三百十九生目 魚渦
それは国同士の同盟のお誘いだった。
相手が女王としての立場での誘い。
私を迷宮の女王と見込んでの頼み。
ただ……
「その、実は私は別に女王ではないといいますか……」
「え!? 管理者ではないのですか!?」
「いや! 管理者ではその一応あるのですが……なんといいますか、かくかくしかじか」
私たちの群れであるアノニマルースとそれとは関係なくある私が管理者の迷宮について話した。
特に地球の迷宮と私が名付けたところに関してはバローくんやイタ吉にもきちんと説明する。
機械だらけだったりすることはややこしくなるので伏せる。
「なるほど……ちょっと複雑なのですね」
「へぇ〜、俺らが暮らす迷宮のさらに奥にもう1つ迷宮があったのか!」
「あの密林の中にそんなものが……全く知りませんでした」
「ただ、それはそれで、アノニマルースの方とも迷宮の管理者としてもやはり同盟を結びたいものです」
「管理者、といってもほとんど手付かずなんだけれどね……」
正直最初の1回以来立ち寄っていない。
今どうなっているやら……
「いえ、私も母から受け継いでやったことはほとんどまだないですから、お互い初心者ということで、そこはぜひ!」
クラウンディが両拳を握ってグッとポーズをとり強く押してきた。
ううーん。
確かに断るにしてもこの場所を見てしまったしなぁ……
彼女は本当にこの迷宮の女王だということを。
「ええ、同盟に関してはみんなと話さなくちゃなので詳しく決めるのはあとにして……私としてはぜひこちらからもよろしくお願いします」
「ありがとうございます!」
前足を伸ばしクラウンディと握手をした。
味方が増えるのは大歓迎だ!
……敵にならないことを祈ろう。
ただクラウンディは"見透す眼"でみても純粋に喜んでいた。
とりあえずは……大丈夫そうかな。
「本当、心強い方が仲間になってくださり、ありがたいです!」
「こちらこそ! それでええと、女王の座に戻るのを見届けるんでしたっけ」
「あ! そう、そうです。それではこの管理場所の力を発揮します。私が、女王として振る舞えば、大丈夫、なはずです……」
最後の方声がどんどんと小さくなっていった……
あまり自信はないらしい。
「大丈夫、やり方そのものはわかっているんですよね?」
「え、ええ」
「落ち着いてやってくださいね。私達が見守っているから大丈夫ですよ」
「……はい!」
クラウンディが姫や女王や管理者といった側面が剥がれた内側から見せた顔はただ一生懸命で不安も当然持つひとりの生き物だった。
みんなを支えるためにはりきる魔物にも支えはいる。
最初はクラウンディ特有の甘く優しい声がむしろ警戒を誘ったがちゃんと良い子だと思う。
「では、管理者権限実行します。お願いしますね」
『了解。迷宮内の状態を投影します』
そう念話が飛んでくると共に水中に立体的かつ半透明な迷宮内の世界が映し出される。
便利な魔法だ。
解析して覚えたいな。
今見えている場所は……破壊された城周辺かな。
「うわ! ビックリした!」
「すごいですね……こんな風に見えるだなんて」
「ううーん、何度見ても破損がひどいことに……」
次いでアイコンとゲージが多数表示された。
コレは迷宮内の状態をパラメーターで表したのかな。
「迷宮内光度は……異常はなさそうですね」
『問題なく稼働しております』
「ああ、迷宮内が水中なのに明るいのって……」
「ええ! ここで光を全体的に行き渡らせているんです」
そうだったのか。
明るいのは正直助かる。
クラウンディは考えながら迷宮のデータを見て話して触っていじる。
「ええっと……ここがあのデータで……水流……うわっ、ここまで悪影響が……ここの流れを前の時と同じように変更してください、ええ、そこも……やっぱり水温が乱れていて魔物たちが……ああ、こちらを触ると反対側にも影響が……」
『了解しました。訂正します。ズーム。変更します。この場所の確認を推奨します。表示します。警告、そこの場所を指定通り変化させた場合別場所に重大な影響が発生する可能性……』
クラウンディがひとつ触るごとに光景が切り替わり一種幻想的な光景が広がっていた。
イタ吉やバローくんも感嘆詞をもらすばかり。
彼女の必死な動かしにより水中と傷ついた大地すらも少しずつ治っていく。
彼女の指示により迷宮が回復していくさまは女王としての振る舞いと言えるだろう。
「見てください! イオシたちがこんな風に!」
「うわー! 食事を求めて一斉に渦のように回っています!」
「これに巻き込まれた魚は死ぬだろうな」
「巻き込まれた私の感想としては死ぬと思うよ」
ここで出来る迷宮内の環境修復をしていたら発生したゆったりとした流れの回転水流に沿ってプランクトンが集まったらしい。
イオシたちが大量に集まってイオシトルネードとも言える姿を見せていた。
鑑賞の感想を言うクラウンディとバローくんに対してイタ吉と私は冒険者としての話。
それでもなんだかこの4者とともに確かな友情が芽生えだしていた。