二百八十九生目 誠実
斬る気はないと聞いて私よりもゴウが目に見えて安心した。
上司の爆弾発言に付き合わされる部下みたいだ。
ゴウを見ていると下手に感情を表に出さずに済んで助かる。
「斬らないでもらえると、こちらとしても助かります」
「まあ、私達が全力を出しても追い払うのすら難しそうというのもあるけれどね。キミは力は無駄にひけらかすものじゃないという感じかな、隠されている底が全く見えなくて、恐ろしいね……!」
「……オウカさん、そろそろ話が」
「おっと! 本筋に戻ろうか」
まったくもっての過大評価だがありがたくすがらせてもらおう。
オウカの話がとても好調なのに対してゴウは明らかに落ち込んでいていますぐ帰りたいと言うのが目に見えている。
そのことをオウカはまったく気にしていないが。
「それでキミたちアノニマルースは結局、私達ニンゲンと組んで魔王復活秘密結社にはかかわらないと?」
「どちらかと言えば巻き込まれてしまったから、抵抗は今後もするつもりです。今後もニンゲンたちもニンゲン以外とも、魔王復活秘密結社のように迷惑な相手でなければ、どんどんと仲良くしていきたいですね」
「そう言ってくれると、こちらも助かります……」
ゴウがため息をついた。
ほんと小競り合いとかニンゲンたちとの対面とかやりたくない。
一旦話が落ち着いて。
「我々側としてはニンゲンたちとも仲良く……というよりすでに一部とは仲良くさせてもらっています」
「話は聞いているよ。誘惑等の精神異常も見られなかったから、本人たちの意志のようだね」
「彼らはかなり柔軟で、こちらもとても助かっています」
実際めちゃくちゃ助かっている。
今も外で護衛に加わってくれている。
そうだ、これも聞いておかないと。
「少し話は変わりますが、私は1対1の対談だと聞いていたのですが……」
「それはですね……」
ゴウがオウカを睨む。
なんとなくわかった。
「いやー、話には参加せず、隠れて待機しているように言われたんだけれど、やっぱり性に合わないなって」
「いくつもの命令違反……あとでどうなっても知りませんよ」
「それが誠実であることの結果なら受け止めるさ!」
「命令違反は誠実ではないのでは……?」
「うっ!? 命令が誠実でないのが、悪い!」
色々大丈夫なのかこの人。
そういう思いが強くなってきた。
ただサシの会話じゃないのはこちらとしてもありがたいかな。
正直ゴウだけだったらかなり危険だったかもしれない。
こだわりをもつオウカとツッコミに回らざる得ないゴウ相手ならばやりやすい。
「まあ事前情報と変わってしまったのは悪かった、こちらの不手際だ、申し訳ないね」
「いえ、そういうこともありますから」
「本当に、困りますよ……」
「まあそういうこともあるさ!」
ゴウにオウカが笑いかける。
ゴウが睨む。
オウカは軽く咳払い。
「ええと、友好の証というわけでもないのですが、お土産も持ってきました」
「お土産? 魔物がひいている車がいくつかあるとは報告を受けていたけれど……」
「アレの情報の魔物が牽引する車ですか」
アレ、とは?
考えを巡らせて1つの結論にいたる。
そうだ手を出してこずにずっと見ていた気配が途中まであった。
斥候か。
「確か途中までこちらを見ていた気配が……」
「む、それも気づかれておりましたか」
「すまないね。ゴウは打てる手は打っておきたかったらしい」
「いえ、被害はありませんでしたから」
話をお土産に戻し。
私が空魔法"ストレージ"を唱えて亜空間からモノを引っ張り出すと驚かれた。
物そのものより魔法に驚かれた気もするが。
「こちらはお土産のサンプルになります。荒野の迷宮の土を用いて焼いたレンガと、恵みの水です」
「荒野の迷宮の土を? 私は詳しくないけれど確か……」
「ええ。あそこの土は運搬困難な割に有用で魔力適応率も保有率も高く高級品というのは聞いたことがあります。ただ、この恵みの水というのは?」
ゴウが少し知っていて助かった。
私も聞かれたコトを答えよう。
「これは生命力と行動力を大幅に回復させるための水です。ええと、毒の検査とか……」
「大丈夫、いただくよ」
「オウカさん!?」
オウカが恵みの水が入った瓶を受け取り裏を向く。
グイッとやってひとのみ。
そこまで顔は見せたくないとすると古傷でもあるのかな……?
「うん、大丈夫。わざわざ毒殺狙うくらいならもっと前に殺されているって」
「オウカさん……」
「なーるほど、こりゃあれだね! 迷宮奥にたまにある、飲むと元気になる水! ただあれは持ち運びができなかったはずだけれど……」
「はい。我々が改善して運べるようにしました」
「そりゃすごい!」
なかなか好印象だった。
ほっと胸をなでおろす。
「車の中に積んであるので後でおろしますね」
「わかった。ありがとうね」
「とりあえず。こちらとしてはそちらが協力的である以上は、敵対する理由はないと判断したいと思います。なので、ぜひ話を詰めていきたいのですが……オウカさんもそれで良いですよね?」
「もちろんさ! 魔物と言われて持つイメージとはまったく違う、ローズオーラさんのような対話し話を聞いてくれる知的な方に会えて良かった」
そこからはゴウやオウカとともに詳しい両者のやりとりを決めていった。
まず冒険者ギルドや冒険者ギルドを通した国は私達の存在の黙認。
迷宮内はぶっちゃけ国土の侵略にもならないし冒険者たちも中継所として使えたらうれしいとのとこと。
黙認にしかできないのは大きく公表するには各国の承認が必要で決められないためだとか。
そりゃそういうものか。
さらに徐々にこの街とこっそり交流することも決めていった。