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二百七十九生目 巨人

 あの後結局10セットくらい作って集中力のほうが先に尽きた。

 前足のインクが乾いてしまう前に拭き取り最初の1個目を誰に渡すか考える。

 ……おや。

 誰か来たようだ。


「ローズさんー! あ、いましたね。また話したい事がありまして」

「たぬ吉! こっちもちょうど良かったよ」

「どうしました?」


 たぬ吉に今作った"ヒーリング"魔本をひとつ渡す。

 本としては薄いが効果はしっかりあるはずだ。

 実験していないのでわからないが。


「これは?」

「魔法を1つ覚えられる本だよ。回復魔法を覚えられるから読んでみて」

「え! 本当ですか! 読みます!」


 そう言って本に目を落として……たぬ吉は困っていた。


「ええと、文字はあんまり読めないから頑張ろうとしたら、文字もないのですが……」

「大丈夫、目を通すだけで」


 たぬ吉が見ている本はパッと見薄く肉球が印影されているだけである。

 もちろん実際は大量の魔法記述が隠されているのだが……それでも。

 肉球のインクを見て目で認識さえしてくくれば後は魔本側がやってくれる。


 怪訝な顔をして最後まで見終えたたぬ吉が魔本……という名のまとめた紙をおろした。


「これでどうすればぁあわあああ!?」


 魔本が本性を表した。

 たぬ吉側に受け入れ態勢が整ったのだ。

 魔本から光の線が2本伸びてたぬ吉を手招きする。


 私を見てきたたぬ吉に頷くと大きく深呼吸。

 ぐいっとたぬ吉はその光に近づいた。

 たぬ吉の耳に光が入り込む。


「ヒャッ!?」


 くすぐったくぞわりとしただろうか。

 入る際に警告と覚悟促しを含めてちょっとだけ感触が出るようにした。

 いたずら心……ではない。

 ではない。


 ピクピクと耳が動いてそのまま少しすると光の線が引き抜かれる。

 そうして魔本はただの紙束となった。

 ちょっとたぬ吉はへたれ込んだがすぐに立ち上がる。


「……うん、この感覚は?」


 たぬ吉が己の前足を見てグーパーしながらそう言った。

 そして。


「ひ、"光よ。ヒーリング"。出た!」


 あっさりと短い詠唱でたぬ吉の前足から"ヒーリング"の光が出た。

 出来る限り単純化かつロウコスト化に成功しているようだ。

 頑張って作ったかいがある。


「出来た! 出来ましたよ!」

「おめでとう! 傷を癒やすのに使ってね」

「はい! ええと、その近くのは……」

「うん。同じやつだよ。少しずつみんなに配ろうかなって」

「良い案だと思います!」


 たぬ吉が喜んでくれた!

 幻想的な光はたぬ吉の意志で現れたり消えたりする。

 癒やしの輝きは多くの場面で有効なはずだ。


「あ……」

「ん? どうしたの?」

「僕、今のでトランス出来るようになったみたいです」

「本当!? おめでとう!」


 開放条件がまさかの光魔法やら回復魔法関連か。

 盲点だった。

 たぬ吉と共にテント外へ移動する。


 日射しが強いが空気は暑くもなく寒くもなく。

 実に心地良い。

 さらに誰もいないところまで移動した。


「トランス先は1つだけ?」

「はい。どうなるのか楽しみです! トランスは初めてですし!」

「ふふ、結構すごいよ」


 ニヤリと笑っておいた。

 たぬ吉もわくわくしているらしい。

 少し距離をとって待機。


 たぬ吉が目を閉じ集中する。

 どうやら始まったらしい。

 カッと目を見開くと瞳の奥に魔力の光が揺らめいていた。


「う、ああ……!?」


 たぬ吉が声を漏らすと共に全身が(エフェクト)に包まれる。

 肉体が徐々に成長して行き……え!?

 たぬ吉の背後から草葉のようなものが光に包まれつつも伸びてきた!?


 そのままたぬ吉の全身を包み込む。

 さらにそれすらも新たな草葉が包む。

 さらにさらにそれすらも包まれ。


 何重にも包まれ丸く大きくなったそれから草葉で出来た腕と脚が伸びて立ち上がった。

 頭も生えてくる。

 光も収まり完成形はまさにデフォルメされたタヌキ。


 それはともかくデカい。

 まさか5mほどあるんじゃあ。

 いわゆる2階の高さ。


 ゆっくりと身体が動き巨大草タヌキが自身の両腕を見る。

 そして今度は素早く!

 はっよっとっ! とテンポよく身体を動かした。


 ちょっと待ってこのサイズでその速度!?

 質量もありそうなのに小気味よくブンブン動くとは……

 今度は突然両腕を上げ固まった。


 するとお腹に当たる球体部分の草が分かれて行く。

 内部まで大きく開かれるとそこにはたぬ吉がいた。

 多少姿が変わっているとか指が6本で器用そうになっているとかがもはや些事。


 元気そうに腕を振るうと草たぬきも腕を同期して振るった。

 よく見なくてもたぬ吉の全身に草がまとわりついて繋がっているものな……

 そして今度はその繋がった草からもたぬ吉の全身が離れて飛び出してきた。


「トランスできましたー!」

「お、おめでうわあ!?」


 勢い良く抱きつかれた。

 かなり嬉しかったらしい。


[マジコーライ トランス前からも臆病な種族だが臆病を極めた結果、恐怖から守る巨人を身に着けた。回復し続け決して倒れずあらゆる恐怖を追い返す]

 

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