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二百七十五生目 龍水

 暑い。

 テントの中で前買った[幻想の異世界]という本を読んでいるが暑い。

 私はそこそこ暑さに耐性があるのに私ですら舌を出して冷やそうとしている程度にあっついということは……


「主! 大変です!」


 アヅキが暑そうにしながらテントに飛び込んできた。


「ね、ねっつー……」

「熱中症?」

「はい! 熱中症で倒れた者が出ました!」


 うわあ、やっぱりだ!


 急いで救護テントに向かった。

 そこには寝かされている獣型魔物とすっかり看病職が板についたコボルトがいた。

 熱中症初期対策は私が教えた通りきちんとやれているらしい。


「コボルトさん、彼の意識は?」

「意識はありますが朦朧としています」


 すぐに火魔法"クールダウン"を唱える。

 余分な熱が彼の体内から逃されて落ち着いていく。

 少ししたら落ち着いた寝息を立て始めた。


「すぐに起きるだろうから、水と塩分が取れるようにして。自分も飲もう」

「はい、わかりました」


 すでにこのテントには大量の常温水と海水から作った塩が用意してある。

 ちなみに海水は森の迷宮外近くにいくらでもあるので回収そのものはワープすれば楽。


 明らかに夏なので気温が上がるかなあとは思っていたが。

 コンクリートでもないのに想定以上に照り返しが辛い。

 幸いなのは湿度が低めでカラっとしている点。


 まあでも暑いものは暑い。

 扇風機もないこの場所では限度がある。

 対策は……何かあるかな。


 とりあえず今日の行事をこなそう。

 このあとは妖精たちの群れへ行くんだっけか。





 空魔法"ファストトラベル"!

 あっという間に妖精たちの群れに到着した。


「こんにちはー」

「こんちは!」

「どうもお越しいただきありがとうございます」


 活発な仔と丁寧な仔、それに近くにいた妖精たちが次々に返事を返してくれた。

 今日ココにきたのは……


「ヒトがここへやってきた理由、ですか?」

「うん、本人たちに聞いても良かったけれど、なんとなく聞きそびれちゃって。まあそれと、泉の水に関してもね」


 冒険者たちの話はどちらかといえば個人的な質問だしおまけだ。

 メインはここにわく恵みの泉に関してだ。

 まずは1杯もらって……


「ふう! やっぱり元気になる!」

「ローズさんが復活させてくれたからです!」

「これがないと僕たちは大変だからなぁ」


 妖精たちは植物に近い魔物。

 水は喉を潤す以上にとても大事な食糧となる。

 恵みの泉は顕著で龍脈にまじわることで栄養や力をたっぷり運んできているのもあるからだ。


「冒険者たちに関してでしたね」

「まあようは、まだ僕達が無事か、現在の状況、それにこの泉も調べていたよ!」


 妖精たちと冒険者は前々から交流がある。

 ニンゲンのセーフポイントが少ない迷宮内で妖精たちの群れ内は貴重な場所。

 恵みの泉は傷と疲れを取るので冒険者たちにとっても死活問題になる。


「なるほど……この泉も調べていたんだ」

「そう! まあでも予想通り……」

「ここから運ぼうとして少したつと、タダの水になってしまうのは変わらない様子でした」


 普通の容器に恵みの泉水を入れて少したてばその効力が失われる。

 輝きを放つかのようにきらめく水がただの澄んだ水になるからわかりやすい。

 これは誰が飲んでも過剰な回復や長い間の治療が行わないことからもはっきりする。


 生き物という器に入れてもすぐに効力は失われていくということだ。

 もし生き物に入っても効力が続くのならば常に吸っているここの妖精たちは尋常ではない能力を持つか成長を得ているだろう。

 そんなことはなくごくごく普通の魔物だ。


「結局冒険者さんたちはその場でできる検査だけを終えて、次は私達から話を聞いた蜘蛛や蛇の魔物の巣へいくのだとか」

「味の感想とか書いてあったぞ! 『キリリとした透き通った味わいに、ほてった身体を冷ますようなキンとした冷たさ、直後から体中の疲れが消え始め……』とかさ!」


 確かに間違いなくその場で出来る検査ではあるな!

 まあ実際は色んな実験もしたのだろうが。

 大した成果にはならなかったようだ。


「それで、泉の水の『私達の実験』についてでしたね」

「うん。たまたま彼らと似たような事になってしまったけれど」

「ちょっと待っててね! 今持ってくるから!」


 そう言って活発な方の妖精が文字通り飛んで妖精家へ行きすぐに戻ってきた。


「ほらこれ! サンプルたち!」


 盆皿ごと持ってきたの多くの器たち。

 中には恵みの泉が入っている。


「最初の時にダメだったものは除いて、その後は経過観察。効果が消えたら中身を破棄。ちゃんと記録も取ってあります」


 おとなしい方の妖精は記録帳を見せてくれた。

 この入れ物たちは全て私や妖精たちが作ったもので密閉型やコップ型それにツボ型に皿型と形も様々。

 だが形よりこだわったのは魔法記述による効果付与だ。


 様々な効果を促すため魔力を込められた入れ物たち。

 書いた内容は様々だったが……


「力を閉じ込めようとするより龍脈の力を巡回させて、1度コップに保存するのが最適って感じなのかな?」

「ちぇっ、僕が思っていたのと違ったよ」

「色々考えましたが、意外なのが残りましたね」


 記録を見て盆皿の上を眺める。

 1週間以上たっているのにきらめく水面。

 "観察"しても恵みの泉水のままなのが分かる。


 容器の形には左右されていない。

 水そのものは停滞しているのに菌が繁殖したり苔が生えたり汚くなったりしている様子すら無い。

 いける。

 私達のビジネスチャンスだ。

 

新章についてのお知らせなどの活動報告となります。


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