三百三生目 捕獲
超巨大魔物魚出現からなんとか持ち直し探索続行。
徐々に問題ポイントと指定されているところに近づきつつもその日は大して戦果はなかった。
翌日はカムラさんが抜けて代わりにイタ吉を連れてくる。
「お、おおお? 浮く! コレどうしたら下に……浮く!」
「動かなきゃ落ちるから!」
「息を吐くと良いかもしれません」
カムラさんはアノニマルースでたまっている仕事を片付けイタ吉は新たに探索可能な範囲に出来るかもと偵察にきたわけだ。
泳ぎ方も本能的に理解していた感じだが沈み方をしらずに天井までいってしまった。
だがアドバイスを聞きつつなんとか潜ることもでき冒険を開始した。
この地は水中というだけあって冒険は過酷だ。
まず魚である。
みなさんご存知悪逆非道たる絶対悪的存在。
魚醤にしてしまうのがとびっきり最適な相手ながら残念なことにここでは辺りを普通に泳いでいる。
陸以上の動きを見せるうえに圧倒的に場馴れしていて厄介。
360度上下左右常にどの角度からも狙ってくるため私情をさっぴいても迷宮への侵入者脅威率が高い。
通り過ぎ去るだけに見える魚でも軽く腹肉を食い破ろうとしてくる恐ろしい魚もいるし毒や麻痺や眠りやら状態異常を仕掛けてくるものも多い。
魚の危険に加えて……クラゲなんかも危険かもしれない。
例えば今目の前にフワフワしているだけのように見える私達より大きなクラゲは――
「おお、面白い魔物だ!」
イタ吉が突いた。
ガバリと反射的に開きあっという間に多数の触手兼毒針をイタ吉に絡める。
「うぐおああああ!?」
「イタ吉ー!?」
「い、今助けます!」
私が光魔法"アンチポイズン"を唱えてバローくんが魔力を杖に纏わせてクラゲを叩く。
付属された"斬撃"の魔力がクラゲの表皮に傷を負わせると慌ててクラゲは離れていった。
細かい思考があるわけではなく決まった動きをする魔物だ。
その為対話も出来ないのがかなり困るが……
先程のようにクラゲのどこか……特に触手に触れれば絡みついて毒棘を刺しまくる。
イタ吉はキレイで奇妙だからと触れていって見事に捕らえられたわけだが。
「あー、ひどいめにあった」
「まったく、ほら傷見せて」
「ふぅ……追い払えました」
イタ吉は見事に全身刺されまくって棘が残っていたので聖魔法"トリートメント"で異物拒絶していく。
因果逆転して傷を拒否した結果回復するがそれには痛みを伴う。
「いだだだだ!! お、おい!! あだっ!! もっと優しく!!」
「はいはい、じっとしていてね」
反射的に牙をむき出しに叫んでいるがスルーである。
これにこりたら変なものに触りにいくのはやめてほしい。
治療を終えてまたカルクックたちに乗り移動する。
さて他に水洞迷宮で危険なものは水流である。
風のように常に水の流れがあり水の流れに逆らって移動しようとしても流されるのが基本。
その為見た目以上に道が複雑化している。
私が常に水流可視化させる魔法で監視しているが気まぐれに変わることもある水流はなかなか辛い。
水流の先に大型魔物が口をあけて待ち構えている事も多いからそういうのも怖い。
「おーい! 早くこいよ!」
「すぐ行くー」
イタ吉は興奮さめやらぬといった様子で先行しさっきのひどい目にあったことも気にしていないらしい振る舞い。
ひどい目に合わなきゃいいけれど。
イタ吉たちと幻想的な水中世界を進みキラリと光る何かがあった。
「お、何かレアもんがあるか?」
イタ吉も気づいたらしくカルクックからとびおりて砂浜にあるそれを見に行く。
何か素材や道具になりそうなものなら良いんだけれど。
イタ吉が地面に降り立った時に私の"ディテクション"の脳内レーダーに一瞬反応が。
「ん……?」
「ええと、お宝お宝」
イタ吉がその近くで身をかがめる。
すると陸地が一瞬で姿を変えてイタ吉を飲み込んだ!?
「うわぁっ!?」
「ま、またかー!!」
イタ吉を一瞬で飲み込んだ正体。
それはこの水洞の迷宮でかなり危険とされる存在。
スライムだ。
森の迷宮にいたただの弱小スライムではなく巨大でなおかつ賢く強いスライムだ。
いくらイタ吉が油断していたとはいえふつうのスライムだったらすぐに切り裂いて出て来るがもがいているだけでその様子はない。
全体像が砂の中から現れて分かるのは内臓が光り輝いていること。
チョウチンアンコウの提灯か……
感心している場合じゃないね。
「今助ける!」
距離があるしバローくんはさらに遅れている。
この水洞にいるスライムに"正気落とし"のような打撲系や"Eスピア"のような刺突系は効果が薄いのはこれまでで分かっている。
普通のスライムも多少防ぐがここのはそんなことするくらいなら切ったほうが良い。
スライムの体内では全身に溶解液をねじ込まれ抵抗すら難しくなるだろうが私たちの魔法によって息は大丈夫なはず。
今のうちに!