三百八生目 水姫
「退避! 退避!」
慌てて泳いでその場から回避し丸呑みを避ける。
背後通り過ぎる姿はあまりにも大きい。
これまでのやつらとは比べ物にならない力を感じる。
[観察困難 正体不明]
な、なんじゃそりゃ?
"観察"でこんな妨害されたメッセージが出てきたのは初めてだ。
おぞましい暗いオーラを纏っているのは私の恐怖から出る幻影ではないのは確かだろう。
「な、なんなんだあれは!? 水竜より怖いな!」
「さ、魚なのは確かだよ! 私の震えが止まらないし」
「ローズさんしっかり! 相手が仕掛けてきます!」
大量の光や影そして水の魔法が飛来してくる!
あの巨大魚の魔法らしい。
一度に10以上もの魔法を飛ばしてくるだなんて!
「ローズ!」
「わかってる!」
10よりさらに増えていく魔法を見つつホリハリーとして全力で魔法を迎え撃つ。
曲げて亜空間に飛ばし魔法同士ぶつけて相殺。
さらに攻撃用に魔法を向けるが何倍もの数の魔法が飛んできて迎撃されてしまう。
「イタ吉!」
「もういってる!」
イタ吉が巨大魚の腹に潜り込んで尾の刃で一撃!
ザクリと入った……入った?
なんだかイタ吉が慌てている。
「う、うわ!? ちょっ」
イタ吉が中に引きずり込まれた!?
スキルか!?
さらにすぐに渦潮に向かって発射された!
「ぬおおあああ!!」
「イタ吉さん捕まって!」
バローくんが杖からツタを魔法で生み出しイタ吉に伸ばす。
そのツタをイタ吉がつかむ。
「え? うわわっ」
「バローくん!」
私が防戦一方ながら防ぎきれていたがバローくんがイタ吉と共に引きずられそうになっていて切り替えざるえない。
バローくんは必死に泳いでいるがまるで勝てていない。
精霊に迎撃の魔法を指示しつつバローくんの元へ向かう。
自身に"ヒートストロング"をかけてバローくんを抱え引っ張り上げ……な!?
陸の上以上に動けるはずの今なのに引っ張られまくる!
理不尽なほどに強い牽引力はあっという間に渦潮の元に。
て、転移系の魔法を!
"ミニワープ"! あ、あれ!?
なんで発動しない!?
私たちは巨大魚があざ笑うように見送っている中必死に手足を動かし水をかいているはずなのにまるで抵抗出来ない!
もしやこういう魔法の効果……?
そう思えても解析する時間はない。
「「「うわああああ!!」」」
激しい身体の衝撃と共に渦潮の激しく渦巻く場所に接触したのが気を失う最後の記憶だった。
「ん……ううん」
「……*****?」
ここは……
私は気を失った影響で"進化"が解けてケンハリマに戻っていたらしい。
周りを見渡すと駆け寄ってきた何かとその言葉。
敵意はなさそうだが……か、"観察"。
[クラウンディLv26]
[クラウンディ 人魚系の中でも統率にすぐれているため群れを率いていることが多い。前に立たず歌うことで大量の魔物を癒やし鼓舞する。水の加護を持つ]
お、水の加護持ちだ。
加護持ちも探せばそこそこいるんだよね。
それはそれとして……彼女? は一体何を?
ここは水の中にもかかわらず薄いベールのように頭から背中に向けて長く薄い布のような水が波打って揺れているのが目視できる。
髪の毛のような美しい緑の宝石が頭をかざり顔はニンゲンのようでいてその目は黒真珠がはまっているかのように白目の区別なく黒く輝いている。
肌は生き生きと青白く指の間に水かきが見え下半身は光の反射で色が変わる青鱗に覆われて魚の尾のようになっている。
まあ人魚だね!
全体的に感じる雰囲気と"観察"の説明見るにまるで女王のようだ。
「*****?」
「ええと……ちょっと言葉がわからないです」
「*****!」
どうやら言葉がわからないのが通じたらしい。
驚きの表情をして悩み……何か閃いたらしい。
彼女はすっと腕をおろし水を大きく吸い込む。
「la〜〜〜lalala〜〜〜」
歌い始めた。
説明文にもあった種族的に得意なやり方かな。
単語に意味はなさそうだが不思議と感情は伝わってくる。
これは……心配されているのかな。
起き上がって大丈夫だとアピールする。
今度は声色が変わり安心が伝わってきた。
その後も歌に対して身振り手振りでなんとか会話を行う。
仲間は無事で先に起きて別のところにいるらしい。
そこまでなんとか理解したあたりでやっと彼女の言語を理解出来た。
"観察"と"言語学者"の組み合わせの力だ。
「la〜〜la〜〜」
「あ、やっとなんとか言葉がわかりました」
「la〜……? あら、喋れたのですか?」
「いえ、能力で今さっき覚えました」
「な、なるほど?」
人魚は歌い終わり私に向き直る。
「改めまして。私はクラウンディ。今は……迷宮の王の座を奪われたただの魔物です」
「私はケンハリマで……ローズオーラと呼んでください」




