二百四十九生目 過去
カムラさんと別れたあとは群れの中を見て回った。
いつとのみんなや群れの仲間たちとにこやかに話した。
アヅキとバローくんはどこに行ったかな。
……?
誰か忘れてない?
まあいいや。
アヅキたちを探している間にアヅキの仕事場についた。
ただアヅキはいないらしい。
仕事場は他とは違う作りになっているテントだ。
まず広い。
そして排気口がしっかり確保されていてそれ以外にも食材があちらこちらに保存されていて大量の壺や木箱がある。
肉を塩漬けして保存させたり魚醤つくったりハーブを山積みにしてあったり。
「こんにちはー」
「こ、こんにちは!!」
中に多くの魔物たちがいて今も忙しそうに走り回っている。
何せ群れ全体の食事を作らねばならないからだ。
おとな限定でいるのはアヅキが仕事に集中するためかな……
何せ男児好き女児嫌いだからなーアヅキ。
男児好きは種族的に仕方ないけれど。
「アヅキが抜けているけれど大丈夫? 何か手伝うことあるかな?」
「い、いえ! そんなお手を煩わせる事は、決して!」
……?
なんだか違和感がすごいある。
なぜ彼らは一同揃ってビシッとしているんだろう。
口調もなんだか緊張している。
他の魔物たちではそんなことは無かったんだけれどなあ。
「どうしたの、みんなそんな改まって……」
「いえ! 常日頃からアヅキ様より話は伺っていますので!」
「……?」
ビシッとしていたり忙しく仕事している彼らに詳しく話を聞く。
そして何が起こったのかだいたい理解した。
「アヅキ様から忠誠を捧げるに相応しいお方だと」
「いつも自慢しておられます!」
「けして粗相の無いようにと厳命を受けています」
「話しかけてもらって、光栄です!」
どうやらアヅキは自身の忠誠心を周りにも広げまくっていたらしい。
おかげでこちらを見る目がキラキラしている……
どうしようか本当……
まあ害はなさそうだから放っておく……しか無いかなあ。
とりあえず何かあったら動こう。
色々聞いて回ったがとりあえずうまく動いているらしい。
あとは……っと。
「みんな、アヅキの事はどう思っているの?」
「あの目が良いですよね!」
「見つめられたら、キャーってなっちゃいます!」
「優しくてイケメンでしかも私たちにちゃんと気を利かしてくれて、働いていて楽しいです!」
私の知るアヅキを思い浮かべる。
するどい目つきでビビられる。
男の子に熱を浮かして……
うん!
まあどう見えるかは魔物それぞれだな!
とりあえずアヅキは仲間内からの評判の高さは良いことだとしてその場を去った。
長居しても邪魔になりそうだからね。
休憩をはさみながら散策を続ける。
そろそろ夜か。
依頼のリミットは明日の昼まで。
つまりまだ余裕はあるか。
彼らのにおいを見つけたし近くにいるかな?
ゆっくり追おう。
しばらく歩けばふたりはこの群れの元中心地にいた。
壊れたものは大半片付けられたものの地面に傷跡を残す地。
ダカシの爆発によってえぐられた大地を前に彼らは何かを話していた。
「……そうですか、そんなことが」
「ああ、その時はローズ様も危機的状況に追い込まれた。今は見てのとおり復活されているが、生きていたのが奇跡的なほどだった」
まあ実際あの時は爆心地から離れたことと"頑張る"で生命力が最低限耐えたからだろうなあ。
みんなの治療も効果的だった。
どれか欠けていれば死んでいただろう。
そういう点に関して言えばまさに奇跡的か。
「この時だけではない。この群れが出来たのも含め主の辿った道は奇跡の集まりそのものだ」
そこからアヅキが知る限りの私の話を歩きながらしているようだった。
邪魔をしないように私は気配を周囲に溶け込ませながらついていく。
普段ならアヅキにバレるだろうが色々工夫し気配を消す技術は上がっているうえアヅキがバローくんに集中している状態ならばバレないだろう。
アヅキが語るのはアヅキに話した私の過去話。
アヅキと対峙した時の話。
その後の話もかいつまんで話していた。
元ニンゲンな事は伏せつつも巧みに多弁に話している。
というかほぼ一方的に話しているな。
傍目から見てもアヅキがとにかく場を繋ごうと話しまくっているのがわかる。
ありゃー明らかに緊張がいまだ解けていないらしい。
バローくんはそれを知らずに良い反応を返しているから余計に話が加速する。
結果的に彼らの歩みが群れの外にある密林近くに到達するまで続いた。
「……とまあこんな感じで、あとはそうだなあ……」
「えっと、アレってなんなのですか? 僕が知っている、荒野の迷宮の情報とは全く違うものがあるんですが……」
バローくんが密林を指差す。
まあ冒険者だから少なくとも聞いたことあるだろうし来たこともあるかもしれない。
だから密林が目の前にある異常性にすぐ気づけたのだろう。