三百四生目 空斬
巨大スライムの罠に囚われたイタ吉の近くに急行する。
私の剣……じゃあ私ごと追加で飲み込まれるだけだ。
さらに問題としてすっごく使える魔法が制限される。
水の中で火魔法を放てば酸素不足で消えるか熱量により爆発……
風魔法は起こすための空気が当然無い。
雷魔法は拡散してまともにあたらないし土魔法は相性が悪いのか威力激減。
だからここは……空魔法!
[ディメーションスラッシュ 空間ごと斬り裂く刃を振り回す]
接近しつつ青白い光の刃を私の横に少しずつ生み出し伸ばす。
この魔法発動を見てから避けやすく行動力もバカ食いするが効果は説明文の通りめちゃくちゃ。
こういう場合は使いやすい。
もちろんこのままではイタ吉もダメージを受けてしまうので精霊に光魔法を唱えさせる。
[ターゲット 自身の攻撃する相手を決めてそれ以外に攻撃が当たらなくなる]
魔法を直接弄って対象を定めることも出来るが万が一があると危険なためちゃんと使う。
切断範囲内に近づけたところで"ターゲット"が精霊により発動した。
スライムにのみ攻撃効果が発生するわけだ。
「いっけええ!!」
「わ、ちょっ!?」
何も知らないイタ吉が悲鳴を上げているが少しは反省してもらわねば。
よーく伸ばした刃は大剣のようだが発動すると自動で私の周りを回転しだす。
光の線がしなり細く長くなって速く回りだす。
そして光は一定の範囲で壁に張り付くかのように空間に残り最後はスライムを軌道上において輪になった。
ちょうどスライムを縦に割るように。
ギン! という斬り裂くような音と共に一瞬スライムがその光景ごとズレる。
空間ごと切れてズレたのだ。
すぐに元に戻ったもののスライムは真っ二つになったままだ。
「へ? え?」
「イタ吉すぐ出て! 再生される!」
「わ、わかった!」
確かにめちゃくちゃ強いがここの巨大スライムの抵抗力を考えると今ので仕留めれてはいない。
すぐにイタ吉が泳いで脱出すると内臓ごと少しずつ元に戻っている。
「お待たせしました!」
「大丈夫、あとは……」
スライムは再生すると慌てて砂の中に引っ込んだ。
これがここのスライムの賢いところだ。
やられるとわかると素直に逃げる。
スライムの反応を見るに見事な逃げ足。
ついでに会話もできれば良いのだがそこまではムリらしい。
まあ互いに死んでなくて良かった。
勝手に魔物を殺すのは犯罪だからね。
まあ『冒険依頼』はやむを得ない場合は良いらしいが。
「全く死ぬかと思ったし殺されるかと思ったぜ」
「これにこりたら反省!」
「わーったよ」
イタ吉の治療をしてさらに進む。
問題のおおよその異常発生地点に近づいてくるにつれ確かに違和感がましてきた。
水洞の迷宮は巨大で確かにあちこちで生態系が変わるのはおかしくない。
入口側にいた小魚やらちょっとした水草がメインだったところから数日かけてだいぶ離れたから確かにいる生物は変わる。
ただどれもこれも最初の水蛇と比べると恐ろしく強く凶暴な魔物たちが殺伐と殺し合いをしているのは違和感が強い。
強いのも弱いのも入り乱れだいたいの凶暴性が高い魔物は強い縄張り意識で一定の範囲内に意識を向けているが……そんなこともない。
どこまでも縄張りがグチャグチャに入り乱れていて泳いでいるだけでどこでも危険地帯だ。
なので私達が気配を出来る限り消していれば凶暴対凶暴が勝手に始まり私たちはその横を通り抜けられる。
もちろん気づくものたちもいるがそれよりも目の前に迫る敵のほうが優先。
だいたいはこれでくぐりぬけられるのだが。
「そこなる者よ、隠しても無駄だ。我と闘え」
「ま、また……」
「ひ、ひえええ!!」
「竜に絡まれまくるの、どーにかならないか?」
「「「は、早く倒せー!!」」」
バローくんがびびりイタ吉が呆れカルクックたちが私達を振り落とそうとする相手は竜。
いわゆる水竜というやつでそのサイズは水洞の迷宮内ではトップクラス。
私達を楽々吸い込めそうな大きい顔は凶悪な笑みでかざられている。
こういう竜種はこの水洞内で複数いるが見かけられるたびに喧嘩を仕掛けられている。
竜が凶暴という話は本当だったらしい。
しかもなんか隠している気配と力を看破してくる。
仕方ないのでカルクックから降りて"進化"を変える。
ホリハリーは戦力の多くが魔法だがそれが封じられる環境のため向かない。
巨大な竜に立ち向かうにはパワーがいる。
"正気落とし"はわずかにくらませられるがすぐに戻る。
竜のウロコは頑丈らしい。
そもそもデカすぎるというのもあるが。
なので……地・聖・火・土魔力混合!
魔力解放!
ロゼハリーに"進化"!!
立派な四脚に変化し首元と尾から伸びる真っ白なイバラのツタ。
赤い花が首元と尾先に咲いた。