二百八十ニ生目 反省
バトルは終わりギャラリーたちは解散する。
まあ興奮した誰かがまた別の場所でバトルを起こすだろうが。
疲れきったふたりに私は空魔法"ストレージ"で亜空間から小さいビンを取り出す。
イタ吉とたぬ吉に渡した。
「中身を飲んでー」
「え? はい」
「うん? クンクン……」
ふたりはビンの中身を一気に飲み干した。
するとふたりの毛並みが一気に逆立ちすぐにおさまった。
ふたりも驚き身体の調子を確かめている。
「い、今のは……凄い力だ!」
「これって泉の水ですか!?」
「そうだよー」
たぬ吉の切り傷がイタ吉の打撲が癒えていく。
さらに"魔感"で見るに行動力も治っているようだ。
中身は数適程度だったが効果は絶大。
もちろんこれでは刈られた毛は治らないし傷も止血はしたが跡はある。
万能ではないが有用だ。
「うん、ちゃんと効いたみたいだね」
「ありがとうございます、もう痛くないです」
「うん、痛いところはもうないな!」
「まあそれはそれとして過信はしないように」
忠告はしておいて模擬戦は終わった。
こんな感じで戦闘訓練や鍛錬はあちこちこちで行われているし行っている。
魔物たちは遊び感覚で成績表も作っているとかいないとか。
たぬ吉は詳しいはず。
「イタ吉は勝ったには勝ったけれど、見たところまだ技が多彩になっただけで硬い防御を崩せてなかったり、すぐに体力を使い切っちゃってる。誘わせるというのも大事だから、得意な速さの勝負に持ち込むためにも緩急つけよう。
たぬ吉は今回の戦いで自身の動きの一端がつかめてきたと思うから、そこを意識して。特にガードが硬いのはとても良いと思うから」
「ああ、そうだよなあ」
「わかりました」
ふたりとも納得する。
こういうのをわいわいと話し合い互いの反省点と良い点を洗い出す。
というわけで少しの間わいのわいのやった。
……そういえば。
「そういえばたぬ吉、私に何か話があったんじゃあ?」
「ああそうでした」
そう言ってたぬ吉は私に向き直る。
「複数の魔物たちからの話です。『イタ吉さんとローズさんとの殴り合いは、見ていて危なっかしいし、すごく場所を移動しながらやるので、巻き込まれそうでこわいから、場所を考えて欲しい』だそうです。高速すぎて互いのやり取りはまともに見えないのに、戦闘していることそのものはわかりますからねぇ」
「俺かよ!」
「わ、私への注意喚起なら直接言ってくれれば良いのに……」
動揺しているイタ吉をたぬ吉がちらりとみてほくそえんだ。
相変わらず微妙な仲だなこのふたり。
「そりゃあ目の前でアレだけ激しく戦う姿を見たら、直接何か言うのは少しこわいですよ。それに大抵の魔物は、ローズさんたちに負けてついてきているんですから」
「そういうものなのかな」
「そういうものですね」
「別に俺は恐くないぞー!」
イタ吉が遠巻きに見ていた魔物たちに叫ぶとそそくさと引かれていった。
さらにイタ吉は叫ぶが逆効果。
はたから見ているとギャグだが私もこんな感じの扱いか……
「もっと関わっていかないとなあ」
「それがいいと思います」
たぬ吉に肯定された。
比較的警備や軍関連の魔物たちとは仲が良いのは実力が隔絶はしていないためだろうか。
まあ腰に銃をぶらさげているニンゲンはこわいみたいな話かな。
ところ変わってテントに戻り少ししたらドラーグが今度は訪ねてきた。
「ローズさん? うわっ!? なんなんですかその書類の山!」
ドラーグが指摘したのは私が先程作った魔本だった。
その数そろそろ100。
群れの仲間は300+別場所2000ほどだからまったく足りてない。
全員使えなくてもまあいいのだが。
紙とインクは自前で用意する必要があるためこのためにたくさん用意しておいた。
本来なら魔力をじわじわと自力で高めて一定量を越えれば仔を作り出すのだが私が最初から注いでおいたから早く作り出されている。
「これ、魔法を覚えれる本を量産しているんだけれど、ドラーグも使ってみる? 売らずに身内で使おうと思って」
「あ、それならぜひ」
そういってドラーグも1冊手に取る。
肉球しか描いてないページたちに怪訝そうな顔をしてそのまま最後まで読み魔本が動き出す。
光の線がにゅるりと。
「ひゃあ!?」
「大丈夫大丈夫、仕様だから」
ものすごく恐る恐るドラーグが近づく。
光がにゅるとドラーグの耳穴に侵入した。
「あふあっ!? んんっ!?」
ドラーグは何かに耐えて目を閉じながら少したつ。
そしてすると光が抜けるとドラーグは脱力してその場に伏した。
ドラーグは毎回オーバーリアクション気味だと思う。
「お、終わりました……? ええと、確かになにかが……"光よ、ヒーリング"ですね! わあ光った!」
ドラーグは自分が言い唱えた魔法の発動に驚き腰を抜かしている。
今度は何のために来たのか忘れないうちに聞かないと。