二百六十五生目 偶然
人狼衛兵はおそらく後から来た部隊のひとりだったのだろう。
改めて見ると確かに装備も隊長格の雰囲気がある。
「この件は国の組合から依頼という形式にできるもの、という認識で良いのですね?」
「ええ。その点はご安心ください。それにしても、連日騒動に巻き込まれっぱなしで、あまりツイてないようですね」
「あ、もうひとつの事件についても知っていたんですか」
パペットたちの事も知っていたらしく人狼衛兵は頷いた。
ならあのこともこのひとに話しても良いかな。
「あの市長なんですが……確定的な証拠はあまりないのですが、どうやら魔王を復活させようとしていたひとりのようなんです」
「……例の事件との関連性があると?」
「同じような特殊コートを所持していたことと、パペットたちと関わりがあるむねを匂わせる発言をしていたので」
「わかりました、その点も追求してみます」
人狼衛兵がそう言って近くの衛兵と何かを話しどこかへ走らせた。
詰め所だろうか。
「はあぁ〜……腰がぬけそうです」
「おつかれさま」
「いまさらですが、今回も本当に死ぬかと思いました……まだ杖を持つ手が震えてます」
バローくんは杖を支えにしながらへたりこんでいた。
それだけ恐怖があったのに現場ではMVPな活躍で常に立ち向かえたのはすごいと思う。
志願すること自体も相当な勇気がいるはずだ。
次第に魔物たちが入った檻が運ばれていく。
不安そうな顔をしていたが私が近くによると気付いてくれて安心してくれた。
どうやらにおいなどの気配で姿が違っても私だと気付いてくれたらしい。
魔物たちは治療と検査後に魔物使いの元へいくらしい。
そしてプロの手によって大自然へ返されるという工程を踏むそうだ。
あとでその魔物使いの話も聞かなくちゃ。
その後は私達も戦闘時の話を多くの衛兵に混じって話すこととなった。
疲労もあったが前よりは手短に済んだ。
宿に帰ればギルドマスターたちが出迎えてくれて無事解決を祝ってくれた。
群れに"ファストトラベル"で戻り休眠を取る
そしてひと晩が明けた!
"ファストトラベル"で宿に向かい宿の面々に挨拶して不自然にならないように出てからまた"ファストトラベル"で群れに戻ってきた。
会いに行くのはドラーグだ。
影からぬるりとその姿を表した。
「一通りのバタバタが落ち着いたから、改めて話を聴こうと思って」
「わあ! ありがとうございます! どこから話しましょう!?」
ドラーグは待ちきれないと言った様子だった。
気になったことと言えば……
「そうそう、なんであの街で盗まずに物食べれたのかって点だよ」
「それですね! では順番に話させてもらいます」
そう言うとドラーグは用意してあったのか手元の紙束を開く。
すごいな、もしや記録をつけていたのか。
「ローズ様と別れた後、色々と見て回り楽しくはあったのですがあちこちから良いにおいやおいしそうなモノがあって、だいぶ目移りしていたんです。
そこでふらりと立ち寄った店はたくさんのお菓子類が並んでいて、おばあちゃんのニンゲンがやっていました。
子どもたちがやってきて、『これください』って言って商品と色々な雑貨を背が高い台に乗せていて、おばあちゃんはその向こう側で計算して、お金を返していたんです」
なるほど物々交換かな。
それでお釣りは返していたと。
「しばらく眺めていたら羽根とか石とか何かの粉とかなんでも交換していたんですよね。それで、もしかしてと思って他に誰もいない時に、剥がれかけていたウロコとお菓子を腕だけ一瞬出して置いたんです。『これください』って。
小さい子は良く高い台に身体が隠れていたから、そこまでは違和感なく出来ました。おばあちゃんが何かの分厚いレンズで良く見て、いきなり驚き出したんです」
ドラーグが指で輪を作って虫眼鏡を再現した。
確かに分厚いレンズだろう。
「確か……『これは! 一体どこで?』と聞かれたので、とっさに『そこらへん』と答えたら、『そう、とても運が良かったのね』とたくさんお金くれたんです」
ドラーグに詳しく聞いてニンゲンの街で調べた価値基準を円に直したらおつりで1万円以上貰っていた。
さすが竜のウロコ、しかもほとんど人目にはつかないと噂のデムクラ種だ。
光を吸うような黒いウロコは飾りとしても使えそうではある。
「それで、そのお金を使って?」
「はい! 他での買い物の誤魔化し方はいろいろ考えたんですけれど、結構イケるのはいっそ全身を布で包んで帽子も被ってしまうことですね」
「え、そんなものどこで」
「たまたまゴミ捨て場にきれいなのがありました!」
ドラーグは影から帽子と布を取り出して器用に着こなした。
いったいいつの間に影の中に物をしまうスキルを……
その後もドラーグの話を聞いているとたびたび『たまたま』『偶然』という言葉が出て来る。
たまたま路地裏で暴漢に襲われている女性を助けて仲良くしてくれた。
その女性がたまたま貴族のような一族のひとりだったらしく感謝された。
偶然その女性を狙う犯罪者を見つけ根本を絞り上げた。
たまたま需要を外した大安売りの素材をナニか役に立つかもとウロコとそこそこの数を交換。
その素材を助けた女性に渡したらたまたまその女性の友達が素材を材料にした新防具の開発に成功。
大量の買い付けと開発協力に感謝され仲良くなってたまたまその防具が……
この調子で延々と続いた。
いや、どこの主人公なの!?
最終的にニンゲンのその街だけで3人の女の子と仲良くしていてドラーグがニンゲンならハーレム的なお話だった。