。


 これから行う事は相手の群れを滅ぼす事。

 もちろん私がやられたら嫌だがこれも生きる流れだ。

 ゆるせとは言わないが、いただきますだ。


 まず私は火魔法を唱えてキャンセル、火魔力を貯める。

 そして火魔力のヒートストロングを唱え全体化強化。


「お、暖かい!」

「力がわいてくる!」


 同じ要領で土魔法全体化スタッドボーン。


「わあ、変な感じ」


 そして光魔法全体化シールド、全体化アンチポイズン。


「お、この膜が守ってくれるのか」

「良いね、まる!」

「準備完了?」


 そして火魔力で全体化フレイムエンチャント。


「これでいけます!」

「すごい、口を開いた瞬間だけ牙に火が」

「よっしゃー、突撃だ!」


 ハート姉の話を余所にインカが号令をかける。

 最近は勝手に突撃しなくなったのでだいぶ偉い。


「よし、打ち合わせどおりにいくよ!」


 ハート兄が私と共に駆け出し、他がその後に続く。

 今回は相手の方が数が多くなる戦いだ。

 こちらは孤立しないようにしなきゃ負けるかもしれない。


 私は駆けながら土魔法を唱える。

 相手の足元にE・スピア!

 木は根を張っているから確実に入りやすい、どうだ!

 バキリ、と音が響く。

 しかしそれだけで槍が飛び出て来なかった。

 まさか根の力で地面に押し返されたか。

 少しはダメージが入ったようだが……

 その証拠にレーダー反応は赤になっている。

 私達への敵対心だ。


 木のフリをやめ動き出すギスモという魔物。

 近くで見ると幹が揺れて付いている枝もぐねぐね動き不気味だ。

 しかもどこからだしているのか擦れるような低い音が辺りに響く。

 しかし私達がたどり着くほうが早い!

 炎を伴った背中のトゲでふたりで勢い良くタックル!

 私の針は光を纏い少しだけ伸びるためリーチ差はハート兄と同じぐらい。

 直ぐに引き抜く。

 炎がその場に残り木が痛みに悶え枝を振るう。

 私達はそれを回避し一旦下がる。

 そして今度は後続隊が次々に火攻めを行った。

 もちろん生きている木はその水分量のせいでなかなか燃えない。

 だが痛くはあるはずだ。

 観察するとログの生命力データが1/5程度最大値から減った。

 さあ、ハチが出てくる前にできるだけ削ろう。


 木の攻撃のメインである枝振りは葉っぱがない分脅威度が減っている。

 私は影避けを使いながらすれ違いざまに枝を斬りつけ落とす。

 しかし木もその程度は効かないらしく新たに生やしてくる。

 さすが魔物だ、アリかそれ。

 本体部分は根が張っているせいで棒立ちだがさらに困った事に気づいた。

 傷つけたさきから治っていく。

 観察の結果、じわじわ生命力も回復している事からある程度勝手に治っていってしまうようだ。


「みんな、この木の生命力が少しずつ治っている! もっと斬りつけよう!」

「任せろ!」


 インカが飛び出して幹を爪で引き裂いていく。

 炎の爪なのでタダでは済まないが治らないわけでもない。

 私も積極的に斬りつける。

 ついでにフレイムボール!

 飛んでいった炎がボウッと音を上げて爆発する。

 むむ、皮が少し焦げた程度。

 さっきのスピアもそうだが、魔法に耐性があるのかもしれない。


 ならばと接近して攻撃。

 枝が来るがこれを避けずに防御。

 ガリガリと細く尖った枝が切り裂いてくるが武技、肉斬骨断を発動。

 私の身体が淡く光ると枝に吹き飛ばされずに済んだ。

 痛みはあるが怯まず放てる。

 威力最大のトゲによる串刺し!

 ちょっとは燃えろ!

 今のは効いたらしく、また木が声を上げる。

 観察で確認、のこり半分。

 だが相手もやられっぱなしではないらしく枝先が淡く光ると花が咲き乱れ、大量の花粉を撒き散らした。

 これは多分アレだ!


「みんな集まって!」


 私の号令に全員集まる。

 そして私はその間に光魔力をストック。

 集まった全員に降り注ぐ花粉は身体についた途端に全身が痺れだした。

 このままでは直ぐに倒れ込んでしまう。

 アンチポイズンでは効かないタイプの特殊なやつか!

 けれど、私もそれは踏んでいた。

 アンチパライシス全体化!

 光が包むと急に痺れが消えて楽になった。

 痺れると心肺の筋肉もやられたらおしまいだからね。


「一瞬ビリっときたな!?」

「私が今治しました! 相手は今ので力を使ったから反撃を!」

「わかったよ! ……この音は!」


 ハート姉が上からの音に気づく。

 レーダーにも嫌というほど反応がある。

 なるほど、冬の間はどうやって身を守っていたかと思えば、そうしていたのか。

 あたりが黄色に染まるなかでも耳に響くこの音は。

 まさにブンブンと騒がしく耳の機能を奪う程。

 花粉の霧が薄まった頃には目でも見えるほど大群が空から押し寄せてきた。

 ハチだーッ!

 麻痺したはずの私達を確実に倒すためにやってきたんだ!

 ここからは乱戦!

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