二百八十三生目 写絵
私はドラーグの尾に触れていた。
ドラーグは『んんっ』とやや情けない声を出しながらも抑えきれない興奮が顕になっていた。
ドラーグの体内を駆け巡る衝動にドラーグは思わず震え閉じているはずの口からヨダレが垂れだした。
それはドラーグの体内で暴れそのたびにドラーグの身体は跳ねそうになる。
あまりの快楽に脳が貫かれるような耐え難い衝撃に揺れて……
「……"ヒーリング"と"無敵"の組み合わせでそこまでのリアクションするの、やっぱりドラーグくらいだけどね」
「で、でも、気持ちいいものは気持ちいいんですもの!」
そうドラーグが腕をぶんぶん振りながら言った。
快感話はドラーグからそうは聞いているがまったくよくわからない。
というかここまでリアクションするのがドラーグだけなせいでよけいに分からない。
きちんと日課として"ヒーリング"と"無敵"はかけているがトランスしたあたりから卒倒はなくなった。
その代わり興奮して腕やら尻尾やら振り回すのは危険だが。
己の質量を考えてもらいたい。
2mを超す大きいドラゴンだからな。
黒いウロコは光を吸い4枚の翼は音も立てず飛ぶ。
邪竜寄りの見た目ながらその実今は翼をパタパタさせてキュートでギャップしかない。
「それで話って?」
「んあっ……あ、はい。実はキツネ博士から連絡がありまして。んんっ……来てほしい……そうです」
「連絡? どうやって……というか来てほしいのか」
キツネ博士だの九尾だの言われているのは小さい魔物たちの街に住み正体はアインキャクラというニンゲンだ。
ひっそりとニンゲンということすら隠して生活している。
だが開発魂は現役バリバリ。
この群れアノニマルースのバックアップも行ってもらっている。
「ええと……この受信機を通して、ふうぅ……自分の中にある文字たちにメッセージが流れ込んで来たんです、ひうっ」
「へぇー……いつの間にそんな機能を」
ドラーグも身につけているが私は身につけていないリングこそが受信機。
本来はかしこさが低い魔物たちのバックアップや翻訳機能がメインだがメッセージ機能がいつの間に……
しかも話を聞く限りログに流れてきているじゃんか。
あれ介入可能なものだったんだ。
「はい、今日のぶん終わり。行ってくるね」
「あうっ、あ、いってらっしゃいませ」
ドラーグは快楽……"ヒーリング"と"無敵"から解放されたことで大きくため息をついた。
これが将来ドラーグを暴力に支配されたドラゴンにトランスさせない役に立つのかはわからないがやらないよりはずっと良いだろう。
何よりドラーグがやりたがる。
空魔法"ファストトラベル"でささっと九尾邸へワープ!
九尾開発のインターホンを鳴らし中へ入れてもらう。
話は客室でということで広い家を移動。
客室のところには前まで無かった写真立てがあった。
そこに写る白黒写真はたくさんのニンゲンたちが写っておりみな似たような白衣らしきものを着ている。
白黒だから推測だ。
「あの写真は?」
「うん? ……ああもしや写し絵の箱で撮った絵か? あれはじゃな、よそと写し絵の箱を共同開発したさいに撮ったもんじゃ。それまでのと描写速度が圧倒的に違って、スイッチを押せば10秒でその場の絵を押さえられる。まあその後暗い場所での特殊作業が必要じゃがの」
昔は1枚撮るのに1時間とかもっとかかるとか聞いたことがある。
フィルムを使い暗所で現像するということを多くの天才たちが編み出した証拠がこの写真らしい。
はてさっきから九尾らしき姿を探しているが見当たらない。
「博士、博士はあの写真立てのどこに?」
「ん? おるじゃろ、中央にキメてるイケメンこそがワシじゃよ」
んん?
中央には……確かに白衣を来たキツネヅラがいるが私が今見ている獣型キツネでもニンゲン型でもなくその中間のようにみえる。
「アレが……?」
「なんじゃその似ても似つかんみたいな顔は! ええい待っておれ!」
バタバタと九尾は出ていった。
遠くから声が聞こえる。
「ええい、バアさんの帯は……あったあった。ここをこうして……よし」
ほどなくして客室の扉は開かれる。
そこには確かに写真の中にいたような白衣を纏った九尾がいた。
人型ながらキツネの雰囲気を残すいわゆるホリハリーみたいな中間。
爪の生えた3本指の手袋に現実離れしている自然に靴のような毛が生える足。
尾は先程聴いた帯で結ばれている。
全体的な雰囲気は神秘的でなるほど確かに前"観察"した時に見た種族説明の『神の遣い』のようだ。
「おお、確かに本人ですね」
「当たり前じゃ! まったく昔の写し絵が見つかったから外から見えん位置に飾ったらとんだ手間がかかったわい」
そう声では怒りつつもくるりと回って帯やら毛並みやらを見せつけてきた。
白衣がなびき知性がきらめいていた。
写真よりはいささか歳をとり帯はくたびれていたがそれでも芯は変わっていない。
そう感じさせた。