二百五十七生目 黒幕
カードやらダーツ勝敗の予想賭け。
それに魔物たちが奥の方にいる?
空気穴を通って移動してみよう。
何度も上下左右へ入り組んだ道を動いてその先へ。
複雑な道のりを越えた先の出入り口。
そこから"鷹目"で見たものは驚いた。
捕らえられた魔物たちがリングの上で殴り合いしていた。
周囲には熱狂して叫ぶニンゲンたち。
こんなに叫んでいるのにこの建物外には音が響かないのはそういう結界でもしてあるのか。
獣型と直立歩行型の魔物がぶつかり合い斬り裂きぶん投げ競い合っている。
一体なんなんだこれは。
彼らの様子を見るに尋常ではない様子。
やがて直立歩行型の方が獣型の頭を掴んでぶん投げて叩きつけた。
そこに殴る。
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
荒い息を吐いて拳を退けた跡にはもはやただの血と肉の塊があった。
勝利の雄叫びと共に観客の歓声と悲鳴が響きわたる。
勝者と敗者……
ヨダレを垂らしながらその勝者の魔物は再び拘束されて去っていく。
明らかに異常だ。
もしや興奮剤を投与されている?
連れ去っていた方向を追うために空気穴を再びめぐる。
それにしても魔物闘技賭博なんてまっ黒じゃないか。
完全なご法度のはずだぞ。
同じ魔物だからというわけでもないがあまり良い気持ちはしない。
特に彼らが奴隷未満のような扱いだった場合は……
保護も考えないと。
しばらく移動している間に別の部屋の上を通りがかった。
上から覗けるようだから"鷹眼"を使って覗く。
「……では、以上で報告を終わります」
中にいたのはこのカジノの制服を着たニンゲンとひとりの礼服を着たニンゲン。
客たちの礼服とは雰囲気が違う。
そうあれは戦闘のために作られているようにも見える。
制服を着た方が何やら報告を終えて扉から出ていく。
机の向こう側の椅子に座り込んでいるニンゲンは深いため息をついた。
「まさかパペット達がやられるとはな……雑用程度はこなしてくれるはずだったが……はぁ、仕方ない。こちらももう少し力を出すか」
なんだって!?
ここでパペット達の事が……おそらくあのパペットたちだよな?
それに力を出すって……?
周囲を見渡すとかけてあるコートに目が止まる。
見覚えのある全身をすっぽり覆うコート。
彼は深いため息をつきながら書類にサインを走らせていた。
内容は……多岐に渡るようだ。
基本的にはカジノの経営に関すること。
かなーり儲かっているらしい。
さらに魔物たちや魔物たちに投与するものも……やはりか。
興奮剤に関するサンプルなども。
この世界の医学には詳しくないからなんとも言えないが、基本的に書いてあるのは『早く強くなり早く興奮し早く死ぬ』というむねだ。
普通は長持ちさせたいと考えるはずだが当然のようにサインをしている。
やはり……魔物の数も同時に減らしていくためか。
それで儲けたお金でさらに魔物を殺したり捉えたり売ったりするのだろうか。
さらに、封筒には厳重な魔法的封印がされているものも。
それを彼の手元にある道具で解呪して開くと中からはどうやら魔王を復活させる秘密結社の文書が。
ただ残念なことに暗号らしくてよめない。
彼はなんのこともなしにスラスラと読んだ後に火にかけた。
灰すら残らずキレイに消え去る。
恐らくそうなるように仕組んであったのだろう。
空魔法"ストレージ"で亜空間からおみとおしくんを取り出す。
メガネみたいな道具だ。
かけてから"観察"……ふむふむ名前は分かった。
そして困った事に本当にニンゲンだ。
魔王が魔物側だけではなくニンゲンとも手を組んで仲良くしていたとは。
魔王はこうニンゲン共通の敵みたいなイメージあったんだけれど。
メガネを再び亜空間にしまう。
再び書類作業に戻ったタイミングでそうっとその場を離れた。
ここは犯罪の温床のようだ。
さらに配管移動をしてそっと1つの部屋へ降り立つ。
そこにはたくさんの魔物たちが個別に檻に閉じ込めてあった。
それぞれに"観察"して始まる頭痛。
言語を覚えようとしているときのものだ。
ほとんど軽いものとはいえまだ時間はかかる。
覚えるまで待機していると向こうもこちらに気づき異様に落ち着かない様子。
『あれー? ローズ様どこへ行ってしまったんですか?』
『ああ、ちょっと奥にね』
『あの戦わせているのはこわいけれど、それ以外は見てるだけでも面白いからオススメですよ!』
ドラーグから"以心伝心"でどこかズレた話を聞きつつしばらくしたら頭痛がおさまる。
そして彼らの言葉がわかるようになった。
聞き込み開始だ。
「うう……いてえ……」
「帰りたいよ……」
「はらへった……」
「こわい……来るな!」
「なんで……俺なんであんな事を……」