二百九十五生目 率者
畑は実っていた。
ニンゲンの農業関係者から得たいくらか品種改良をした小麦や大麦の種に魔法やら化学やら必死に作り3代目。
1代目はすぐ枯れたり芽がでなかったり。
2代目はアノニマルース内密林のように急速に成長はしたものの実ることもなくただ立派になって。
3代目にしてやっと、やっと実った。
実ったぞー!
小麦畑と大麦畑はそれぞれ分けて気候すらも魔法陣で弄ったのに実りだしたのはどちらも同じ代とは。
おや、あそこにインカがいる。
「あ、妹か! どうだ? これで成功なのか?」
ここの管理者でもあるインカが私に気付いた。
インカはどの状態が成功なのか知らないから仕方ない。
と言うかまだ美味しいかどうかも不明で実験用の小さい畑でしか無いけれど。
これは言っちゃっていいだろう。
「今の時点では大成功だよ!」
「よっし! やったな!!」
インカが飛び跳ね身体を寄せてこすりあわせいわゆるハイタッチの代わりである。
うれしさを全身で表すのはインカの良いところだ。
特にしっぽ。
「よし、俺は他のやつらにも知らせてくる! 妹は次にすることの準備頼んだ!」
「わかった!」
任されたからにはキリキリ働こう。
おいしいご飯のために!
飢えて生きるなんてまっぴらだからね!
農業関係もろもろを終えたら今度はアノニマルース内の雑務だ。
みんなも多数仕事をこなしてはくれているがどうしても私でないと出来ないものが多い。
テントに戻ったら積まれていた書類やら木片やらに書かれた記載の山なんかもそうだ。
目を通して了承してを繰り返しつつも横をチラと見ると魔本たちがまた増えていた。
1度読み魔法記述が消えただの肉球印影のある紙束になっていたものたちも魔本が勝手に自身の写本にするように仕向けてある。
普通は何か書いてあるものにはしないがほとんどおんなじで魔法記述がなければ魔本化させるようにちょっと組み直したのだ。
おかげでリサイクル利用が出来てオトク。
これらの書類ものちのち裏面で別の魔本にしてしまおう。
次はどんな魔法にしようかな。
最近は"率いる者"自体のレベル上昇とその便利さが普及してきて空魔法"ゲートポータル"で九尾家とここアノニマルースをつなぐ作業は別の魔物たちにやってもらっている。
ぶっちゃけ"率いる者"で主に行動力を消費するのは私だし私が行動力タンクになれば良いだけだからだ。
"無尽蔵の活力"で行動力は次々わくし最近はみんな遠慮なく私の魔法やらスキルを借りているので"無尽蔵の活力"は"率いる者"で鍛えにもなって良い。
バンバン借りられる履歴はこちらにも分かるから何がたくさん借りられたかもわかる。
今のところトップは"以心伝心"である。
念話と感覚共有のスキルだが確かに普段から便利だ。
次に多いのは火魔法かな。
訓練と点火と便利なことに代わりない。
ちなみに"率いる者"で借りるさいに少し借りる側も行動力を負担することになる。
さらに使用経験は私に加算されるためかなりオトク。
あくまで借り物ということだ。
そんなことを考えつつ書類に向き合っているが……これも代わりに誰かやっておいてくれないかな?
ダメ?
そう……
ひーこら言いつつ机上での雑務をこなした後はドラーグに"無敵""ヒーリング"掛け合わせをしたりもろもろ片付けなくちゃいけない仕事をこなす。
その後は訓練場に赴く。
朝のところは肉体を鍛える場所だが今度は……技と心だ。
まあ変な言い回しをしなければ戦闘技術やら戦闘時の心理状態について学ぼうのコーナーだ。
ここでは細かい攻撃のやり方や避けたり受けたりの仕方それに耐性なんかも鍛える。
目の前では火魔法"フレイムボール"の捌き訓練をしていた。
「引きつけて! 避けるさいはつながりを意識! 自分の武器で切り払って直進!」
避ける係は受けたり避けたり切り裂いたりしながら火の玉を当てる係に接近しタッチしたら交代。
魔法の使い方を覚えるのと同時に火に対する恐怖やしのぎ方を覚える。
なお私のを借りている魔物がほとんどだが自前でなんらかの魔法を調達している魔物もいるようだ。
「お疲れ様ー」
「あ、お疲れ様です!」
指導にあたっていたハイエナリーダーに声をかける。
彼女は元々群れのトップをやっていただけあってとても優秀だ。
少しの指示でも抜群の効果を引き出している。
「今日もやっているね、効果はどうお?」
「はい! 実際に前に出る者たちは火の正しい恐れ方を習得出来ています。かなり実戦向きかと」
対処に慣れ火はなんでもないと思ってしまうのも危険だ。
全身に火が回れば酸欠になって死ぬ。
私の"四耐性"を借りて訓練していても十分危険さはわかってもらえたしだからといって過剰に怯えずとも良いと理解できているはずだ。
戦闘時はどのような攻撃でどのぐらい危険かわからないと攻めあぐねるし守りも最適を選べない。
知識を身体と心にも覚えさせる訓練は大事だ。




