二百五十生目 龍精
「ふむ、あの密林か」
アヅキが思考を巡らせる。
バローくんと話すための機会だからなるべく逃したくないのだろう。
「知っているのですか?」
「……いや、やっぱりまったくわからない。そういえばいつの間にか出来ていた」
「そ、そうなのですか……」
やはりそうなると思ったよ!
そろそろ助け舟出しに行こう。
「おーい! ふたりとも、こんな所にいたんだ!」
「ああ、申し訳ありません主! 少し遠くまで来てしまいました」
「あ、ロ……うん、ローズさん、でしたね?」
バローくんが一瞬悩んだ。
まあバローくんの私のイメージはホリハリー時だから仕方ないよね。
それと……
「もしかして弟や兄に会った?」
「はい! どちらの方も非常に気さくでした。話せる仕組みは教えてもらいましたがこんな技術があるだなんて、驚きました」
「確かにこの輪っかは便利ですね主」
やはりインカやハックに出会っていたか。
他種族から見たらほとんど同じ姿だろうから悩むだろうね。
アヅキはチョーカーにしているそれに触れた。
受信機のことも過程で知ったらしい。
「まあとある技術者に協力してもらってね。この群れが成立しているのはそうやって多数の協力があるからなんだ」
「そうなんですね……」
「そういえば主、何か用があって来たのでは?」
おっとそうだった。
アヅキにそう振られて話の向きを直す。
「用というか、まさにバローくんがどう思っているかそろそろ聞こうかなって」
「僕、ですか……」
バローくんは悩む。
まだ幼いがそれなりに答えを出そうと苦悩しているのだろう。
そうして少しして顔を上げた。
「率直に言うと不思議なところだと思います。魔物たちが行き交い人とは違うのに文化を築いていて……みんな優しくて話も出来る魔物もいて、普段冒険者として戦っている時では想像すらできませんでした。
まだ発展途上のようですが、ローズさんが人の街を訪れた理由も伺いました。それも含めて考えると将来どうなってしまうのかがすごくわくわくします。
魔物たちもこんな風に人と接せるだなんて、価値観が壊される思いでした」
バローくんは考えながら身振り手振り交えながら伝えてくれた。
良かったどうやらちょっとは気に入ってくれたらしい。
嫌われるようならどうしようかと。
「あ、あとローズさんって本当にすごい方だったんですね! もしかしたらそういう点も精霊に気に入られる点だったのかもしれませんね!」
「あ、ありがとう。ただまあ実際はみんなの協力が大きかったからね」
「いえいえ謙遜なさらず。我々含め主のお力です」
謙遜じゃあ無いんだけどなあ。
こんなん個でどうにかやれたらそれこそ魔王か何かの所業でしょうが。
「それで、あの密林なのですが……ローズさんは何かご存知ですか?」
「うん、あれ?」
バローくんが指すのは目の前の密林地帯。
周囲は荒れた大地でまるで雰囲気が合わないそれらはやはり気になるよね。
私が声をかけたのはアレの説明をしに来たようなものだし。
「アレは私やこの近くに住む妖精たちと協力した結果的に副産物として出来た……ものかな」
「あ、妖精系の魔物なら出会いました。今度は妖精たちの里に行く約束をしたんです」
「うん、そこの泉が龍脈の力を取り戻すために少しね」
バローくんはすでに妖精たちに出会っていたらしい。
最近はよく群れの中に出入りしているからなあ。
そして龍脈という単語を聞いたバローくんがハッとくちばしを開いた。
「り、龍脈ですか!?」
「うん。そういえばバローくん、あのパペットも龍脈が集まるところを提供うんぬん言っていたけれど、何かあるの?」
「実は……」
バローくんはパペットが襲ってきた時『龍脈が集う地』という甘言に誘われそうになっていた事を含めながら語ってくれた。
「精霊の文献には必ずと言っていいほど出てくる単語があります。それが龍脈です。龍脈は一般的にも繁栄や土地の肥え良くすると言われていますがそれだけではありません。魔術や精霊に関しても龍脈の地であるかないかは大きく関わると言われます。特に龍穴となるともはや一般に知られる地は全て独占されていて近寄ることすら出来ません。しかしそこでしか多くの研究は行えず精霊を深く知り関わり合いを深めるには龍脈の集うような場所に向かうしかなくて、僕が小さい頃から憧れていた場所なんです。せめて龍脈が走る場所に住みたくてお金を今から貯めようとしていたのですが高価な土地ばかりで小さくても一定の地位も必要なところがほとんど。でも精霊のために――」
「わ、わかったわかった! だいたいわかったから!」
ものすごい早さで語られた。
どうやらバローくんが熱を上げるだけの理由があるポイントだったらしい。
だったらあの場所は気に入ってくれるかな?