二百五十九生目 魔杖
宿屋のクーランの銀猫冒険者ギルド本部で違法カジノの事を話した。
昨日の夜中偶然それらしきものを見つけた、程度だが。
まさか中まで探っただなんて言ったら嘘くさくなる。
「何!? この街にそんなものが!?」
「噂は知っていましたが、もっと大都市にあるものとばかり」
「たぶんそういう盲点を突いたんでしょうね」
ギルドマスターのタイガは驚きバローくんは汗を浮かべカムラさんはフォロー。
すぐに国ギルドや衛兵たちに通報する手はずとなった。
それはそれとして。
「私達の方でもかけあって、出来る限り早く動けないかやってみます」
「そうだな……おそらく国が動くのには時間がかかり、そのゴタゴタに気付いてネズミたちは逃げ出す。出来るならその前に動けたほうが良いにこしたことはない。悪いが頼む」
「あ、僕も同行します! この街でそんなことをするのは、冒険者的にも許せませんし」
「あ、うん。助かるよ」
良かった、バローくんには話を通しておこうと思ったから誘う手間が省けた。
純粋な少年らしく正義感に溢れている。
だからまあ邪悪がはびこる現状は困ったものなのだろうが。
バローくんとカムラさんと共に宿屋を離れ衛兵たちに向かう途中。
バローくんに"以心伝心"で念話をする。
『やあ、聴こえてる?』
『あれ? 頭の中から声が……あ、ローズさんですか?』
『うん、出来る限り普通を装って歩きつつね』
『わ、わかりました』
バローくんがキョロキョロしたり私を見て驚いたりしているがそれをやられると念話の意味がない。
あまり往来では話せないからこうしているのだし。
『実はあのカジノの話。もっと深くまで調べがついていて。昨日の夜中に奥まで探索したんだ』
『えっ、そうなんですか!?』
『ええ。私もローズ様から話を伺っています』
それから私とカムラさんでカジノの中であったことを話した。
驚き、悲しみ、そして怒り。
バローくんの内側の感情がそう変化していったようだ。
『……といった感じかな』
『そんな……ひどい。許せません』
『ええ。出来る限り今夜にでも行きましょう』
バローくんも魔物たちのために怒ってくれたようだ。
立場は違えど倫理観は近いのかもしれない。
実際に自分の種族以外はどうでも良いという者はとても多いからね。
『なるべく僕も手伝います』
『ありがとう』
衛兵所について私とバローくんは待機となった。
手続きの関係で大人でないと難しいという面もあるが、カムラさんが任せて欲しいとのことだったから全面的におまかせだ。
最初表で話ししていた時は『まだ話が来ただけで調査が』とか『準備がまだで』とか言われていたが大丈夫だろうか。
さっきから暇なので周りの衛兵たちを見回しているが実に忙しそうに走り回っている。
やはり魔王復活秘密結社まわりのことかな……
ふとバローくんを見ると杖を手入れしていた。
「バローくん、そういえばその杖立派だよね」
「はい、ありがとうございます。これは前の誕生日に貰えたものなんですよ」
バローくんの持つ杖はかなり大きくバローくんの背を少し超えている。
木製のようだから重さは平気のようだが杖の先端が大きく半分円をえがいて中央に石が浮いている。
詳しくは分からないが魔法的な何かだろう。
「へえー、良かったね」
「はい! これは杖としての性能もバランスも良くて……あっ、杖に関しては詳しいですか?」
「ううん、全く知らない。よかったら教えてくれる?」
「はい!」
バローくんは杖の先端の石部分を手にとった。
アレ外れるんだ。
「ここの部分が杖の心臓とも言えるものです。石の種類によって大きく性能が変わります。これはバランス型で初心者向けとも言われている石で、派手さはないですが素直に使い手の力を引き出してくれるものです」
バローくんは石を磨いて再び同じ位置に戻す。
今度は木材の部分を持ってコンと床を杖で叩いた。
「そしてこちらが杖の体です。細かい部位名は様々で技巧によりカタチや材質は多種多様なのですが、とりあえずの役割として、まずは持ち手。場合により直接打撲の用途、それに杖の心臓部を守り同時に力を引き出します。この杖は素直で率直、あと将来性があります」
「将来性?」
「はい。心臓部の力と持ち手に杖側が耐えきれないと力を引き出せられないのですがこれはとにかく許容量が大きいんです。僕がおそらくおとなになっても使えますし、何より成長や改造に耐えうる汎用性が魅力的ですね」
その後もバローくんは杖に関してかなり詳しくレクチャーしてくれた。
ちなみに形は『杖』でなくても良いらしい。
『首飾り』や『銃』なども……
これまでわからなかった魔法武器の仕組みが少しわかるようになった。
おもわぬ収穫だ。
そうこうしているうちにカムラさんが奥の部屋から帰ってきた。
「あ、どうでしたか!?」
「もちろん、問題はないですよ」
「さすがですね……」
ニッコリと笑顔を見せるカムラさんとなんだか慌ただしさがました衛兵たちの組み合わせがなんだかミスマッチだ。
本当に頼もしい限りである。