二百九十生目 友好
概ね双方にとって納得のいく範囲で話がまとまった。
短い時間だったはずだがどっと疲れた。
最後に正式な契約書類に署名する。
「よいしょっと」
「……本当に自由に姿を変えられるのですね」
「自由ではなく、出来る範囲は決まっていますよ」
もちろん前足ではできないので"変装"で一部を変化させ前足を手に。
サインを書いてもとに戻った。
「ローズオーラさんの誠実さは見せてもらった。こちらも誠実さに答えて上はなんとかしてみせよう」
「大丈夫なんですか? しりませんよ?」
「何言っているんだ、もちろんゴウも共にだぞ」
「ええっ!?」
「お、応援しています……」
ゴウががっくりと肩を落とす。
応援という名の丸投げである。
実際頑張ってもらわないと困る。
「今回の件で我々アノニマルースのことをもっと良く知ってもらい、ニンゲンたちとも交流が出来るように祈っています」
「こちらも、キミたちを味方につけられたら頼もしい限りだと思っている。絶対敵に回さないようにしないとね」
「だからそういうのは相手の前で言うことでは……まあもういいですよ。とにかく、こちらも協力してくれるならば、願ったり叶ったりです。魔物たち相手に公平な取引は初めてでしたが、勉強になりした」
ゴウと、そしてオウカと握手を交わす。
絵的にはお手みたいになってしまったが……
とりあえず目下の脅威である冒険者たちと敵対しないで済んだのはありがたい。
「そういえば、私事ですが少し待ってて欲しいと言われた冒険依頼がまったく来ないのですが……」
「え、そうなんだ?」
「今回の件で上が止めていたのかも知れませんね。こちらで対処してみます」
なるほど私に少し目処をつけていたんだっけ。
それで一旦止めていたと。
ありうるはなしだ。
話を終えて彼らに見送られ入ってきた扉から出る。
そのまま衛兵に連れられ外へ。
裏では常にチャットのやりとりがされていたがあんまりチェックする余裕はなかった。
ただ今見たら不安がるのと面白がるのと私の姿を見ての安心がたくさんあった。
どうやら私はひとりで戦っていたわけではないというのを改めて実感した。
「みんな、話はまとまった! お土産をおろすよ!」
「よっし!」
「さすがローズさん、当然の成果か」
「つまりやるのか? やらないのか?」
冒険者5人組や護衛たちと共に馬車に積んであったレンガや恵みの水を下ろす。
衛兵たちが荷台を持ってきてくれたのでその上にドカドカと。
レンガおよそ60kgと恵みの水小瓶20個のセットだ。
この恵みの水を入れている小瓶に施された魔法記述は中身が無くなると効果が失われる使い捨て制だ。
さらに解析などをされないように私がホリハリーであますことなく全力でプロテクトしてある。
下手に突破すれば効果も消えてしまうトラップつき。
将来はこれらもニンゲン界で商売人を通して売っていくのも視野に入れている。
その味を知ってもらうためにも今回は大盤振る舞いだ。
まあ実際に売るときは相場崩壊やら高価すぎて売れないやらを考慮してかなり薄めることになるだろうが……
「こ、これは……」
「俺たちは、深いこと考えずに運ぶだけで良いんだ、さあ運ぼうか……」
「あ、あとこれもよろしくお願いします」
衛兵たちが何か引いている気がするがお土産としては変なものだから知らなきゃ致し方ないかも。
そして最後にハックの自信作らしい謎の像を乗っける。
テーマは友好らしい。
こうして何台もの荷車が街の門へと運ばれていった。
それを見送り私も車に乗り込んで。
「それじゃあ帰るよー! 冒険者の皆さんおつかれさま!」
「うん! 何もしていないけどね!」
「またぜひ協力させてください!」
「「また今度!」」
「おつかれさま!」
空魔法"ファストトラベル"を唱えるとワープした。
あっという間に自分たちの場所アノニマルースへとたどり着く。
車から降りてみんなも装備の解除を始めた。
「おつかれさま!」
それぞれ口々に互いをねぎらう言葉が飛び交った。
今回は成功といっていいだろう。
すっかり緊張で固くなったからだをほぐしていると帰ってきたことに気付いた待機組が一斉に寄ってきた。
これからは成功祝いだ!
〜視点変更〜
「見ましたオウカさん? あの豪華絢爛な車体たちが一斉に消えるのを。あれおそらく転移魔法ですよ。先程の異空間からの物質取り出しもあまりに軽々とやっていたので、対応が遅れるほどでしたよ」
「そりゃあ目下最大の脅威にも、1番の味方にもなりうる相手の動向だ、ひとつも見逃していないよ」
「やはりそう見ますか。どう転ぶかによって恐ろしいですね。理知があり言葉を話し文化もある相手は、下手な秘密結社なんかよりも遥かに恐ろしい」
「だから同時に味方である場合は頼もしいね。先程のやり取りでもそう感じたよ」
「オウカさんさっきみたいなのは本当に困るんで、今度からは事前に断りをいれてください」
「もちろん、今度はそうするさ」
「それにしてもあれほどの魔物の力、よほど見たことはないですよ。うっかり機嫌を損ねれば殺されかねませんでした」
「でもまあさっきの話し合いで、そういうことをする相手じゃないというのはわかっただろう?」
「それはそうですが、たまたま相手が良かっただけですよ。そう思わされただけかも知れませんが」
「まあね。……それにしてもあのお土産の量とんでもないね。貸しを作る気だろうか」
「どうなんでしょうか……少なくともかなりの額になるかと」
「あのレンガも高級品、水に至っては下手に流通させれば回復薬界隈がひっくり返る。あれらは全て研究行きだな」
「解明できるでしょうか?」
「あのローズオーラさんがガッツリ関わっているとしたら……わからないなあ。解明はしたいけれどどう転ぶかは私達がやるわけでもないし、わからないね」
「とにかく、仕事だけはきっちりやりましょうか」
「そうだね、これから上に弁明とか謝罪とか、ついでに脅しかけもしなくちゃね」
「少なくとも、甘く見積もって良い相手では無い、と釘を刺さねば」
「魔王復活秘密結社との関わりはどう捉えましたか?」
「私は今は疑わなくていいとは思うけれど……ゴウはそうじゃないっぽいね?」
「当たり前です。これから行動できちんと示してくれるかどうかで判断しますよ」
「まあ私のは、そうじゃないと良いなあって祈りにも近いかな。そうじゃなきゃ、私達が命を捨てても斃しにいかねばならなくなる」
「嫌ですね……鉄砲玉のような使われ方は」
「ところで……最後のあの像は……?」
「わからないけれど、おぞましいような、気味の悪いような……」
「警戒するにこしたことはないですね……」