三百一生目 仮定
カルクックたちに乗り込み階段へと向かう。
カルクックたちは大量の魔法がかかっても不安そうだが今は大丈夫だ。
なにせ私がホリハリーでかなり丹念にいじり力を込めていじりまわしバローくんも協力し完成させた水中行動一式魔法だ。
市販されている道具を使うのが冒険者たちの基本らしいがそれらよりも遥かに性能が良いと自負している。
効果時間もバローくんと研究した魔法記述を書き込みまくり飛躍的に長い。
身体に直接書いて発動すれば消えるタイプ。
あまりにも自然に漂うエネルギーが無いところでなければ水の中で暮らしすことすら出来ちゃいそうだ。
やらないけれど。
「ね、ねえ、完全に水に沈んでいるんだけれど、本当にいける?」
「行けるようにしたから、いける……! 私も行きたくないけれど、行くしかないから……!」
「ううっ」
私と私がのるカルクックが先頭。
おそるおそる足を踏み入れれば今度はもちろん水の中に足が沈む。
ただ多重に使った魔法たちが発動し光が足に纏う。
きちんと機能している証拠だ。
さらにゆっくりと踏み入れてゆくとカルクックが違和感に気付いたらしい。
少しテンポを上げてズブズブと入り身体を沈めていく。
ここで違和感がハッキリしたらしい。
「み、水の中なのに嫌な感じがしない!?」
「むしろ身体が軽いいいいい!」
「冷たくない!!」
喜んでいただけたところでさらに歩みを進めると完全水没。
カルクックたちは思わず息を止める。
「大丈夫、息できるようにしてあるよ」
「がぼ……お、おお? 本当だ!」
いやあ水慣れ訓練しておいて良かった……!
前の私だったら分かっていても沈んださいに気を失って溺れていた。
陸以上の快適状態にして溺れる初の生物になるところを回避。
階段をテクテクとカルクックで楽々降りている間揺られながらこの階段の厄介さと迷宮について考える。
まず車輪のあるものは通れないから運搬効率が劇的に落ちる。
階段を重い物もって運ぶのは苦労するから自然に迷宮内のものは貴重品になる。
そもそも迷宮内はむき出しの自然が襲いかかる危険な地域でまともな装備を持っていてもちょっと居場所をさ迷ったら道もないので土地勘が無ければ死線をさまよう。
それだけでも危険なのに魔物がはびこりいつ牙を剥かれるかわからない。
なるほどニンゲンからすれば地獄のような場所で中の物は貴重品になるだろう。
ちなみに本によると運搬のために滑車設置など考えたこともあったらしいが別世界に出入りする影響かそのどれもがうまくいかなかったらしい。
洞穴自体も道幅もそんなになく高さがまあまあある程度だ。
もちろん破壊して大穴を開けようという計画もされたらしいが……
そこに出来たのはただの大穴。
階段が吹き飛んださいに迷宮が消えたらしい。
まったく別の場所に同じ迷宮への入り口が数年後発見されたとの記録も。
そこでニンゲンたちのたてた仮説によるとどうやらこの階段と洞穴が重要な触媒として世界と世界を繋いでいるということだった。
階段を少しずつ登り降りする行為そのものが魔術的行為になり。
周囲から覆い隠すような洞穴内であることが次元を超越するためにあらゆる観測から隠蔽する。
まあつまりは穴を掘れば下に異世界があるわけではないのだ。
私たちは『迷宮の出入り口』と読んでいるところでまったく別の世界にワープする儀式を自然に行わさせられているというのが今のところの正解なのだ。
だから大穴あけても地面があるだけで。
金の卵を産む鶏の腹を裂いても金はない。
そうこう思っているうちに問題の迷宮内にたどり着いた。
空からは光源が謎の光が降り注ぎ底まである程度明るいが天まで水で満たされた洞窟内。
水洞の迷宮。
底は砂で水は淡水……かな?
陸地は隆起に富んでいるが重要なのはここが水の中だということ。
水の底を歩くよりも快適な移動手段があるのだ。
「よし、泳いで!」
「お、おう?」
「こう……?」
「およぐのはじめててて!」
カルクックたちが軽く跳び羽ばたきつつ足をこぐ。
魔法の効果もありあっという間に加速を得る。
水の中を突き進んでいく感覚が面白い。
「しばらくは探索ですが……どこまでいけば良いのか見当もつかないですね」
「まあおおよその異変発生地はわかっているからのんびり行こう」
「ユウレン様にもぜひ体験していただきたいです」
光魔法"ディテクション"で脳内地図を作りつつバローくんが紙面上の地図も作り始める。
魔法で紙やペンが水に濡れる心配はいらないし泳いでいるから揺れも少ない。
しばらくは気楽に遊泳だ。
……目の前に明らかに好戦的な魔物がやってこなければ。
魚型だったら心臓が止まっていたかもだが蛇のような……いや海蛇というものだろう。
早速ご挨拶に牙をむき出している。
カルクックたちから降りて戦闘だ!