三百六生目 猛毒
「糞、どこに……、っ! さっきからちょこまかと!」
私が水竜の上で派手にイバラ伸ばして巻いているがあちこちに伸びすぎてどこから伸びているかわからないらしい。
さらにイタ吉がさきほどから影を残して動くほどの速さで切り裂き回っているから気をもっていかれている。
さあ"私"もやるか!
ツタを新たに2本、大きく伸ばして赤い光を纏う。
脚に身体に鞭のようにしならせて打ち付ける!
"ズタ裂き"で派手な出血が水の色を染めていく。
「ぬうっ!?」
当てずっぽうに水魔法を放っているがまるで位置が違う。
その間にも水竜の巨大な身体は何重にもイバラに巻かれ関節は外されるか固定しもはや動くたびにトゲが深く刺さるようになっていた。
イバラたちが水竜の血をよく飲んで実に気分が良い。
「ぐっ、ず、頭上か!」
「ここなら竜の息吹もムリでしょう?」
竜の息吹だけはおそらく危険。
喰らったことはないがドラーグでもかなり破壊をする攻撃だ。
ここら一帯吹き飛ばされかねない。
そうこうしている間にも口も束ねたイバラで縛る。
もがき苦しむ姿を拝みつつ"ズタ裂き"で徐々に生命力を削る。
無駄に有る耐久力も血を出させれば問題ない。
色々と水魔法が来るが空魔法"ベンド"で曲げたりイバラで叩き落とす。
"鷹目"で見ているから死角から攻められても問題はない。
水竜にとっては不思議でしょうがないだろうが。
さてスクリューに回さなくて良くなった尾先にある赤い花棘。
ココにはもちろん猛毒が込められているわけで。
意図的にイバラで覆わず開けておいた右目。
そこまで尾を伸ばして赤い棘を近づけていく。
閉じようとした瞼をイバラが刺してこじ開けた。
今度は瞬膜が反射で閉じるが……薄いので問題ない。
ギョロリとした目は尾よりも大きくなんとか逃れようと動き回っている。
ただどれだけ眼球が動こうが位置が変わるわけではない。
慎重に外さないように尾を近づけて……
「――! ――!?」
口を閉じ身体の動きを封じて何を言っているかはわからないが興奮しているのはわかる。
なあにもう少しもう少し。
無理矢理引きちぎろうと痛いだろうに全身を動かしているがまともに動ける事はない。
尾先の赤い花の棘は閉じれる。
そうすればつぼみのようになりまるで太い針のように見えるわけだ。
"鷹目"で水竜の目を見てみると瞳孔が針とは逆に大きく開いていた。
声や態度では示せないあまりに素直な驚愕反応にクスリと笑ってしまう。
先を閉じても子どもの腕ほどあるそれをちらつかされて瞳孔が揺れる。
水竜の目はそれよりもずっと大きいので問題がないね!
そうっと近づいた尾のイバラはついに赤い棘が瞬膜にさわり……
ジュワという音と共に溶けなくなる。
その瞬間に水竜は口を閉じたまま咆哮を上げる。
そこに意識が持って行かれた瞬間にスルリと目に挿し込んだ。
「――――!!??」
ごく細い先端が飲み込まれていき眼球が反射的に動こうとするたびに力で抑えつける。
ゆっっっくりと進めていたが弾力や頑丈さは水中の竜らしく生半可ではない。
沈み方が鈍ってきたのでやがて止まってしまう前に"私"は尾先を回転させる。
うーん! プチプチとしたゴムがはじけ飛んだ時のような感触がイバラに伝わる!
同時に竜が口を閉じさせられたまま声が枯れるほど叫んでいるのも面白い。
ついには尾先がすべて収まった。
やれば出来るこじゃないか。
やっと止まった動きに水竜が荒く息をしているがもしや『終わった』とでも?
ダメだ、そんな感情を抱くうちはダメなんだ。
お楽しみは1拍置くものだということを理解しないと。
……閉じていた花に力を込めて咲かせた。
ふうぅ〜! みて水竜。
花が咲いたよ!
……うんうん、喜んでくれているようでうれしいな!
花びらの数だけ眼球が割れるだなんて光景、そう見られるものじゃないから今のうちに見ておくと良いよ!
ああ、あと花を閉じるというのは毒をためる動作でもあるんだ。
ためたものを出すのは何であれスッキリするもの。
水中なら普通毒は拡散し効果が薄まる。
けれど今は追加でイバラを送って刺しこんで蓋しておいたからそれはもう濃〜い1発が中をうごめくだろうね!
そして猛毒が触れるものを溶かし進んでいく。
眼球、水晶体、視神経。
眼球から脳に……いかないと良いね!
まあ竜なら脳がちょっとドク漬けになっても平気さ。
いやむしろ鼻に流れ込むかな?
「――! ――!」
肉を溶かし首元を這い寄り体の中へ。
クチュクチュと侵し溶かしえぐり刺さるたびに水竜の身体がなさけなく跳ね上がりその動きで再び痛みがやってくる。
眼球が毒に壊れ赤く染まったあとに茶色そして黒となりヒビが入り草が枯れるようにボロリと崩れる。
隙間にイバラをねじ込み眼球の代わりにイバラ巻きをプレゼント。
軽く尾や他のイバラを上下し中と外から刺激してやると言葉ともつかないような声で全身を震わせた。
そのたびに"私"に貴重な竜の血が提供されていく。
んん、イバラを通して聴こえる肉の音が実に良い!
透視して正確に把握し致命傷をさける。
水竜にとってあたたかいは死ぬまでまともに保有しないものなのだろう。
もはやケイレンのように震え続けるだけの水竜の血があたたかく腐っていくのを感じる。
あぁ……水竜の中にある尾のイバラが大海に包まれているようだ。
肉と血に包まれつつも水の生物特有の冷たさがよくよくイバラに染み込んで一体化したかのよう。
竜らしい頑丈さと堅牢さで有効打を与えるには内部をえぐるのがやはり良く効く。
猛毒が血液に乗って全身を侵しだし内側から傷つけられる感覚にさえも戦いの遺伝子によって気絶が許されずひたすらに味わうことになった水竜。
気絶耐性の有効性も時と場合によるかもね?
尾の毒が必要以上に回らないように気をつけて……っと。
すべての体力を使い果たしたのか刺激してやってもわずかに揺れるのみ。
そろそろ口の拘束を解いても良いだろう。
"観測"しての生命力は……いい感じに減っているが一言話す時間はまだあるな。
殺したら面倒なことになるし、まあ"私"の趣味をかねてこうしたわけだが。
締め付けていたイバラを解放してやると全身ぐったりと脱力して浮いた。
重々しくその口を開く。
「……負け……だ……」