二百九十七生目 依頼
サイクロプスリーダーの指示通り彼の住処に行けば巨大な鍛冶施設があった。
それをまるごと群れに転送し再設置。
どんな鉄でも打ち据えられる巨人象たちの鍛冶施設だ。
「それにしても持ってきちゃってよかったんですか?」
「ふン! 敬語は良い……俺たちはお前に負けタ。それにここの環境もまあ悪くはなイ。あれほど毎日壊し足りなかった思いが、なぜか今はスッキリしていル。つまり良い気分だかラ、気前良くやるって事ダ」
「うん、ありがとう!」
どうやら精神の異常が治り自殺衝動が治まっただけでなくて負けたりよく寝たりここの食事を食べたりで【暴剛の】と呼ばれた破壊衝動も治まっているらしい。
もしかしたら"無敵"と"ヒーリング"の組み合わせ技も効いたのかもしれない。
そして友好の証にサイクロプスリーダーと握手した。
……と言っても前足をつままれたというのが近いが。
しばらくするとサイクロプスたちが各々の大きなハンマーやらハサミやら多数の道具の音が聞こえだした。
通常水車などの動力を駆使しなければ扱えないサイズのハンマーがこなれたリズムで叩かれる。
これから本格的な鍛冶環境を自分たちで作り出すらしい。
「で、あのショボい施設からどうしたいか希望はあるのカ? 少なくとも魔力の種火に耐えられるようにはしたいガ」
「案なら色々ある! ただ今までなかなか実行に移せなかったから……」
「ほウ? どれどれやってやル」
サイクロプスたちと話をして引き受けてもらった。
贅沢にあれやこれやリクエストしたが2つ返事でオーケー。
「強いやつの鍛冶場が弱いと許せんからナ!」
と彼らなりの理屈だったらしい。
夜の散歩を続け今日スカウト成功したサイクロプス以外にも50匹ほどの魔物たちにも会った。
今日はまあまあの成績だったが鍛冶が出来る魔物が来てくれたのが良かった。
これでまた一層の発展が出来るだろう。
自身のテントに戻りそこそこ仕事を終わらせキリが良い所で読書に入る。
今日はニンゲン界における鍛冶技術について。
読むと魔法を使う鍛冶や魔力の種火についても書かれていた。
適当なところで読み終えストレッチを行う。
寝る前に身体をいたわるのだ。
適度にほぐせたら再び就寝。
ぐるりとまるまって眠ればあっという間に夢の中に入れるだろう。
今日も1日良い日だった。
おやすみなさー
「おやすみなさいませ、主」
……一瞬だけアヅキの気配が降り立ってすぐに飛び去った。
「お、おやすみ……」
いつものことながらちょっと怖い。
日付が変わり。
今日私はニンゲンの街にやってきていた。
カムラさんも一緒で普通の依頼を数日かけてこなして帰ってきたという設定だ。
宿屋に行きギルドマスターのタイガに依頼報告をする。
ちなみにタイガ自身は私イコール魔物だということは知らない。
「これと、これと……おおそうか、【暴剛】の調査依頼もあったな。最低ランクに任せるものじゃあないとは思うんだが、上がやってほしいとのことだったな……まあ心配はいらなかったようだな。どうだった?」
「はい、その場に行って見ましたが確かに木々がなぎ倒されたり生活跡とかはありましたが、【暴剛】とその群れは見つかりませんでした。それと鍛冶場もなくなってごっそり跡があるのみだったので、引っ越しを行ったのかもしれません」
嘘は言っていない。
こういう依頼が積極的にこのギルドに回されている。
まあ間違いなくオウカやゴウのどうにかしてくれという合図だろう。
「わかった。最近確かに魔物たちの移動が多いようだな……勢力図が不安定なのかもしれん」
「ですねぇ」
雑に相打ち。
引っ越しと伝わればだいたい想像がつくだろう。
貸出用の写し絵の箱……つまり白黒写真カメラも返す。
「じゃあこっちで現像しておく。おつかれさん……おっとそうだ」
「どうしましたか?」
「そういえば新しい依頼がある……というよりも、ついに例の依頼が来た、といったところだな」
カムラさんが訪ねるタイガが返した答えに私もついにかとツバを飲んだ。
「冒険依頼がお前たち3人に下った。そう言えばバローは?」
「自室で杖の点検をしているはずですよ」
「よし、じゃあ揃ったら正式に依頼だ」
ついに冒険依頼。
昇格のチャンスだ!
「バローくん、入るよー」
「はーい」
ガチャリとバローくんの自室の扉を開ける。
そこで見たのは……
「うわっ、すごい物の量!」
科学実験的なフラスコから謎の薬品。
前世知識にはない魔法的な実験セットまでが部屋の中に溢れかえっていた。
あちこちにノートや本も積まれていて宙に浮いている石やかっこよさげなおもちゃもおいてある。
「あ、ローズさん。おかげで必要な実験道具も次々買い揃えれてますよ!」
「お金、使い果たさないようにね……」
「ははは、さすがにもうお金に目がくらんで高いものを買い集めようとはしませんよ! 必要品だけを改めて考えていったら、逆に持て余していてちょっと杖の改造に手が出せるくらいですよ」
前に杖の改造は深みにはまるといくらでもお金と時間がいると言っていたけれど大丈夫かな……?