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二百七十八生目 印影

 快適な空気。

 おいしい水。

 そして何より地球から転移したであろう者が書き記した本。


 心地よい静寂な空間がこのテント内にひろがっている。

 こんにちは私です。

 テントの中で普通に本読むだけでここまで苦労するだなんてね!


 この本[幻想の異世界]のあらすじはこうだ。

[私は英国でしがない農家をやっていた。妻と娘2人それに犬と共に暮らしていた。

 ある日仕事から帰ろうとして不可思議な渦に飲まれる。

 そしてこの世界にやってきて多数の苦渋と理解まで時間のかかる言語。

 危険な魔獣や魔王。

 不可解な魔法の存在。

 それらに左右されながら私が思うことはただ故郷の金麦が波となって揺れる景色。

 ああ、もはや遠い幻想の異世界に帰りたい]


 彼が帰れたかどうかは不明だ。

 魔王に関することも少し触れていたことからも既に寿命は過ぎているだろう。

 強く故郷への羨望が書かれその想いが魔本として込められたものだ。

 わざわざ英国語で書かれているのもその影響だろう。


 そして物語仕立てになっているが彼が魔法と英語で巧妙に隠しているが魔本を作る方法も確かに隠して書いてあった。

 そして最後に書いてあった事は。


[これが読める者は同じく英国のものかあの星の者かつ魔法に精通していると見込んで頼みがある。

 この本を私の家族の元へ届けて欲しい。

 出来たらでいい。

 そしてここまで読める者に私の生涯に渡って作り出したこの技術の権利ごと渡し授ける]


 それを読んだ瞬間に本から光の線が伸びだした。

 驚いたが優しく光の線が2本害意なく揺らめく。

 少しドキドキしつつ"見透す目"で心を読み取ると本がうっすらとは言え明確な意思を持っているのが分かった。


 やってほしいことを理解し少しだけ身体を乗り出す。

 そっと光の線が顔の側面をなでた後に上に有る私の耳を見つけた。

 そして耳の中へ入り込む。


 光だから感触はない。

 しかしどういう仕組みかいきなり大量のデータが脳内に送られてきた。

 一瞬で多大に理解させようとデータが埋め尽くしてきて……


(ほいほーい、せいりするよー!)


 次々に脳内でデータが整理されていく。

 さすがアインスだ。

 私の別意識ってだけなはずなのに得意な事がまるで違う。


 やがてにゅるりと光が耳から抜けて本の中に戻る。

 今私の脳内で驚くほど多大な事を理解しはじめた。

 送られた内容を整理してまとめたからだ。

 魔本の作り方の真髄から1から始めるこの世界の農耕法まで。


 すごいな……スキルのように人ひとり分の開発技術がなだれ込んできた。

 もちろんもっと最新のやり方があるものも含まれる。

 開発途中技術も教えてくれたから完成させれば楽しいかもしれない。


「さて」


 作ってみるかな。

 魔本ってやつを。







 用意するもの。

 紙 (たくさん)。

 インク(たくさん)。

 私の行動力 (たくさん)。


 魔本そのものは魔法を理解し詠唱することで発動できるようにするものだ。

 この本はさらに本自体へ意志をもたせたりコピーして写本が作れたりするが……

 とにかく執筆は大変な割に1冊1人しか効果を渡せず役割を終えたらただの本になってしまう。

 具体的に言うと本の魔法記述部分が失われる。

 まあそうなっても本としての価値を維持しまたこの魔法を使わせても良いと判断するために一般的には本の読解自体の難易度を上げていく。


 結果的に分厚い本が出来る。

 まあ売るとしてもちゃんと魔法を扱える奴が良いと思うのは当然では有るか。

 それに文字にそれぞれ魔力を込めることでしっかり理解させやすくする意味合いもある。


 では魔本の真髄を利用すればどうなるか。

 さっきの耳に光が伸びるやつになる。

 本を越えた情報伝達量に早さ。

 それに使い捨てになるがそんなに書かなくても大丈夫。

 とりあえず"ヒーリング"が使えるようにする魔本にするかな。


 その1。

 呪文を唱える。

 発音は光神術"サウンドウェーブ"で完璧。


 普通にスキルで魔法を唱えるのと違ってそこそこ長いセリフを言い切らないと使えないのが本で覚える魔法の特徴。

 まあそれでもレベル上げていくよりはずっと楽だと思う。

 唱え終わると私の前足とインクそれに紙束が輝き出した。


 その2。

 ここでインクに右前足を突っ込む。

 引き上げればインクべっちょり。

 その3。


 思いっきり紙へ押し付ける!

 離せばインク跡が肉球で残るが徐々に形が崩れていく。

 ここからが大事だ。


 今回作るのは教科書レベルで教えることに特化したもの。

 この紙たちを魔本として覚醒させるには膨大な行動力を消費しながら魔法の魂をこめるかのようにつくる必要がある。

 さらに"ヒーリング"を伝えられるように魔本に教え込まなくてはならない。


 その4。 

 インクが魔法記述にどんどん変化していくまで魔法を行使しながら行動力を魔力に変換して注ぎ込む。

 そして本なので1枚では成立しない。

 1枚完成したら続きを次のページへ!


 インクつける!

 インク叩き込む!

 魔法でインク操って書く!


 インクつける!

 インク叩き込む!

 インクあやつる!


 幸い私は行動力はたくさんある!

 しかもすぐに治る!

 どんどんペース上げていくぞー!


 ガンガンスタンプしてインクが変化して魔法記述となる。

 15枚程度で1セット。

 他の魔本と比べたらなんとコンパクトなことか。


 適当にひとまとめにして仕上げの魔法を唱えればひとりでにペラペラと動き出した。

 これで"ヒーリング"の魔本は完成である。

 さて誰に渡して驚かせようかな?

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