三百十一生目 突破
視界ゼロ。
耳は水流の音しか捉えずにおいはすべて流されている。
光魔法"ディテクション"でのレーダーは私の感覚が拾う普段は捨てる雑多な情報をまとめるものだからこういう時はまったく役に立たない。
『そっちはどうだ? うわ、まったく見えないな』
『本当に何も見えないですね……』
『かなりキツイ』
"以心伝心"で私の視覚情報のリンクと思念がイタ吉とバローくんの間で成立する。
幸い"透視"で向こう側を見失わないように出来たがなかなかどうして普通なら方向感覚すらも失うだろう。
フルアーマーかつ"ヘヴィ"で自重を重くしてやっと足が浮かずに踏み込める水流の勢いはきびしい。
私自身の重みが私の体力も削る。
ひたすらゆっくりと歩みを進めるしかないのがつらい。
あと少しと自分に言い聞かせながら1歩1歩踏みしめていく。
走れれば距離としては大してないのに。
身体の横全体を襲う水流がつらい。
前世の記憶では水が勢い良く流れただけで固定されたぶ厚いコンクリートでも破壊される実験を見た気がする。
私がそのコンクリートにならないようにこまめに"ヒーリング"をかける。
音がつらい。
水が流れる音が轟音となっている。
耳をへたらせて少しでも音を遠ざけるが……
早く出たい。
尾が大変。
股の間に隠さないとちぎれそうになりそうで。
もう少し、もう少しだから。
外側に行けばいくほどその勢力は高まる。
ここを突っ切ろうとするとかわりと正気じゃない。
誰だこんなこと考えたの!
『おお、やっと終わりが見えてきたか!?』
『ローズさん、あと少しです、がんばれ!』
そ、そうか!
外側にきたということはもう少しで1番危ない大渦のラインを越える!
その先は『ひきこむ』力へ抵抗が成立している今なら泳いで逃げられる。
外からなら大渦破壊方法も考慮できるだろうし……
よしあと1歩、あと1歩だ!
うおおおおっしょい!
前足がほんの少しだけ最悪の地帯を出た!
よし後は勢い良く歩みを進めて……
顔も出た!
上半身も出て……
真っ白な地帯を抜けたぞ!
後ろ足も出す、と。
『よし! やったな!』
『おめでとうございます! あと少し!』
『ようし!』
あとは"ヘヴィ"を解いて泳いでいけば大丈夫。
因果逆転には勝っている。
ようしジャンプ!
ゆらりと上からやってくる大きな魚影。
え。
相手も驚いている様子。
『『アイツだー!!』』
「うわあああ!!」
例の巨大魚とエンカウント!
容赦なく降り注ぐ大量の魔法!
ホリハリーじゃないからすべての迎撃はムリ!
大きい魔法だけは曲げたり相殺しつつ魔法が降り注ぐ中必死に泳いで避ける。
とにかく大渦と距離を取らねば。
クッ!
多少被弾はやはりするが頑丈な鎧のおかげでダメージは少ない。
このまま突っ切る!
全力で犬かきだ!!
やはり巨大魚のほうが速くて追尾されて魔法を撃ち込まれる。
1回に10や20魔法を同時に撃ってくるの本当にやめてくれ。
威力はさほどでもないのが唯一の幸い。
撃たれて逃げて魔法弾幕を鎧で受けてを繰り返し見た目からしてもボロボロになってきた頃にやっと圏外脱出!
横穴に入り込んで巨大魚から逃れる。
あ、危なかった……
『大丈夫か、ローズ!』
『死ぬかと思った……』
『あの巨大な魚は離れて行きますね……さすがに狭いと思ったのでしょうか』
クジラサイズの巨大魚は私の追尾を諦めて離れていく。
動向は目で追いつつ今のうちに治療を。
"ヒーリング"!
あの巨大魚は大渦へ向かっていったが何をする気なのだろうか。
さっきも大渦付近にいたし見守りか何かか?
大渦の影響はやはり受けないらしく大渦に平然と近づいていく。
そうして大渦へと顔を突っ込み……
『……そうか! 危ない! 隠れて!』
『あ、あいつこの中がどうなっているか漁るつもりか!』
『避難させます!』
無駄に頭が回ることをしやがってからに!
結界があるとはいえ万能ではないはずだ。
補助と回復をしっかりしてから私は横穴から飛び出る。
巨大魚は上の方から突っ込んで行ったりきたりして私が出てきた理由を探している。
下まで行かれる前にあの大渦をどうにかしないと……
すぐに破壊はされないだろうが油断は出来ない、
因果逆転を断ち切ることと渦の回転を止めることか。
どうすればいい?
ホリハリーに"進化"!
あの大渦に有効な魔法を思考しよく見て"観察"する。
落ち着いて出来るだけ速く答えを見つけるんだ……!
深い魔法の深淵に耳を傾け目の前の大渦という魔力の流れを解析し本当の答えだけを掴み取る。
真っ暗闇の中でも見えるものこそが答え。
……そうだ!
あの渦は『引き込む』力で無理矢理逃げられる転移系の魔法すらも封じている。
だから転移系統とは相性が悪いが他のあの魔法ならば!
いくぞ。
聖魔法も空魔法を組み合わせる!