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二百九十八生目 三途

「それでは、冒険依頼だ!」


 ギルドマスターのタイガから私とカムラさんとバローくんに冒険依頼が正式に出された。

 国からギルドへギルドから私達へ。

 これをこなせば晴れて最下級冒険者ランクから脱出だ。


「どんな内容なんですか?」

「これだ。『水洞の迷宮内でちかごろ魔物生態系が大きく崩れている。水中探索準備を整えて現場の調査、できるならば原因を解決』だそうだ」


 ……ん?

 んんん??


「み、水の中ですか?」

「そうだ。事前準備は大変だがちゃんと対策さえすれば……おい、大丈夫か? 何かすごい顔しているぞ」

「だ、ダイジョウブデス」

「……泳げないのか?」

「ぐふッ」


 本当は泳げないだなんてレベルではない。

 魚はヤバイって!

 さらに水の中に行くだなんてなんて冒険だ!!


 これは私を効果的にハメ殺したいニンゲン側の緻密な調査による結果水の中に沈めるのが有効ということが判明し早速利用することにしたに違いない!!

 クッ、なんてニンゲンは恐ろしいんだ!!

 やはりニンゲンは凶悪で友好など不可能なのでは……?


「まあ泳げないのは仕方ない! 今度練習すると良い」

「えっ」

「大丈夫ですよ、私は泳ぎを教えることもできますから」

「えっいや……」

「僕も得意じゃないですから、一緒に特訓しましょう!」

「ウッ」


 やばい。

 善意に殺される!

 許さん。

 許さんぞこの依頼を考えた誰かー!!!





〜〜

「へくしょっ」

「おや? オウカさんひとつ賢くなりました?」

〜〜





 とまあ恨み言を吐いてみたものの。

 結局受けることになって私たちは川へとやってきた。

 街の近くに流れる大型の川で暑いこの時期は涼みに来るものが多い。


 もちろん魔物も魚も普通にいるがニンゲンたちが賑やかなせいで表には出てこない。

 私たちはレジャー組から離れてちょうど外部からは見えない岩場に囲まれたなだらかな流れの場所にいた。

 私は普段のケンハリマの姿だ。


「ようし、泳ぎますか!」

「うおお……吐きそう」

「大丈夫です、少しずつ慣れましょう」


 バローくんはテキパキと脱いで下着だけになって川の中に足をひたす。

 カムラさんは何も気にすることなく川の中に身体を沈めた。

 大丈夫? 魚にかじられない?


 深さはカムラさんの膝下程度。

 さらに奥にいけば泳げる深さになるらしい。

 カムラさんが私へ向けて手を伸ばしてきた。


「さあ、まずは近くへ」


 水を飲むことはもちろんするから近くによることは出来る。

 だが最終的に泳ぐことになるかと思うと異常に足が重く感じる。

 のそりのそりとなんとかたどり着いた。


「それでは、落ちないように支えていますのでまずは前足から水につけましょう」


 カムラさんが胴体を抑えてきてそうっと前足で水を叩く。

 なかなか冷たいがさすがにこれだけなら大丈夫……

 ふぅー、すー。


「では、元の姿勢に戻って……バロー君、少しずつ身体の端から水をかけてあげてください」

「はい!」


 バローくんが水の中に入り少しずつ私に水をかけていく。

 うう、大丈夫、水浴びそのものはよくやる……!

 身震いして水場を飛び出したくなる衝動を抑えつつ全身に水がかかるまで待つ。


「いい感じだと思います」

「うう……ぬれぬれ!」

「いい感じですね。次は頭の上からこれを使って水をかけてください。そこそこ勢い良くても良いですよ」

「はーい、いきます!」


 カムラさんが指したのは小さいツボ。

 バローくんが水を汲んで掛け声と共に私に水を頭からかける。

 ぶえ、息が出来ない!

 鼻に水が入る!


 水はすぐに止んだがカムラさんの指示で次々と水がかけられる。

 1回はすぐに止むから窒息することはないが心理的負担が大きい。

 だがカムラさんは私の様子を事こまかに観察して息と気持ちが持つように絶妙なタイミングでかけてくる。


 そのせいで時間はかかったがなんとなく慣れてしまった。

 恐ろしいことだ……

 特に頭の上にある耳の中に入ってくる感覚は慣れておいてよかった。


 出すにしても中に置いておくにしても水が中にある感覚にパニックにならずに済む。

 そしてついにその時がやってきた。


「はい。ではそろそろ……水の中に入りましょうか。動かなくて大丈夫です、私が抱きかかえます」

「は、はい……」


 ひええええええ!!

 ついに来たああああああ!!

 身体がガチゴチに固まる。


 尾が自然に股を通って身体にまとわりつく。

 引け腰になり身体がガクガクと震える。

 恐怖の青!!


 カムラさんがそっと腕を回してきて抱きかかえる。

 力強く抱き上げられそのまま川の方へ歩く。

 ぎぃえええええ!!


 ものすごくやめたいがここでワガママ言って迷惑かけるわけにもいかない。

 というか返してもらえなさそう!

 三途の川行き片道切符!!


「では少しずつ漬けますね」

「は、はいい」


 うわああああ!!

 水だああああああ!!

 私は狂犬病ではない!! 私は狂犬病ではない!!


 少しずつ肉体が水に溶解されていく!!

 イヤーッ!! こわい!!

 だっ、誰かー!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ホエハリ族は外見は犬との中間でも、水を怖がる性格は限りなく猫に近かったのかー。
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