三百七生目 雑魚
「わかればよろしい」
絶望しきって生きる気力を全て手放したようなその声が聞きたかった。
心を折らないと竜は暴れるからね。
まあ"私"としては竜の血を吸えて嬉しい限りだが。
んじゃ、ホリハリーに"進化"しなおすからあとはよろしく!
というわけで私が水竜が全身ズタボロで猛毒に侵され目が溶かされ肩が外れ心が折れているのを魔法でやれるだけは治した。
生まれたての仔馬のように震えて「ひい」だの「やぁ」だの言う退行化しきった竜の姿はあまり見たくなかったかな……!
ドラーグより中身が幼児化しているうえ全身ボロボロの水竜を癒やす。
水竜は奇妙がっていたが徐々に生き延びれると分かったら再び活力が戻っていた。
ただ目などの治療を聖魔法"トリートメント"でやったら痛すぎて攻撃かと思いこみ暴れたのでイタ吉とバローくんとともにおとなしくさせる場面もあった。
なんとか回復させ"無敵""ヒーリング"組み合わせも行い会話をする。
「じゃあ次は襲ってこないようにねー」
「ふふふ……我を負かす小さき者よ、我はこの辺りにいる。必要があれば呼べ」
負けたのに偉そうなのはアレだがそれはありがたい。
「じゃあ早速――」
「次は我だ! 我と闘え!」
「何を! 次は我だ!」
「――周りに新しく来ている竜たち足止めしてくれない?」
種類は違うが水竜らしいやつらがドンドンやってくる。
明らかに生態系がおかしいでしょ。
竜の巣というやつかもしれないが。
「その程度ならば……おい! まずは我と闘え!」
「邪魔だてするか!」
「むしろおまえが邪魔だ!」
「何を!?」
よしよし、今のうちにカルクックに乗って。
こっそりとイタ吉たちと共に出発した。
あんなのまともに相手し続けられるか!
「もう異常発生ポイントが近いです」
「ついにか……」
「何が来るかわからないから気をつけよう」
私たちは冒険依頼で指定された場所の近くにさしかかっていた。
この付近で未知の異変を探さなくてはならない。
ここからが本番だ。
細めの横穴をくぐり角を曲がって。
その先にあるものを見つけ目を疑った。
全員同じらしく顔もしっぽも驚愕に満ちている。
「なっ……」
「う、嘘……」
「ありえません、この迷宮で巨大渦潮だなんて!」
天地に伸びる巨大な渦はこの水洞の迷宮では1度も見なかったものだ。
もはや言うまでもない。
これが異変の原因だ。
「こ、これの解決かあ」
「近寄るだけで吸い込まれそうだなぁ」
「うーん……それに、気付きました?」
「うん。魔力の反応。これは作り出されたものだ」
何か詳しい話を近くの話せる魔物に……と思ったが嫌なほどに誰もいない。
カニとかタコとかなんなら魚でも良いのだが。
渦が恐ろしいのか光魔法"ディテクション"の脳内レーダーにも引っかからないほど近くにはいないようだ。
しばらく様子見のために周囲を移動する。
渦の吸引力は強く十分距離をとっているのに引き込んでくる。
「少しでも危ないと思ったら距離をとってね」
「このぐらいそよ風だよ!」
「ただ、すごく不穏……」
カルクックたちも異常に対して直感的な不穏を感じていた。
私も脳内で警告が鳴り響いている。
アレに近づくのは危険だ。
ぐるりと回り込み調査し続ける。
「広いですねここ。その全てに牽引力があるのは、異常としか言えません」
「しかもその流れが横穴や裂け目を通じて隣の空間や迷宮全体に影響が及んでいるのかな……」
「やっぱこの中だけ誰もいないのは不気味だよな」
……ん!?
渦の向こう側から気配が!?
どういうことだ!?
「渦潮の向こうから魔物たちが来る!」
「カルクックたちを下がらせましょう!」
「来るなら来い!」
「あとはよろしく!」
カルクックたちから降りて離れてもらう。
魚たちだ。
しかもなぜか渦潮の影響を受けていない。
「気をつけて! 様子がおかしい! それに……攻撃してこようとしている!」
「よっしゃ、やるならやるぜ!」
近くまで魚がきたところでイタ吉が先に仕掛ける。
魚の魔物たちも十分に速いがそれを上回る速さでイタ吉が魚たちを切り裂いて行く。
殺さないように"峰打ち"を私から借りて鮮やかに切り払う。
「……7、8、9! どうした、もう終わりか?」
「ううん、次々来る!」
そこから大量の水の魔物たちがわんさかとやってきた。
切り裂き引っ叩き魔法でなぎ払い次々数を減らすが次々とやってくる。
しかも誰もが渦潮の影響を受けていない!
「くっ、数が多いな! がぁ!」
「いけえ! こ、行動力が……」
「1体ずつは弱くてもこうも多くちゃ……あ、あああ!!」
私の叫びに周りが何事かと私を見てそして視線の先を追いかける。
下から襲い来るその魚影はあまりにも大きい。
前に見かけたクジラの大きさを持つ1体の魚が攻撃心をむき出しに向かってきた!