二百九十三生目 単眼
良い汗をかいたあとは外界へ出る。
その前にドラーグに会った。
ニンゲンの業者たちと工事現場で仕事をしている。
「あ、そこ回してから降ろしてください。そこはそのまま! ええと、次は……」
「ここはこうじゃあないか?」
「いやここはこうじゃろ」
ドラーグは職人たちに囲まれて図面とにらめっこしながら会話を交わしていた。
現場にも声をかけつつと忙しそうだ。
声掛けだけにしておこう。
「ドラーグ! ちょっと外に行ってくるね!」
「あ、いつものですね。いってらっしゃい! ええと図面ではこうだけど今ここは補強要求されているから……」
忙しそうなドラーグの邪魔をしないように立ち去った。
空魔法"ファストトラベル"で外界に到着!
迷宮という別世界から本来は洞穴の階段を経由して行き来するのだがワープすればすぐに行き来出来る。
さーて今日のお仕事やっていこう。
私は最近とにかく探索範囲を広げている。
今の場所はニンゲンの街からさらに向こう側だ。
グッと足に力を込めて……蹴る!
単独だからこそ出来る全力疾走!
カルクックよりも遥かに速く!
あらゆる場所に目を向けて新しい"ファストトラベル"での移動先になりうる特徴的な場所を探す。
あ、やたらデカイ虫の繭跡。
さらにこれをやりながら光魔法"ディテクション"で魔物やニンゲンの姿を探す。
ニンゲンは避けて魔物は……おや。
強そうな反応を見っけ。
行ってみよう。
行きました。
目の前にいるのは見上げる程度に大型の魔物。
1つ目に大きな象牙。
人型で手にどこから持ってきたのか鉄柱を携えている。
ああ確かこれはサイクロプスだのキュクロプスだのと言われる怪物だ!
["暴剛の"ドンプロ Lv.8]
[ドンプロ 1つ目巨象系の魔物の中でもトランスしていて高度な鍛冶技術を持ち多数の同種をまとめるリーダーをしていることが多い。同時に他種に対してひどく粗暴]
[暴剛 人間種が金剛のような鉄塊を持って暴れまわる様を観測してつけた二つ名]
「パオオオオオン!!」
うんなかなかよさそう。
鉄塊がぶんぶん振り回されて周りの木々が倒されているけれど。
あの鉄塊を持ってきたんじゃなくて作ったのが良いな。
騒動に気づき周囲から同じようで一回り小さかったり雰囲気も弱そうだったり体色も違うサイクロプスたちが現れた。
全員獲物を構えて臨戦態勢。
"観察"をして……と。
言葉が理解できるようになるまで粘らなきゃな。
よっと!
容赦なく振り下ろされた鉄塊を跳んで避けたら戦いが始まったらしい。
次々と攻撃がやってくる。
ただまあ……慌てるほどじゃないかな。
よろしくドライ! 交代!
あいよー!
"私"が身体の操作をして相手の丸太をはたき落とす。
相手が驚いているスキに"正気落とし"!
相手の頭上で光を纏って尾での一撃。
もろに後頭部に入り1体が沈む。
その沈み際に相手を地面にして跳ぶ!
次のやつの肩に乗って"正気落とし"!
頭を蹴って気絶させつつ次々高速で縫うように移動し連続発動!
"正気落とし"!
"正気落とし"!
"正気落とし"!
どんどんと気絶させていく。
おっ、サイクロプスリーダーがやってきたぞ!
頼んだ!
(空魔法"エクスペンション・エア"!)
[エクスペンション・エア 気体しかない空間で気体を急激に膨張させる]
かなり変わり種の魔法だがちゃんと分かればかかり使える。
薄い膜で包まれた球体……つまりはシャボン玉のような魔法の光がサイクロプスリーダーの目の前に現れる。
気にせず突っ込むリーダーサイクロプスに対して接触する直前に急激に膨らむ。
「うわっ!?」
エアバッグのように大きく膨らんでへこんだあとにトランポリンのように強く跳ね返した!
体勢を大きく崩し思わず倒れ込む。
おっと言葉がわかるようになったな。
「スカウトをしにきた! キミたちは私の群れで働く気はないか!? 断っても殺したりはしないけど話をまず聞いてくれ!」
「なに!?」
「言葉が!?」
ザワザワとサイクロプスたちの間で動揺が走る。
後頭部を抑え痛みをこらえてサイクロプスリーダーは立ち上がった。
戦う意思はその1つ目から消えていない。
「ウロたえンな!」
「しかしボス、予想より強い!」
「話だけでも……」
「るせエ! チビすけに負けるわけあるかァ!!」
「さ、さすがボス!」
「やっちまってくださいボス!」
対して周りの士気はガタオチ。
連続で仲間がやられて腰がひけたらしい。
15ほどいたのが半分になったのかな。
おだてられ得意げになったサイクロプスリーダーが前にでてくる。
"私"より数倍ある鉄塊を軽々持ってもう片方の手のひらにポンポンとやっている。
あれか。もしやまだ目の前まで迫ればビビらせられるとでも?
「死ねェ!!」