三百十生目 解析
私達も含め大渦潮突破方法を議論するために石造りの一室に招かれた。
臣下というから人魚かと思いきや多くは魚やらカニやらヒトデ。
彼らだけでは言語が通じないのではと疑問に思ったがすぐに理解できた。
『……思念をつなげました。これでこの場にいる全員が、思うことで会話が行なえます』
頭の中に響く重く低い声。
フジツボだらけの大きな巻き貝が中身を少し覗かせ周りをゆっくり見渡した。
どうやら彼のスキルらしい。
『早速ですが……近況報告をお願いします』
『はい。前回提案された現状維持案は滞りなく進んでおります。この調子ならばあと1週間は追加でなんとか持たせられます』
『結界維持に莫大な労力がいりますから、出来うる限り早く終わらせたいですね……その、解決案の方はどうですか?』
『解決案のほうは……駄目でした』
この場を重い空気が占める。
水中だけれど。
今度はイタ吉が思念を上げる。
『その解決案というのは?』
『いくつかはあったのですが、もっとも期待されていたのは結界の拡張です。結界の一部を渦よりも外に突き抜けてそこから逃げる、通称トンネル案でした』
『いけそうだがダメだったのか?』
『ええ。外に行けば行くほど大渦の威力が上がるのがわかり、押し戻されました』
なるほど……
ここはちょっと聞いておいたほうがいいかな。
『すみません、外の大渦はそれほどの力があるのですか?』
『ええ、力……というより強制力なのかもしれませんが』
『強制力?』
『あなたがたがここに吸い込まれたさいも、感じたのではないでしょうか。どれだけ必死に泳ごうとまるで抵抗が出来ないような……おそらく、魔法の力で』
あっ!
確かにあの時……
聖魔法のように結果を固定して吸い込む事を確定させているとしたら厄介だろう。
『覚えがあります』
『やはりですか……』
『ただ、それならばそれでなんとかなるかもしれません』
『ほ、本当ですか!?』
私はうなずきその後作戦実行することにした。
結界と大渦の間。
ここならば何かあっても被害が薄いという実験場所に私たちはいた。
とりあえず"進化"!
「まあ!」
「この状態なら魔法のことを詳しく調べられます」
ホリハリーになるとなぜか勝手に服を着ていた。
もしかして気絶した時に服が流されたんじゃあと思っていたが……
コレはどういうことだろう?
とりあえず今はやることをやろう。
結界にそっと触れる。
基本的に物理のものは通すが攻撃的だったり敵意識があるものを防ぐ結界か。
良い腕と判断だろう。
敵対している相手はしめだされているわけだ。
「ではやります」
「お願いします」
人魚ことクラウンディからオーケーをもらい結界を通して大渦を調べる。
魔力を流し込み結界の向こう側にある大渦まで伸ばす。
……む?
これは普通の魔物が行うようなものではない?
しっかりとプロテクトが行われているのはともかくはっきり言って人為的な隠蔽方法が見られる。
もちろんニンゲンたちも魔物から学んでいった歴史もあるようだし一概にこれがニンゲンのものとは決まったわけではないが……
だけれどもこのぐらいなら前本で読んだ部分もあるし……そう難しくないかな?
……よし! プロテクト解除!
魔法情報を読み取らせてもらおう。
ふむふむ。
ある程度は想定内の内容だった。
やはり因果逆転させている点がみられるうえ単純な大渦としても強力。
ただその想定が当たったとなると厄介だ。
突破の難易度が跳ね上がる。
なんとかしてみるが……何とかなるかはわからない。
「わかりました。ただ……想定内ではかなり悪い方向です」
「そうなのですか……」
「ええ。なのでまずは私がなんとか突破してみます。外部からならおそらく崩せるので」
「おまかせするばかりで心苦しいですが……ぜひお願いします。準備などはぜひ言ってください」
休憩を取り食事をもらい再び結界へ。
どうするかはまだ決めていないがやると言ったからにはやらねば。
この先はまともに視界すらない危険な地域。
ホリハリーで補助魔法をひととおりかけて……と。
[クリアウェザー 対象に天候の影響を受けなくさせる]
これを魔法技術で少し改良し渦潮に特化させる。
これで渦潮の引き込むという因果逆転と私の魔法による『変な天気は拒絶する』力が戦うことになる。
あとは技量と力勝負になるか……
もちろんこれだけだと危険だから"進化"の姿を変えておく。
グラハリーに"進化"!
全身に針が鎧化したものをまとった4足の姿だ。
「あら! また姿が!」
「ええ、色々できるもので」
「ローズのアレはズルいよなあ」
「まあ、聞きましたけれどかなり難しいですよねアレ」
クラウンディが驚きイタ吉やバローくんがわいわい話す中。
結界の外に1歩目を踏み込んだ。
うッ!?
かなり抵抗に成功しているが単純な水の流れがエグい。
土魔法"ヘヴィ"で自身を重くする。
前足を無理矢理地につけて踏み込んだ。