二百六十八生目 英語
興奮して金銭感覚が吹っ飛んだバローくんをなだめつつウインドウショッピング。
全額は預けずにいくらかは持ち歩いているので衝動買いも可能。
「あれ? この杖って……」
「あ、僕が持っているものと同じ型ですね!」
バローくんが持っている大きな杖とだいたい同じに見えるものが売りに出されていた。
初心者にも中級者にも末永く使える定番杖。
樫の星杖、と書かれている。
微妙にバローくんが持っているものと違うのは手作りだからだろう。
「値段は……へえ、1298シェル! さっきから思っているけれど、武具って高いね……」
「そうですか? こんなものだと思いますが、ですよね?」
「ええ。命を預けるしっかり職人たちによりつくられた武具たちは、それこそ粗悪品や中古品でない限りはこのぐらいはするかと。この樫の星杖はかなり有名品で各所で作られているのでだいぶ値下がりをしている方ですね」
「そうなんだ……」
円にすればだいたい100倍なのでつまり129800円。
うーむよく見るとあまりに禍々しそうだったりどう斬るのかすらよくわからない武器なんかはちょっと家が買えそう……
こんな世界なのかここは。
「まあ、さらに普通の店にはなくて自由市場で売る品物の中には、とてつもない額のものも一部では出回っているそうですから、ここはとても安い方ですよ」
「え、へぇ……」
武具の世界に深く踏み込むと危険ということを覚えた。
こう、資金的に。
昔に出会ったニンゲンたちの中で武器が高額だからと中古品の回転式拳銃を買ったら弾がうまく飛ばずに苦労していた女子がいたのを思い出した。
なるほどあの時はまるで知らなかったが確かに高い。
「でもやっぱり冒険者としてはユニーク品に憧れますね」
「ユニーク品?」
「確か……それしか世界には存在しないと言われていて、なおかつ特別な力を秘めた幻の武器ですな」
私の疑問にカムラさんが思い当たるふしを話す。
バローくんは肯定して話を続ける。
「失われた文明の品や伝説級の腕前を持つ職人至高の1品がそれにあたりますね。7つの違う種類の武器で、まるで宝石で作り上げたような見た目の『七宝剣』。刃を持たずに敵を斬る、原理不明の『無身剣』。当たった魔法が全て跳ね返る『水面の盾』。ここらへんは有名所ですね」
カムラさんがうなずく。
私知らないのはしかたない面もあるから……!
これから勉強しよう。
「噂ではこの街にも伝説級の鍛冶職人がいるそうですよ。どこにいるかまではわかりませんが」
「そうなんだ」
大事かも知れないからちょっと覚えておくかな。
さらに練り歩き今度は本屋へ。
タダの本から魔法の本まで売られている。
読んで中身を理解すれば魔法を習得できるとは聞いている。
もちろん私も興味がある。
値段は高いが武具ほどではないか。
棚に並んだ多くの分厚い本たちを眺め……
1つの本に目が止まる。
というか他の魔法の本と違って帯びている魔力の質がまるで違う。
こちらを見て欲しがっているような雰囲気のその本を手に取る。
[幻想の異世界 種別:魔本 単純な意志を宿す程度に古くから存在し自らの写本を生み出してきた。そのため魔物の1種扱いされることもある。内容は魔本を作り出す秘術について書かれていると言われる]
"観察"した内容も驚愕だが手にとって表紙に書いてある文字にも驚いた。
これは……英語!
ローマ字ぽいものではなく明確な英語だ!
"言語学者"と"観察"スキルの同時発動効果により自動で身体が動いて目が文字情報を拾っていく。
高速すぎて意味のわからない文字列が脳内で整理と認識がされ……
頭痛と共に最後まで見終わるとログが更新された。
[新言語習得]
これは結論から言うと英語だった。
しかも英国の。
そうか……私のように遥か昔に転生したニンゲンがいたのかもしれない。
これは買おう。
内容はあとでじっくり読むとしてひかれるべくしてひかれたような気がする。
出会いは大切に。
バローくんは面白そうな童話本コーナーにいてカムラさんは知識を高めるための本を読んでいる。
私はさっきの本といくつかの魔法の本を積んで会計へ。
「おや、これに目をつけるとは珍しい。本当にこれで大丈夫だったのかね?」
「はい、大丈夫です!」
店員さんにあの魔本を見てそう尋ねられたがもちろんオーケーだ。
『解読頑張ってね』と笑顔で言われたが読める言語だとはさすがに言うまい。
あまり数は多くないが1つ1つが辞書のように大きいため持って運ぶのにも苦労する。
そのため店員さんが紐で縛ってくれた。
このあとこっそり空魔法"ストレージ"で亜空間に放り込んでしまうからちょっともったいなかったかな?
まあそれを言い出すわけにもいかず私の今日1番の買い物は終わった。