二百八十八生目 真偽
誠実と彼女……オウカは言葉を繰り返した。
身震いするほどに冷たい光が彼女から放たれているようだ。
ハッタリも嘘も使っていないだろう彼女が発するひとこと1言がその分重みを増して襲い掛かってきた。
「まず……今晩は、私達を招いてくださりありがとうございます」
「いやいやどうもどうも」
先ほどとは打って変わってオウカは軽く返してきた。
お世辞に返す言葉に重さなんていらないといったものなのだろうか。
「つきまして、単刀直入に言いますと、私の身元を明かし、ココへ呼び、どうしようと?」
もちろん表向きは非公式で対談し友好関係を結ぶかどうかの話し合いをするということだ。
ここまでの中で『友好関係を結ぶかどうか』の成分があっただろうか。
始まる前から想定はしていたが。
ないだろうこれ。
「……私から。報告された内容の真偽確認やそちら側……つまり魔物側が人間と友好関係を結べるかどうかを見定めると言う点などを。言い方は悪いですが、人間側は基本的には魔物との友好関係どころか、最近も魔王復活秘密結社関連で、かなり警戒を抱いています故、ご了承願いたいです」
「そうだ。まずこちら側の正しい身分も明かしておいた方が良いよね」
人狼衛兵ことゴウが言ったことは想定範囲内。
だろうねというのが正直な話。
ぶっちゃけ私達が魔王秘密結社なのではと疑っているのだ。
しかしその後にオウカが話したあとにふたりが行った行動はあまりに意外だった。
彼らは懐に手を入れると1つの証明書を取り出す。
ふたりの……冒険者証明書。
「冒険者オウカ・ロク。ランクはQマイナスだ」
「冒険者ゴウ。ただのゴウです。ランクはPマイナスです。よろしくお願いします」
実際はアルファベットではないが似たようなものだから脳内補正しているランク。
Aマイナスから始まってZプラスまであるらしくつまりふたりのランクは考えられる限りかなりの高度だ。
Nだったタイガよりも上。
タイガも大物扱いだったからよほどだろう。
改めてこのふたりの実力に身体をかためる。
ただ……オウカはともかくゴウは……?
「ご丁寧にありがとうございます。……ゴウさんは衛兵のお仕事をされていたのでは?」
「まあ、潜入調査です。衛兵ならば効率よく情報が集まるので。結果的にはあなたに解決してもらいましたが」
「私も近辺を不法に狩りまわる怪しい動きに対抗するために来たんだけれど、結果的に先をこされたね」
闇カジノとパペットたちの山狩り……
彼らはそのことを言ったのだろう。
まあ傍目から見ても私の動きは謎になるよね。
魔王を復活させるものたちを止めるように動いているのに魔物。
さらに言えば偶然とは言え連続での事件関与。
まるで私が街の中心部に潜り込むためにいらない味方を切り崩したかのようだ。
怪しまれれば確かに言い逃れしにくいほどに怪しい。
でも真面目にそうじゃないんです!
というのを説明しなきゃな……すーはー。
「まず私は、結論から言うと魔王復活は興味もなく関わってもいません」
これを言うだけでも疲れる。
慎重に言葉を進める場は私に向いていないな……
オウカが話を進めても大丈夫と促してきた。
「うん、そのことについて、どう話してくれるのかな? 魔王といえば魔物の長なんでしょ?」
「はい、そのように聞いています」
「聞いています……とするとどういうことですか?」
ゴウが顔を上げる。
私は尾を無駄に揺らしたり耳をちらつかせないように気を配る。
「はっきり言って現在生きる魔物の多くは魔王そのものを知りません。野生的に活動する魔物はそのような歴史を伝えていないからです」
「ふむ……そこはなんらかの知識が共有されているか、本能で理解している部分だとばかり」
「全くされていません。
いたとしても過去。忠義を捧げる義理もなければ信仰を捧げる恩義も感じていませんし、何より誰も知りませんから。そこは今も昔もニンゲンの味方をしている魔物がいることで、証明できるかと」
「ふうむ、カルクックや一部のコボルトのように、か」
「はい」
オウカの言葉に肯定する。
相手2人は思考をめぐらせているようだ。
見た目としての変化は少なくとも細かな息づかいの音や自然に分泌されるにおいでわかる。
魔王の知識が共有され伝えられている種族は限られる。
ニンゲンとか。
わざわざギクシャクすること言うわけにもいかないから話を変えようか。
「……そろそろ冒険者の方々が私と面会することとなった、そちらの経緯を聞いても?」
確かに市長は逮捕されているし話を通したのは冒険者ギルドとその上の国だ。
だがそれでもわざわざ冒険者のふたりをここで出してくるのはよくわからなかった。
護衛としてならわかるのだが。
「まあこちらも誠実に面倒な言い回しさけて結論から言おうね。ローズオーラさん、私たちはキミが怪しければ斬るためにここ出されたよ」
「オウカさん!?」
私も動揺したがゴウの動揺がはるかに大きかった。
私からオウカに顔を向け直した。
「とはいえだ。誠実である限り斬ろうとは思わないし、上は上で不安を潰したいのだろうが、私は私で判断するためにここにいるのさ。まあ今では例えキミとの交渉が破れても斬る気は起きないだろうから安心してくれ」