二十六生目 詳細
ちなみに出来上がった鍋を観察してみた。
[魔法の土器]
魔法のってつくと何でも素敵に見える不思議。
ちゃんと観察でも土器と認識できるが、私がそう認識しているからという面もあるのかな?
[観察 +レベル]
お、やったネ。これで観察はレベル4だ。
新しい能力は何かな?
[観察Lv.4 対象の詳細情報を得る]
どういうことかな?
とりあえずもう一度作った土鍋。
[魔法の土器(詳細)]
ふむ、詳細と書かれていてもう1回このログ自体を観察すれば良いのかな。
観察の行動力消耗は微々たるものなので気にしない。
[魔法の土器 魔力がこもった土を成形し焼き固めたもの。通常の土器よりあらゆる面で上質な場合が多い。]
おお!!
ついに詳細な説明文が出るように!!
観察スキルの文化的な一面もまた花開いたらしい。
よーし、ならば私にも!
[ホエハリ(詳細)Lv.16]
[ホエハリ 固体名:ローズオーラ
背骨に沿って生えた毛が針化しているのが特徴。高い社会性の群れをなし、常に集団で狩りをする。土の加護(詳細)を持つ。]
固体名もわかるのか!
というか私が自称してるだけのを固体名として認識していいのかな?
そして謎単語と詳細確認可能の親切セット。
ぜひ見てみよう。
[土の加護 土を司る加護を得て、土全般に愛され愛しやすい。土に纏わる事が有利に働きやすい。血が土の力を帯び色を変える。]
ああ、もしかしてこれが私たちホエハリの血液を黄色に変えていたのか!
土魔法をみんな覚えていたり必殺の威力だったりと有利な面も覚えがある。
今回の土器作成も知らず識らずのうちに助けられていたのかも。
土の加護ありがたや〜。
詳細と書かれていない単語も調べられるのを気づいた。
ちょいちょい見てみよう。
[レベル 段階的に強さの目安を数値で表す。同族間や同スキルならば同じ尺度になる。Lv.]
だいたい私の予想通りだったね。
[行動力 あらゆるスキルを行使する力の源。高度に扱えると力が発光し視覚化できる。食品エネルギーを変換して作られる事が多い。]
[魔法 魔力(詳細)を使って行う世界の法則性を上書きし現実化する力。術と違い効果は固定されやすいが扱いやすい。]
[魔力 魔法を使うさいに消費する力。行動力を変換して行うのが一般的。]
[術 行動力を消費して行う現実世界への干渉。魔法と違い現実化するまでの変換が得意だが扱いにくい。]
ふむふむ?
魔法と術の違い、何となくわかってはいたがやはりそうなのか?
土の槍を出す魔法から形を変えて壁にしたり土鍋を出したりとかいうのは今のところ私は出来ない。
そのかわり難しい事考えなくても場所指定! 向き指定! でぶっ放せる。
決めた後は勝手に発動するのを待つだけだ。
光神術はサウンドウェーブ一つとってもどう音を出しなんの音を出しどう動かすか。
いつ、どこから、どの範囲で、どの間出し続けるか常にコントロールが必要だ。
その代わりそれら全てを訓練次第で変化させられる。
声の代わりから空気の動き主体にして吹き飛ばしも。
多分うまくコントロールすれば敵だけ異常な爆音を当て鼓膜と三半規管を破壊しそのまま卒倒させられるはずだ。
ただ、種族ごとに耳が違うからまだまだ万能性をもたせるのは調整中。
何より、自分と味方への誤爆が恐いのが現在の悩みどころだ。
そういう細かい悩みも持てるという点が術なのかな。
魔法は高度に扱えるようになればアレンジ可能だけどわかんなくても使えば形になる、と。
見ながらキーボード叩くのが術、コピー&ペーストするのが魔法かな。
リスクとリターンがどっちもどっちだなー。
面白くって雑に観察しまくり『高い』の意味とかまで文を表示した。
そして私はこれが、あのことに似ていると気づいた。
前世の知識サルベージに似ている。
あれは私の前世の魂にかなり細かく観察スキルを使い、情報を引っ張り出している感覚だ。
かなり観察スキルの使い方としては異質だしそんな事が出来るのか?
私の知らない何かが、スキル未満の何かが発動している……?
まあ観察そのものはそういう疑問には答えてくれないわけで。
あくまで対象を観察したりログに乗った文字のみだ。
だいぶ使い勝手が増したのでありがたく使わせてもらおう。
それイタチ。
[イナヅチ(詳細)Lv.11]
[イナヅチ 長い胴と後ろ脚のみで立ち歩く特性を持つ。爪を巨大化させる種族魔法で夜中に狩りを行う。]
ああ、イタチが戦いのさいに爪を長くしていたのは魔法だったのか。
私は覚えれないのかな。
[種族魔法 その種族を司る特有の魔法。種族の進化により培った魔法で殆どの場合その種族のみ扱える。]
やはりそうなのか。
殆どというのは引っかかるものの。
そして私たちホエハリの種族魔法は無いのかな?
誰もそのようなものを使っているのを見たことが無い。
とりあえず観察はやはり使えるスキルだったらしい。
観察スキルがここまで詳しく見れるのなら料理にも役立ちそうだ。
というわけで、ここに用意しますは私がちょくちょく干しておいたもの。
キノコとかアクだらけのきのみたちだ。
片っ端から観察していく。
[ミヌラナ 団栗と呼称されることが多いうちの一種。栄養価が高いが渋みが強すぎで野生動物は避けがち]
これが私が生ゴミと称したきのみの説明文である。
ホエハリ族は体の維持にそこそこカロリー使うけれど木の上に登ってもいだり出来ないため、自然と拾ってくるのはこのあまりものが多い。
それが繰り返された結果、味はともかく栄養価が高いというのが群れの中で常識となったんだろうなぁ。
[ツバマシイ 団栗と呼称される事が多いうちの一種。団栗の中では渋みが少なく甘いため真っ先に小動物が拾って地に埋め隠す。]
団栗型きのみを食べる中では断然コレ! というもの。
小さいけどね。
だから私もなかなか見つけれない。
[クシラカ 団栗と呼称される事が多いうちの一種。団栗の中では焼いて食べると美味とされるため加工技術を持つものが拾う。]
私の要求がわかっているかのように説明文は味の話が中心だ。
なるほど、これは人間が拾うのかな?
ここらへんなら比較的ポピュラーだ。
[ミリムシ(詳細)Lv.1]
[ミリムシ 多くの場合団栗の中に卵が植え付けられそれを栄養にして育つ。ただし他の生物に団栗ごとまるごと食べられることも多い。]
おっと先客がいたらしい。
森に返そう。
[メジメジ 比較的ポピュラーな無毒なキノコ。ただし危険な森の中であるほど味が良いとされ、メジメジが擬態している殆ど同じ見た目の毒キノコに騙される。]
動植物の定番である、危険なやつと同じ見た目になることで生き残ってきたキノコらしい。
茶色で細く群生したけど一応全部大丈夫だよね?
心配だから後でちゃんと確認しよう。
[ヒラマイ 木の陰に良く生えているキノコ。食感が良いため美食傾向の動物に取られやすい。]
デカくて黒くてビラビラしてるのが生えてるから最初見た時は食べられるとは思わなかった。
これもやはり人間が取るのかな。
キノコはカロリーないだろうしなぁ。
こんな感じでチェックしてゆき、調理方法を確定して行く。
まず団栗たちは土鍋の水に沈める。
ここで浮いてきたやつは虫食いなので跳ねる。
そして適当に掘って石組みし木の枝を突っ込んだ即席焚き火セットに鍋を置いてから着火。
掘った理由は私の背が高くないためだ。
沸騰したら10分くらい煮て頻繁にアクを取る。
ちなみにアクを取る作業は木材を事前に加工して先が平たくなったもので代用。
口で咥えるように枝が曲がっているものを使い私がバリバリ作った。
前脚の爪も最近十分な破壊力があるため枝くらいならバリバリっと削るよ!
まあ、複雑な形はムリだけどね。
アクとりはきのみ毎に行う。
まあ鍋が小さいせいでもあるが、後でどれがどれだかわからなくなるしね。
十分アクを取ったなと思ったらツバマシイはまた干しておく。
あれは乾いたら粉末状に加工する。 私のサウンドウェーブをうまく叩きつければ壊せるんじゃあ無いかな〜という希望的観測。
駄目だったら別のもので潰せばいい。
ミヌラナは実はこの段階でだいぶ渋みは抜けている様子。
ただ、やっぱうまいわけではないから軽く砕いて土鍋で辛かったりするきのみと煮込んでやろう。
きのこだけだとカロリー不足だったがこれなら栄養価も良いんじゃあないかな。
クシラカは説明文通り、焼く。
土鍋が熱くなれば持てないので中をかき回すのにさっき使った枝にまた役立ってもらう。
ちなみにこのさいに、前も役にたった塩みたいなきのみも削り入れる。
[ヤマオシの実 森の中のきのみでも特に変わり種で、実に該当する部分が塩分の塊のような成分になっている。こうすることで中の種を動物から保護する。]
すまない、私はとった。
調理が簡単なクシラカの塩炒めからいただく。
バチバチと木の枝と団栗がはぜる音を聴きながら私は必死こいて土鍋をかき回す。
何せ口に咥えてやっているからな!
アシガラスぐらいの腕を魔法でにゅっと生やしたい……
外から見たらかなりアホに見える光景じゃあないだろうか。
特にホエハリの仲間に料理という概念はない。
ホエハリの仔が口に枝を咥え処理しきれないヨダレたらしながら鍋に枝突っ込んでいるのはシュールにもほどがある。
しかも火に近いから熱いのなんの。
そして予想通りギャラリーが増える増える。
暖かい距離を覚えてなおかつ良い匂いがしてきたので来ないほうがおかしいか。
火に関しては土鍋作りの時に60時間かけて危険性を良く言い聞かせそれと引き換えた利便さも語った。
ハートペアには特に語ったが彼らがどこまで理解できたかは微妙な顔をしていた。
ハートペアが彼らなりに周りの仲間に説明し、何とかまあ私が使うのは許容範囲というほどに収まっている。
これはあれだな。
人類の祖先が火というものを学習し、文明の灯火を得た時代に似ている。
ただの野生動物の一つでしかなかった人類が、その個体数を劇的に増やすキッカケとなった行動だ。
それを私は今、図らずも再現している。
……これ、どうなっちゃうんだろうね。
そんな思考をしながら必死に鍋を突っつき、火を土で消火してから鍋の中のものを食べている。
あ〜〜!!
あっつい!!!
いや、とんでもない!!
そこそこ冷やしたつもりだったけどとんでもなく熱を持ってた!!
そして、これは私が待ち望んでいた中でも最低限ながらも。
火の味わいだった。
こうして私は、縄文炒めを完成させた。