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三百二十二生目 小剣

 カムラさんがペンを取り紙にガリガリとユウレンの師匠顔をかき込んでいく。

 ただ動きがニンゲンのそれよりも上から印刷していくかのような動き方でこういう時に動く死体(リデッドゴズ)なのがよく分かる。


「師匠はね、腕は確かだし教えるのもうまいけれど、根本的に変人ね。死体を抱いてないと寝られないような人よ」

「そ、それは強烈……」

「まあそれだけ死者を溺愛しているのよ。正確には死から蘇った存在をね」


 ユウレンは記憶を探るように視線を彷徨わせる。


「師匠は死者好きもふくめて性格がアレでね、おまけに超強気だから周りは振り回されるのよ。ただ腕は確かで各地で弟子もいたらしいし、長年をかけて界隈の技術全体を向上させたそうよ」

「なるほど……」

「ラフですができました」

「あら、師匠の雰囲気がちゃんと出てるわね」


 カムラさんが描いた絵は実に不機嫌そうな目つきのひと目見ただけで近寄りがたいおばあさんだった。

 ウロコもうっすら描かれていて獲物を狙うような縦細い瞳孔を含めて蛇を思わせる。

 こんなフサフサな蛇はいないが。


「へぇー……これが」

「ま、見てもらったとおりの印象の人よ」

「創造主はいい人ですよ。それは間違いありません」


 思っていたことが尾に出ていたか……

 それにしても彼女に会えれば解決できる問題ではあるのだが。


「どこにいるかわからないんですっけ?」

「はい。ご存命なのはつながりで理解できるため確かなのですが」

「面白いところにフラフラと出歩くから、特定はムリね」


 ふうむ。なんとか探し当てたいが……

 結局その日はそれ以上有益な情報はなかった。






 想定されている往復時間を考え不自然にならない範囲でカルクックたちと共に街へと帰還する。

 もちろん服を着たホリハリー状態で。

 2足歩行。


 服に関してわかったのは私に適応してホリハリー時以外は私と一体化し馴染み一見なにもないようになるということ。

 ホリハリーのときだけ服だとアピールする。

 地味に頑丈さや快適さが受け継がれるので重要。


 ちなみに脱ぐことは可能。

 ただ少し寂しそうにする気がする。

 まあ洗うためには脱ぐけどね。


 バローくんの宿に行きその中のクーランの銀猫へ。

 ギルドリーダーのタイガに今回の冒険依頼を報告した。

 裏事情は伏せつつも例の男と魔王復活秘密結社についても伝える。


「……かくかくしかじかということで、残念ながら拘束する前に逃げられました」

「ご苦労様……まあさすがに書類の量も多いな。うーん目が疲れる! にしてもだ……またそいつらか。

 もはやあちこちで暗躍していると考えて間違いないのだろうな。本当イヤな時代だ。

 上は情報を止めているが、どこまで手が伸びているのやら」


 タイガが苦笑いするのに私も苦笑いを返すしかなかった。

 バローくんがそこに割り行ってたずねる。


「ところで、これで昇格なんです?」

「いや、今回はすぐに俺が決められるものじゃないらしい。一旦上に投げてからの返答待ち次第だから、ざっと1週間は覚悟してくれ」

「わかりました」



 報酬なんかもあとでということらしい。

 私たちは水洞の迷宮で手に入れた物の精算をしに市場へと移動した。






「では、こちらが最終額になります」

「ええ、では商談成立で」


 商売交渉に関しては相変わらずカムラさん任せ。

 実際に私の想定よりもかなりの大きめな額でとってきた物を売却したらしい。

 お札がたくさんカムラさんに手渡されていた。


「お待たせしました」

「相変わらず見事な手際でした!」

「いえいえ、では分けましょう……」


 おや?

 熱い視線を感じて振り向くと中年のおじさんが立っていた。

 しゃくれた顎に手を当ててじっと見つめている。

 私と……私の剣を。


「ふむ……良いな」

「あ、あの?」

「ん? ああすまない、しがない剣鍛冶なんだが、ちょいと気になってな……時間があったらその剣を見せに俺の工房に来てくれるかなお嬢さん」

「え? ええと、どうします?」

「では自由行動ということで」

「そこらへんにいますねー!」


 というわけでざっくり移動。

 いきなりの誘いでびっくりしたが"見透す眼"でも嘘をついている様子はなく剣を見る目は真摯だった。

 ただ……なぜか私を見るときにも興奮度が上がり何かをこらえている様子なのが謎だが。


「突然すまなかった。その剣、ちゃんと見ないことにはなんとも言えないのだが……なんだが随分と惜しく見えてな」

「惜しい?」

「あー、いや、剣鍛冶としてのカンというか独特の表現と言うか、言い表しづらいんだが、もっと力を引き出せる気がしてな」


 どんどんと市場から離れていきどちらかと言えば住宅街の方へと向かっていく。

 こうやや身の危険を感じるが"観察"したところ別に彼はめちゃくちゃ強くはない。

 大丈夫だとは……思う。


 それからの道中はその表情は暗く黙っている。

 私も何を話したら良いか分からず黙ってついていく。

 暗い道の方へ。


 たまに振り返って私を見てくるがむっとこらえるような顔をするだけで黙ったまま。

 不気味だ……

 黙々と歩くのがとても不安にさせられる。


 感覚的にあまりにも長い道のりの末にひとつの場所へ辿り着いた。

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