二百六十七生目 巨額
ガドウ市長逮捕のニュースはあっという間に街の話題を独占した。
相変わらず魔王復活秘密結社のことは伏せられたままだが……
カジノ経営に手を出して街の急速な発展に舵をきった理由もこれに含まれているだろうというのがもっぱらの噂だった。
そして私は平和な日々を満喫し……
満喫……
なんで私は札束の前で固まっているんだっけ?
「これが例の事件ふたつ合わせた報酬となります」
「ええ、ありがとうございます」
ニコニコと渡す国の冒険者ギルドの所長にニコニコと受け取るカムラさん。
場所は冒険者ギルドの客室内。
つまり私は報酬金が出来たと聞いて受け取りに……
「あ、そうだ、ありがとうございます! でもこんなにどこにしまおう……」
「それならこの街にも銀行はありますし、冒険者用の銀行に預けられては?」
「あ、私口座がなくて……父さんは?」
「ふむ、私もあまりそういう口座はないですから、新しくつくりますか」
父役を演技するカムラさんも顎に手を置いてそう答えた。
国の冒険者ギルド長によるとそこなら冒険者証明書で作れるとのこと。
今は成績反映のために預けてある。
「お待たせしました」
「さあさ、こちらになります」
別のニンゲンが運んできた冒険者証明書をギルド所長にすすめられるがまま受け取る。
私。
カムラさん。
あれ、もうひとつある……
横を見て思い出した。
そこにはバローくん。
震えて白目剝いて固まっていた。
私より混乱を極めていたようだ。
震えつつ言われたまま証明書を受け取っていた。
正確には数えていないけれどひとりあたり住宅街に一戸建て庭付きをたてれそうなほどの額に固まるなは無理。
もちろんこれは依頼費だけではなくカムラさんが片っ端から請求したもろもろが含まれている。
口止め料も入っているかな。
……それほどまでに魔王復活秘密結社に対して重要視しているということか。
もっと言ってしまえば2連続でそんな相手を引いてしまった私達に対する『期待』でもある。
いやだなあその期待は。
魔王復活秘密結社への釣り餌になれという話ならば命がいくつあっても足りないし目の前の札束がはした金に見えるほどだ。
そんなことまで頭が回る余裕が出来たのは隣でめちゃくちゃ混乱しているバローくんを見たおかげだな……
ありがとうバローくん。
未だに固まっているけれど。
「今回の件でギルドはあなたたちへの信頼と評価します。ぜひ未開拓地調査依頼……つまり冒険依頼へ挑んでもらいたいです」
「それを達成すれば昇格でしたっけ?」
「はい。今回は飛び級をお約束できるかと。ただし規定通りその依頼をこなせなければ昇格は不可能ですので」
昇格すればそれだけ複雑だったり高難易度の依頼へ挑め報酬金も増えるし何より信用度がとてつもなく増す。
権力としての力も徐々に発揮できるとも聞いた。
つまり魔物でこの街とやりとりしたい私にとって必要なアレコレがドンドン手に入るわけだ。
「ひとまず今日はお帰りになってもらい、また後日正式にそちらの所属ギルドに依頼をおろします」
「ええ、それでは」
カムラさんは手早くお金を全て麻袋につめた。
ギルド長にカムラさんと共に挨拶をしてから部屋を出る。
……あれ。
「バローくん、行くよ!」
バローくんはガチガチに固まりながらやっと歩きだした。
これはしばらくはダメかもしれない。
案内された銀行に行き証明書を提示すれば問題なく口座を開設出来た。
子どものバローくんも出来たあたり確かに冒険者優遇の施設だと感じる。
ただ麻袋から大量の札束を出し始めた段階で向こうもとまどいだしたが。
そのとまどいを察してカムラさんが一言。
「盗難対策です」
相手がいかにも『盗んだ側ではなく?』と思っていそうな顔つきをしていたが貯金そのものは順調に済んだ。
しっかり入金し終えるころにはなんとかバローくんの混乱もとける。
「それぞれの口座から引き下ろすためには冒険者証明書をご提示ください。無くさないように気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
大事な冒険者証明書。
あとでしっかり空魔法"ストレージ"で亜空間にしまっておかなきゃ。
バローくんは意識ははっきりしていたのにそれを聞いて証明書を持つ手が震えていた。
そのあとはやってきました商店街。
なんだかこうやってのんびり観光出来るのは実際は初めてな気がする。
なんとか持ち直したバローくんに案内されながら練り歩いた。
「あ、この鎧なんてどうですか! 今なら1万シェルですって!」
「そんな重そうな鎧誰もきれないんじゃあないかな……」
うん。
なんだか金銭感覚と興奮が高く飛びすぎてしまっているなバローくん。
シェルとは通貨の単位だ。
1万シェルは脳内でだいたい円に直した時の値段で雑に100万円ほど。
まあようは100倍ぐらいの数値にすればだいたい合っている。
さらに10と1と0.1のケタ円分を払う単位もあってそれはストーンという。
ただ単位として小さいので普通に0.1シェルという表記を使うことも多いしあまり気にする必要はないだろう。
「あー、確かに重い……そうだ、こっちの銃なんてたった2万シェルで……重い!」
「バローくん落ち着いて! それにしても武具って高いなあ……」