三百生目 水渡
「ついにこの日が来ましたね!」
「ええ、またカルたちも前の彼らを借りてきました」
「私のこれまでの日々、無駄にはしない!」
今日の私はいつも以上に気合が入っている。
このぐらいテンションを上げないとやっていけない。
ニンゲンの街門付近だからホリハリー状態で服も着ている。
「ま、またアンタらかー!!」
「毎回毎回つらい依頼らしいな……」
「どうせまた私達カモフラージュに使われるだけ……」
足の速いカルクックたちことレンタルカルクックたち。
走る烏骨鶏の魔物ながら私たちはよく事情を知りなんやんかんや仲良くなっている彼らを良く借りていてた。
ただ最近乗って走ってという出番がなくてアノニマルースで待機することが多い。
ぶっちゃけカモフラージュで借りるだけで実際の仕事は私が現地まで走って終わらせることが多いからだ。
カムラさんはアノニマルース内の仕事をバローくんは実験と開発をしてもらっている。
同じチームなら誰が最終的にクリアしても問題ないしね。
「あ、今回は普通に走ってもらうよ」
「え! そうなのか!」
「うん、とりあえず近くまで飛ぶために目立たないところ行こうか」
「走るんならがんばるるるる」
人目の無い場所まで移動して空魔法"ファストトラベル"ワープした。
ついた場所は海。
まずはここから現地に向かう必要がある。
そのための準備はしてきた。
「それで、どこを走れば良いんだだだただ?」
「海」
「へ?」
「海」
カルクックたちがさっぱりわからないという顔をしている。
まあそうだろうね。
魔法準備しよう。
「"水面を土のように踏みしめ蹴らせる加護をかの者の脚に宿し守り給え、ウォークオン"」
「う、うえ?」
「今一体何を……?」
「わ! 俺達の脚が光っているるるる!」
本で覚えた魔法を詠唱で知っている中で1番素早く唱えられる言語で"サウンドウェーブ"使ってめちゃくちゃ早巻きで再現したから1秒くらい周りに変な音が聴こえたかもしれない。
「大丈夫、魔法を唱えただけ。これで海の上に乗れるよ」
「僕も覚えましたけれど、あんなぶわわーんみたいな発声の詠唱でしたっけ? いや、翻訳はわかりましたが、音が……」
「ちょっとアレンジしたからね」
「な、なるほど」
私が何かあっても大丈夫なように水まわりの魔法はバローくんにも覚えてもらっている。
ちなみにスキルで覚えていない魔法は魔本づくり不可。
2冊買い揃えるのがなかなか骨が折れたが私依存での組み方は危険なのはすでに学習済みだ。
カルクックたちに乗って指示しそっと海の上に足を置いてもらう。
海にぴちゃりと入り込むことなく足が上に止まった。
カルクックたちの顔がぱああと明るくなる。
「おおお!! 面白い!!」
「いこういこうこうこうこう!!」
「ヒュー!!」
そこからのカルクックたちは早かった。
海を蹴り波を飛び越えあっという間に加速する。
カルクックたちは本当に走るということが楽しくてしかたないという様子だった。
同方向に進み続けることでひとつの小島が見える。
本当に小さい島で潮の満ち引きによっては消えてしまうのではないかと思わせる。
そんな儚げな島。
その島に上陸すればすぐにそれが目につく。
地下に向かって掘り進められている地面と階段。
そして当然のように途中から水が満たされているということも。
「ここが迷宮の入り口……私は初めて見たよ」
「この先に行くのは確かに準備がいりますね」
「じゃあ早速やりましょう!」
カムラさんとバローくんとそう話す。
一方カルクックたちはいかにも仕事休憩といった雰囲気。
「よーし、珍しい体験もしたし、素直に待つかなー」
「楽しかったねぇ」
「またやりたいたいたい!」
「……キミたちも行くんだよ?」
その言葉に3頭は露骨に固まった。
「……え?」
「え゛」
「えええ!!!?」
そんなカルクックたちの事はともかく私やバローくんは覚えた魔法をテキパキ詠唱していく。
雑に唱えれば良いわけでもないから集中しなきゃね。
空気発生の魔法は常に新鮮な空気が発生して息の出来ない場所では必須。
耐圧の魔法で全身を覆って水圧に耐えられるようにしないと一瞬で潰れて死ぬ。
水中発声の魔法は水の中で音を聞き声を出してやり取り出来る珍しいものだとバローくんが言っていた。
その他もろもろ必要な魔法をかける。
体温維持やら吸水防止やら。
これでもかと多数かけて最終的には陸上以上に自由に動けるようになったはずだ。
「本当はここまではする冒険者はいないんですけれどね……行動力ももったいないですし」
「事前準備はしっかりしないと! 水の中だから! 死んじゃうから!!」
バローくんがやや呆れてるが私は間違っていない……!
水の中だなんて陸よりはるかに動けるようにならなきゃ絶対に危険だから!!