二百五十六生目 博打
「ごめん、待たせた?」
「いえいえ! あれ? 縮みました? それに黒い……?」
「こういう"進化"でね。色は自分で一時的に変えてる。空を飛んで来たんだ」
影の中から顔だけ出しているのはドラーグ。
影のドラゴン。
数日ほったらかしだったが元気だったようだ。
「そうなんですね! いやー、街はすごいですね!」
「小さな声で、ね」
「ええ。小さい魔物たちの街も凄いと思いましたけれど、こっちは輪をかけてとんでもない……! 夜はいつも明るいんですね……!」
ドラーグが身振り手振り交えて興奮した様子で話を伝えてくれる。
楽しんでいてくれたようで何よりだ。
ほったらかしにしすぎていたから余計に。
「食べ物、本当においしいですね……料理じゃないものも、素材? から違うんですかね?」
「あれ、その食事はどこから? お金を出していないのに勝手に取ってきちゃったとか?」
「あ、いえ順を追って説明しますね」
「それならここから一旦離れよう」
そう言って空魔法"ファストトラベル"を準備して群れへ帰ろうとしたらドラーグが止めた。
「あ、ちょっと待ってください……! ここにいたのには理由があるんですよ。この下にニンゲンたちが集まってキラキラジャラジャラしていて、とてもスゴイから一回見てもらいたくて! 僕達の群れにも欲しいくらいです」
キラキラ……?
ジャラジャラ……?
よくは分からないが見てもらいたいらしい。
「ふうむ、どこから行けるの?」
「あ、それはこの床近くに……ここです!」
そう言ってドラーグが指したのは何の変哲もない屋上の床……じゃないな。
見た目は何でもないがにおいがおかしい。
ここだけニンゲンの靴のにおいが強く向こう側に空間があるにおいもする。
なるほど巧妙に隠してあるようだ。
「普通では入れないので僕が影を経由してみますから……」
そう言いかけた途端に床の下から足音。
おっとまずいまずい。
「誰か来るね」
「一旦隠れましょう」
ドラーグは影に溶け込み分からなくなった。
私は翼をしまいこんで物陰で気配を消す。
今は黒いからもはや目視は困難だ。
少しすると床が開いて中からニンゲンたちが数人。
「いやあ、今日は引き下ろさせて貰ったよ!」
「ワシは貯金することとなったから、今度こそ引き下ろさせてもらうからの!」
「ええ、当店はいつでもお待ちしていますので」
3人組が屋上を開いたままよそを向き話に夢中になっている。
なんだか銀行でもあるような口ぶりだが……
視線や気配の探りは殆ど屋根の穴に向いておらずスキだらけだ。
『じゃあ直接みてこようっと』
『あ、ついていきます!』
ドラーグに"以心伝心"の念話で語りかけて行くことを伝えた。
そうっと意識の隙間をかいくぐり中へ。
すぐそこは階段になっていた。
駆け抜けて降りていけば別れ道の廊下と扉。
まさかこの扉から堂々と入るわけにもいかないが……
『この扉の先なので先に行ってますね。確か、小さい穴がたくさんあったような……そういうところからなら、いけると思います』
ドラーグの声に従って周囲を見渡す。
ん、確かに高い位置に空気口が。
ニンゲンですら高い位置だが針の翼を展開して空を飛ぶ。
すいっと飛んで空気口に足が届いた。
前足を引っ掛けたまま翼をしまって這い上がる。
メンテナンスのためにもニンゲンがギリギリ通れるくらいの大きさはあるようだ。
つまり私に取っては余裕の大きさ。
問題なく突き進んでいこう。
少し歩けば扉の向こう側にやってきたらしい。
ガヤガヤジャラジャラガヤガヤジャラジャラ。
確かに言うとおり人がたくさんいるしやたらと硬いものがぶつかり合う音もする。
それによく聞くと紙をこするような音も。
うーん銀行?
銀行にしては賑やか過ぎない?
さらに歩けば覗き穴……ではなくて空気穴の出入り口があった。
ここから顔を出すと危険だが……"鷹眼"!
視界をぐっと飛ばす。
そこから見えた光景は。
キラキラギラギラ。
そう表現するに相応しい空間だった。
きらびやかに金銀が部屋中に施されている。
ニンゲンたちもきらびやかなドレスや礼服に身を包んでいる。
机を挟んでカードをやり取りして……
ダーツをしている隣で何人かが真剣にやり取りし……
そして多くの見たこともない硬貨が大量にやり取りされている。
うん。
これアレだな。
カジノだ!!
なおこの国ではカジノは認められていない。
なるほど『引き出す』は賭けに勝つ。
『貯金』は賭けに負ける事を指す隠語……
違法カジノ……!
しかも恐らくかなりの額がやり取りされている!
誰も彼も明らかに金持ちだ。
『すごいですよね! ここ! キラキラのピカピカで! なんだか楽しそうなことをやっていますし!』
『うん、確かにかなり楽しそうだね……』
栄華の影に蔓延る闇を見てしまった。
放っておく……わけにもいかないよなあ。