二百五十一生目 巨虫
「とりあえずあの場所まで行ってみよう。色々わかるから」
「あ、はい。わかりました」
熱く語っていたバローくんを少しなだめて密林に私とバローくんそしてアヅキと歩いていく。
なかば密林に近づいた段階でバローくんも気付いたらしい。
腕をさすりながらさらに歩みを進める。
「こ、この肌を刺激するような感覚……」
「もうちょっとだよー」
ついに密林の中へと足を踏みいれる。
バローくんの髪のような羽毛がブワッと逆立った。
「うわ……すごい! この力、この血がわきたつような感覚……! もしかして!」
「ふむ、確かにここは異様な感覚がありますな。悪くないですね」
「そう。ここは龍脈が集っているうえ龍穴。力が吹き出している場所なんだ。しかも安定もしている」
「ふえぇ……」
感嘆詞をもらすバローくん。
両手を広げ大きく深呼吸。
全身でこの地を感じているらしい。
「あの! ここ、また来ても良いですか! 今度は色々準備してやってくるので! それに精霊たちも喜んでいるみたいですから!」
「うん、いいよ。その時は遠いから魔法でここまでワープさせるね」
「ありがとうございます!!」
バローくんがキャッキャとはしゃいでいる。
こういう姿を見るとまだ子どもなんだなーと思う。
アヅキをチラ見。
バローくんをガン見していた。
そして私に見られていると気づき何かショックを受けたように目を開きそそくさと後ろを向く。
大丈夫なのか彼は。
アヅキはともかくバローくんは本当にうれしそうだ。
「なんならここにテント建てたりしても良いけれど……」
「良いんですか!?」
「ただ、虫に気をつけてね」
バローくんは首をかしげた。
「虫、ですか? そのぐらいなら冒険中になんども……」
「いやあ、それがね、魔物でしかも……あ、来た!」
たまたま近くをバッタの魔物が通り掛かる。
それを見てバローくんは驚き息を飲んだ。
サイズが私ぐらい、つまり中型犬ほどあるバッタだ。
そのバッタがこちらを見ていると思いバローくんは杖を構える。
だがバッタは悠々とジャンプし移動。
突然。
2つの鎌がバッタを捉えた。
そこにいたのは周囲と溶け込んでいたカマキリ。
サイズは大型犬を越している。
捉えたバッタを噛み殺しそのまま食べている。
私達のことなど気にしていない。
バローくんは思わず杖を落としかけた。
「……まあみんな攻撃しなければおとなしいからね。なんか最近やたらと巨大化しちゃっていて」
「……気をつけてここに来ます」
諦めないあたりがバローくんの熱意といったところか。
バローくんは食われるバッタを見ながら杖を握りしめた。
結局夜になってしまった。
あの後密林を探索し続けて精霊と多く出会ったらしい。
私はホリハリーの姿じゃないからわからなかったがバローくんは非常に満足していた。
私の迷宮は見つかることはなかった。
ちゃんと入り口を隠しているからね。
もうきっちりと封印してあるから間違っても見つからないだろう。
「それじゃあ、そろそろ街へいこうか」
「そうですね。あ、そういえばカルたちは……」
「大丈夫、ほら」
バローくんを案内したところにはカルたちが繋いであった。
わりと早い段階でここに連れてきていたのだ。
まあ世話しなきゃだしね。
なお世話したのは群れの魔物なため異様な環境に震えていたようなのは見なかった事にする。
すっかりおとなしくなったところにバローくんと出会ってパァーッ! と明るくなった。
「よかったー!」
「やっとまともにニンゲンきたー!」
「なんでここ魔物だらけなんだよ!」
「……あ、本当だ、なんて言っているかわかる」
「「「えっ」」」
3頭がバローくんに擦り寄ろうとしたらバローくんが話す言葉がわかって驚いたのだろう。
というかカルクックも走る鳥の魔物なんだけどなぁ。
バローくんは左腕に受信機をはめていた。
また来るのならということで渡しておいたのだ。
服を避けて肌にピッタリはまっている。
勝手に大きさが変わる機能があるからね。
急におどおどしだしたカルクックたちと話したがっているバローくんがわいのわいのしているがこの先はひと芝居うたなくてはならない。
真面目モードに入ろう。
「じゃあそろそろ行くよー」
「はい、いつでもいけます!」
「……そうれ!」
私を除いて"ファストトラベル"でバローくんと1頭のカルクックを街の近くに飛ばした。
私やカムラさんそれにパペットたちにカルクック2頭は別の場所へ移動!
作戦はこうだ。
まずバローくんとカルクックが慌てて門に駆け込む。
話を聞いた国の冒険者ギルドあたりが急いでパペットたちと交戦した場所に遣いを出してくれるはずだそうだ。
そうして山には私たちのカルクックと捕獲したパペットたち。
引き抜かれた大量の悪魔の爪つきだ。
少しもらっていったけど良いよね。
またあそこに植え直すにしてもパペットの仲間みたいなのが引き抜きそうだから。