二百六十生目 突入
衛兵たちと話をつけた日の夜。
私たちはとある街角の建物にやってきた。
外見はボロく誰も住んでいないようで外窓には木板が打ち付けてある。
もちろん玄関も封鎖されている。
恐らくむりやりこちらから侵入しても無駄だろう。
それに目に見える範囲だけではなく魔術的な偽装やまた偽装したことを隠蔽もしてあって実は外からでは"透視"しても中は廃墟のようにしか見えない。
地味ながら高度な技術が使われている。
入るのならば正面からのみだ。
そして私たちは正しく迎えられるやり方はしらない。
屋上の偽装扉が開く。
中からカジノ員と客の貴族。
彼らが階段を登った所でハタと気づく。
隠しきれない視線の量。
暗闇から姿を表したのは抜刀した衛兵たち。
「なっ!?」
「抑えろ!」
カジノ員が何かをしようとしたその腕を狙ってナイフが飛ぶ。
「ぐぁっ!?」
「おとなしくしろ!」
カジノ員が痛みで反射的に放り投げたものが床を転がる。
銀色の玉のようだ。
あっという間に4人の衛兵に抑えられた。
「投げナイフも出来るんですね」
「いや、うんまあね」
バローくんが私の投げナイフを褒めてくれたが実は私は投げていない。
投げたように見せかけて空魔法"フィクゼイション"でナイフの持ち手を空間ごと固定しそのまま動かしただけだ。
前の反省で手軽に使える遠隔武器が欲しかったから揃えた。
「これは……破裂音を響かせるものですね。これを使われたらあっという間に下側に騒動が届いていたでしょう」
「なるほど」
カムラさんが銀色の玉を拾い上げて確認した。
衛兵たちは手早く彼らをふんじばったようだ。
ただしここからが本番だ。
回収は後から来る衛兵たちに任せて私たちはどんどん無力化するのが仕事になる。
衛兵たちが捕まえ私達が率先して奥へ行く。
大ボスを逃さないためだ。
ちなみに強制捜査の許可は最終的に『本当にあるのかどうか』と言う点に絞られたらしいが、カムラさんが私から受け取った証拠と口八丁で踏み込む価値はあると判断させたらしい。
ドラーグに賭博用コイン1枚とか使用済みの勝敗博打券とか持って帰ってきてもらって良かった。
ドラーグの種族はニンゲンの悪を影から見ていると言われているようだが存外間違っていないかも知れない。
カジノへの道はまだ空いている。
互いに無言で頷いて衛兵4人と共に階下へ降りた。
近くへ寄れば途端に聴こえだす騒音。
防音の結界を抜けたらしい。
まだ賑やかということは何も気付いていないということだ。
衛兵たちも本格的なやりとりに備えて背中に背負っていた大きな銃を取り出した。
私は帽子を深くかぶり直す。
今は一般的な服なため帽子で3つ目を隠している。
これが間違って取れたらまずい。
扉付近に張り付いた衛兵がそっと頷く。
ガタン!
扉は勢い良く蹴り破られた。
途端に驚きの声とほんの僅かな静寂。
「強制捜査だ! おとなしくしろ!」
ガチャリと銃が一斉に外へ向けられる。
この時ヤバそうな動きの奴は……
"止眼"アンド"見透す目"!
(てつだうよー!)
(そうだな……)
アインスとドライも総動員で数十人いる中で動きを見る。
さすがにひとつの意識では追いきれないからね。
ええっと……
(こいつだ!)
(これ!)
いた!
"止眼"解除!
「やあ!」
投げナイフを投げ……ているように見せかけて魔法で動かし手前のディーラーの肩に!
「ぐう!」
「カムラさん! それ! バローくん!」
「ええ」
「いきます!」
ディーラーは銃に手を伸ばそうとしていた。
ただひとりでやるほど馬鹿ではない。
既に動きが決まっているのだろう。
だから私の投げナイフが相手にドンドン飛んでいく。
吸い込まれるように飛ぶから本当は不自然なんだろうけれど戦闘時にそんなことを気にするやつはいない。
受付嬢は何かの玉に手を伸ばしかけていた。
悲鳴と共に反射的に掴んだそれを放り投げると煙がモクモクと発生した。
なるほど逃走用か。
さらに投げナイフは背を向けていた一般客の手の甲に刺さる。
格好は一般客だが今の投げナイフも深く刺さらなかった。
だが動作を遅らせられたようだ。
服の下に色々武器を持っている一般客がいるか!
反応が遅れた一般客やカジノ員たちは今更悲鳴を上げ騒動が起きた。
慌てて逃げたり防衛しようとして――
ズドン!!
衛兵のひとりが空砲を上げる。
良く音が響くせいで誰もが頭を抱えその場でうずくまった。
想定通りだ。
「動くな!!」
これで大半は動けなくなった。
だが反応の良かった数人はおそらくレベルも高いし良く訓練されている。
銃だけでは止まらない可能性が高い。
最初に投げナイフが当たったディーラーはカムラさんが斧を片手に向かいバローくんは受付嬢のひとりに杖を向けている。
私はこの一般客風の男だ!