二十七生目 四月
視点変更 主人公
私が縄文炒めを完成させた日から2ヶ月が過ぎた。
私は次々に縄文煮だの縄文ハンバーグを作った。
量が出来ないため少しずつ先着順だ。
最初は私やインカとハック、それにイタチくらいだったがどんどんと食べてくれる相手が増え本格的に先着順となった。
それに、焚き火自体が好評だった。
最初は煙を見たニンゲンの接触を恐れたものの、結論から言えば誰も来なかった。
逆に他の冒険者がいるかも? とか思って別の場所でキャンプをはろうと思ってくれたのかも知れない。
なのでみんなで調子に乗ってガンガン数を増やした。
少し教えれば私より体格もレベルも良いおとなたちが真似出来ないわけない。
調理型と土器焼き型を量産し、土器を作っては料理を作った。
土器は様々な形に及ぶ。
おとなたちは手先が大きいせいでやたらと土器が巨大化する。
対して仔である私達は小さく技巧をこらせる。
徐々に紋様とか刻むタイプも登場させた。
私は不可もなく可もなくといった感じだが意外に得意だったのはハックだ。
美術系というやつかな?
私やインカはとにかく実用品を作る。
対して、ハックは将来教科書に載るんじゃと言うものを作る。
ハニワとかじゃあないがハックの頭の中をそのまま抜き出してきたような代物たちだ。
意味のわからない螺旋、板状の物に思いのまま描いた謎の紋様、何かを模したらしい不気味な塊。
粘土質の土をわざわざ前足につけてペタリと押し付け肉球の型を色んなものにつけてから焼いたりもした。
肉球の跡がかわいいというのは割りかし人の感性だと思う。
ケラケラ笑いながらやるあたり面白がってるだけかも知れない。
何にせよ野生生物でもここまで美術寄りは珍しい気がする。
前世の知識をサルベージしたら象が絵を描いていたから無いってわけじゃあないが。
そもそも人も徐々に絵を描いたり出来るようになった。
そんで前世ニンゲンな私は普通に弟に負けているあたり特権ではないのかもね。
そんなわけで私はキッカケを作っただけで後は面白いように転がっていった。
少し教えただけで後は自力で学んでいくのだから頼もしいことこのうえない。
最初は土器になりかけた壊れ物が量産された。
次第に飾るくらいなら出来るボロボロ土器になる。
今では実用も鑑賞も可能なものがズラリと並んでいる。
鍋に壺と皿にくわえて使う匙。
棍棒のようなものもある。
ちなみにドングリを潰すためだ。
ちなみに土器を完成させると[魔法の土器を作成 +経験]と表示される。
本当に何やっても経験になるな!
ただ、これは強さに還元されるのだろうか?
手先が器用になり技術能力が向上するあたりかな。
みんなが増えた娯楽である土器創作にうつつを抜かせたのはもう一つ意外な理由があった。
食べ物を加熱してから食べる事で栄養吸収率が増していた。
サルベージしてから気づいたのだが、私が個人用に楽しむための作業が結果的に群れの補助に成り立った。
私が獲ったものだけでなく、おとなたちが自分たちでとってきたものを積極的に調理した。
まだ猫舌な者は多い。
ただ、私が『舌先に熱いものを乗せなければいいよ』と教えたら人肌程度のものなら食べられるようになった。
今ではおとながつくることが多い加熱調理で良く多いのはドングリと肉のキノコスープだ。
キノコを乾燥させたものを水で戻してダシを取る。
その日獲った肉とドングリを足す。
煮込んで味を塩みたいな実で整える。
辛味のあるきのみも潰し混ぜておく。
そうすることでおとなたちに好評なものが出来た。
仔どもであるハックやインカに人気なのは縄文スライムか。
名前だけだと意味不明だが簡単な話だ。
スライムがやたら甘いので焦がさないように煮詰めてみた。
そうしたら砂糖ではないものの甘いドロドロが取れた。
恐らくでんぷんの親戚だ。
コイツをドングリ粉に練り込む。
油だらけの実を潰し入れる。
塩っぽい実等お好みで混ぜてよーく固める。
遊び心をわすれない用に肉球ハンコもつけてある。
下が平らなタイプのフライパンなりかけみたいな土器でよく焼いて出来上がり。
不格好ながら甘味だ。
でんぷんの親戚みたいな奴はカロリーになる。
インカはコレが尽きるとすぐに次を要求するがさすがにそこまで食べるとデブる。
元々は保存食にするために粉加工したドングリたちが飛ぶようになくなり大忙しだ。
スペード隊がドングリ係と呼ばれる程度には働き詰めである。
とは言っても全体的には大きく改善傾向にある。
次までの空腹を紛らわす時間を活動に回しても栄養が足りてるため平然としているからだ。
火も既に私ではなくおとなたちが火の付いた枝を運んで付け回している。
少し離れた位置に天然洞穴もあるのでそこには雨が降っても消えない焚き火も作ってある。
炭を作るのが理想ではあるが加熱温度的には難易度がまだ高い。
ただ、私の手から既に離れた火の扱いは彼らに任せていればなんとかなるだろう。
クローバー隊も既に何回か群れを出入りしている。
帰ってくるたびに新しい話を持ち帰ってくるのは彼らの才能なのだろうか。
クローバー隊たちはむしろ群れ内の変化のほうが面白そうではある。
でも私としては外の話はやはり貴重だ。
私のレベルはここ最近でレベル21まで上がった。
生まれてから2ヶ月で16まできたのにもう2ヶ月で21までしか上がらなかったのは複数の要因があると考えた。
まず、1対1の命がけの戦いはしていない。
複数対1で安全に狩りをするのがメインだ。
そして相手の強さである。
大きさや強さはバラバラである。
ただ私達が狩る対象の殆どがおとなホエハリ換算でレベル3〜16程度だ。
格下を安全に狩って食事するという実に理にかなった狩りは成長の停滞をしていた。
そしてコレが一番どうしようもない。
レベルがあがると次までに必要な経験量が明らかに増している!
今ではスライム何匹斃してもレベル上がらないんじゃあないかなというのが正直な感想。
ハートペアなどの兄弟たちと稽古していたほうがまだ良い。
自己鍛錬も完全に『継続すればいつか力になる』程度には落ちてきている。
まともに器具もないし割りとどんづまりだ。
ただ、それでも私の成長は早い方らしい。
見た目もグングンと身体が伸びてきて成長期と成長痛を感じている。
脚、脚が痛いのよ。
いわゆるスポーツ障害。
もちろんヒーリングで筋肉の剥離を治すものの痛いもんは痛い。
見た目の変化はインカの方が凄い。
筋肉の付き方がキングに似てきた。
栄養効率改善の成果がタンパク質摂取量増強に繋がっているのか筋肉! って感じになってきた。
それでも、強さの成長は私のほうが上だ。
インカは戦いで、ハックは芸術で能力を増しているがそれでもレベルは13程度で停滞している。
ハートペアと最初会った時のレベルも13だったが一応インカとハックは私が鍛えている。
そのため積極的に強くはなっているはずなんだが、究極的に言ってしまえば安全圏で集団狩りしか経験していない差かもしれない。
さらにスキルだ。
私と周りのみんなで話を聞くにスキルツリーの派生系が違うのは把握出来ていた。
これは個体差というやつだろう。
種族的に土魔法を覚えやすく、最初は串刺しを習得している。
そこまでは同じだが先にいけばいくほどスキルの覚えが変わっていく。
インカは未だ光魔法がないしハックは私には無い"盾防御"を覚えた。
防御は全身に軽い鎧を着たように膜が覆い守ってくれる。
盾防御は小さな自由に動かせる小さなタイル状が重なった五角形が発生。
防御より強力に守ってくれるというスキルだ。
鎧に盾と頑強な守りになるだろう。
そしてこれが大事な事だが、どうやら私のスキル成長はめちゃくちゃ早い。
他の仲間は串刺しひとつとっても自力で使ってレベル上げようとしても滅多に上がらないのだとか。
だから普通はスキルポイントを使って強化する。
レベル上がる時に入るポイントは使えば増えるスキルに使うのはもったいないかなーと思っていた。
けれどそもそもスキルポイントじゃないと伸びないと聞いた時はビックリした。
土魔法みたいなやつらはスキルポイントではレベルが伸びないから年単位で使い込んでレベルを上げるそうだ。
比較的インカやハックが伸びやすいのは私と同時に産まれたから?
推測をするしかないがとにかく私はめちゃくちゃ伸びやすいらしい。
ならばそのボーナスタイムがいつまで続くかわからないので今のうちに鍛えるっきゃない。
ぶっちゃけ成長期ボーナスな気もするしね。
そんなわけでだいたいのホエハリの仲間はスキル取得数がこぢんまりとしている。
そしてスキルポイントで地道にスキルレベル上げをしているわけだ。
疑問が解消したと思ったらまた疑問が増えてしまった。
とりあえず今の私の中で前からあったのはこんな感じ。
"串刺し6" "光神術3" "観察5" "無敵3" "カウンター3""防御6" "光魔法4" "光耐性2" "幸楽2" "峰打ち4" "回避4" "土耐性2" "行動力節制2" "土魔法2" "魔感2" "火耐性" "火魔法2"
大きい変化ではないかも知れないけれど、これでも強くなる速度が早いとか。
基本形がちょっとずつ増して今までピクリともしなかった幸楽と行動力節制のレベルが増えた。
行動力を戦闘時以外自動回復に行動力をあまり使わず同じ力を発揮するスキル。
ようはどちらもアホほど行動力消費する行動して鍛えなきゃ駄目らしい。
さらにレベルを増すことで変化があるスキル。
無敵のレベルが3に上がったのは私が色々とやった影響だ。
具体的にはデカイ蛙や脚がやたら早いウサギ、それにたぬきみたいな角が生えたやつ等をボコボコにして掴まえた。
そんでがっちり拘束してから無敵を使用。
この時に回復アリと回復なしで差分を比較した。
実験の一つで他意は無かったが回復しながらやると無敵の効果が増す。
やはり施しを受けるかどうかの差が感情面であるらしい。
とは言ってもだいたいイタチかイタチ未満だ。
たいてい逃げようとするので付き添いのハートペアにトドメ刺される。
無敵Lv.2では敵対心を和らぐくらいの力しかないが回復による施しで混乱させるわけだ。
かなりゲスい。
最終的にイタチがかなりうまくいったパターンなのは理解出来た。
釣った魚に餌をやれば懐き、そうでなければまたキレられる。
実にわかりやすい。
蛙鍋は結構美味しかったがタヌキはクサイ事がわかっていたので私は遠慮しますと言っておいた。
タヌキ鍋は童話界だけで良い。
ただまあやり方がわかった後最終的にタヌキ個人の感情でついてきてくれた1匹は今私に結構依存した態度をとってる。
イタチはどこまでもつれない奴なのにタヌキの尽くす姿勢には感動したのでいくつか手料理を振る舞った。
……無敵、将来が怖い子だ。
そんな無敵のレベル3はこんな感じ。
[無敵Lv.3 相手に触れている間効果を発揮するようになる。自身とほぼ同程度の知能を持つ相手まで効果があり少しだけ見知った相手のように感じる。]
大人しくなる、からもう少し戦意が削げるようになったらしい。
それに拘束しなくて良いのはありがたい。
蛙相手に拘束するとベタベタになるのだ。
他にはこんな感じだ。
[観察Lv.5 対象の残生命力(詳細)または耐久力(詳細)
を表示する]
やったー!
こいつが来ると土器が壊れそうなのがわか……るのもあるけれど、純粋に生き残るのに重要だ。
[生命力 その存在がもつ残りの命の力。無くなることにより絶命する。有機物が生命力で無機物が耐久力となる]
やはりこういうものがあった。
逆に言えば急所を喰らっても生命力がある間は耐えるし最後が小足蹴りでも死ぬ時は死ぬ。
まあ、とは言っても現実とあんまり変わらない気もするけどね。
死に掛けの相手に蹴り込んだらそりゃ死ぬでしょ。
さて、こいつを私に使用する。
するとどうだろう、ログにいつもの文字欄の他に緑のゲージが現れた。
もっと数値とか出るかと思ったからビックリしたよ!
イタチを観察してもタヌキを観察しても同じゲージがログに現れる。
雑だ……
ただ何らかの魔法とかで偽造されなければ、相手があとだいたいどのくらい耐えるか可視化されたのは大きい。
[光神術Lv.3]
[インファレッド 赤外線を使う]
[ミラクルカラー 対象の見た目の色を変える]
かなり変わり種な2つの術を習得した。
インファレッドは使うとかなり驚いた。
視覚情報に赤外線光景が割り込むのだからむしろ驚かない方が難しい。
いわゆる蛇の目だ。
ただ、驚きついでにこれを使うとドンドンと脳が疲れる。
慣れない情報処理が魔感合わせ2つも処理仕切れない。
しかも使っている間だけしか見られない。
インファレッドはこの赤外線が見られる事を利用してさらに自由に発生させる赤外線を見て扱おうというものである。
私はちょっと待ってムリだってコレー! と叫ぶ事になった。
尋常じゃない負担がかかる。
サウンドウェーブあたりがうまく使えるから私はこっち方面の才があるのかと思ったがそううまい話はないらしい。
もちろん将来的に改善するよう努力はするけれど、今はなんら使えない。
無念。
ミラクルカラーはとてもわかりやすい。
ライトと組み合わせれば色を変更出来る。
ただ私の技術がまだまだで原色が中心だ。
カラフルにしたり模様変えたりも出来ない。
土器もそれでパーツ毎に色変えが出来たら良かったんだけれどね。
赤一色とか青一色とかが今の私の限界だ。
頑張って難しい色にチャレンジしようとすると直ぐに黒一色になる。
やはり術は魔法よりも難しい。
ちなみに生き物にも使えるし、色を戻す事も出来る。
[光魔法Lv.4]
[シールド 対象の周囲にあらゆる衝撃を抑える光を纏わせる]
[アンチポイズン 対象へ汎用的な実質毒、血液毒、神経毒等を治療、一時的に抗体を得させる。]
シールドは動き回ったり攻撃している間も使える防御といった感じか。
時間が最初は1分しか無いことを除けばとても便利だ。
アンチポイズンはアンチパライシスに一部被っているように見える。
ただパライシス、つまり麻痺は電気によるもの等も治す。
だがポイズンはあくまで身体の中に含まれてしまった毒性物を消す魔法だ。
メディカルは全般的な抗体強化だがいくら抗体を強くしても事前に対処出来る体内成分が無いと厳しい。
一方こちらは血液を溶かすような毒でも消えろ! で消えてくれる。
つまりは今、私はタマネギ辺りを食べても毒キノコあたりを食べてもアンチポイズンをかけておけば平気だ。
ただ多分フグ辺りは駄目。
アレは毒がかなり特殊と聞いている。
ただまあ毒があるものはたいてい美味しいからとても使える。
[土魔法Lv.2]
[スタッドボーン 対象を土の守りで表皮と内部の頑丈さを増す]
[ストーンショット 石を山なりに撃ち出す]
スタッドボーンを使うと私が何か薄皮を纏った感覚が全身を包む。
そうしたら毛皮が優しい手触りだったのが随分と硬い肌触りとなった。
これをしたままインカと手合わせしたら"峰打ち"を互いに使っているとは言えまるで痛くなかった。
これは便利。
ストーンショットは前に私がさらわれたさいに烏に向かって母が使った魔法だ。
ただ、母ほど飛ばすのも結構大変な事に気づいた。
山なりに重たい石が飛んでいってくれるものの勢い良く飛ばすのは訓練が要る。
より強力な一撃をと思うとガンガン行動力吸われてしまって効率が悪い。
純粋に重たい硬いものが上から降ってくるのが驚異的なので不意打ちに便利。
[火魔法Lv.2]
[フレイムエンチャント 炎の加護を指定の武具に纏わせる]
[アクティベーション 対象の成長や変化速度を活性化する]
フレイムエンチャントはまさに爪や背中の棘に炎を纏わせるのだ!
これを見た手合わせ中のハックは震えて降参した。
いや、別に"峰打ち"ついてるから大丈夫だから!
ちなみに纏っている当者である私はちょっとあったかいなー程度しか感じない。
これと筋力を増すヒートストロングで木に爪で切ったら何度もやって最終的に伐採した。
これでおとなに頼らなくとも木材が入手出来る!
アクティベーションはこれだけだとよくわからない。
ただ、小魚を大量にハートペアやハックとインカで獲ってきて壺に塩っぽい実。
それを大量に置いて魚の塩漬けを作っている所に魔法をかけてわかった。
これ、めちゃくちゃ発酵やら植物の成長やらを促進させる。
今までかけてきて2週間くらいかな。
そのぐらいで魚達はすっかり塩に馴染んでいるし黒い水が出てきている。
魚醤だ。
独特なかおりのするお醤油なんだが、加熱すればにおいが薄まる。
流石にそのままだと私達ホエハリでは鼻が曲がりそうなので……
なので鍋にこれを少し入れたらかなり好評だった。
かなり少しでいい。
ホエハリ族の塩分耐性がどの程度がわからないが危険は侵さないほうが良いからね。
ちなみにホエハリみたいな動物にかけたら『何かちょっと元気になった!』ってなる。
ただその分エネルギーを使うから補給を忘れると後でぐったりする。
栄養ドリンクみたいな力だ……
既存のスキルはこんなところかな?
次は私の覚えた新スキルだ。