二百四十八生目 破損
ジャグナーたちには見張りの他に情報の聞き出しもお願いしていた。
ただ残念ながら何も聞けていないらしい。
まあそれで軽々情報を吐くほど気軽そうには見えないしね。
"無敵"はすでに掛けてある。
普通なら通らないがここでとある発明品の登場。
空魔法"ストレージ"からメガネを取り出す。
とは言ってもその実態はおみとおしくん。
九尾の発明だ。
メガネをかけて……と。
耳はニンゲンより高い位置にあるがそれ様に調整されているので問題なく引っ掛けられる。
さて"観察"!
[パペソードLv.28]
[パペソード パペット系からトランスし全身に多くの武装を隠し持ち剣技を得意とする攻撃的な魔像。人間に擬態するのが得意。腰に重要なパーツが多くあり狙われるのを嫌う]
ふむふむ、なるほどね。
これで確かに隠していたのを突破出来た。
縛られうなだれているパペット1体に近づく。
「気をつけろよ? 不意打ちは1番危険だ」
「うん、ありがとう」
パペットは私に気付いているはずだが無視しうなだれている。
さて……"見通す眼"!
ウンウン、やはりこちらも通るようになっているね!
押し殺すような気持ちと憎悪それに諦観が入り混じっている。
武装を改めてチェック。
動力がやられているのか動けないものが多いのかな?
あまり詳しくはないが前世の事をちまちま思い出しながら見てみよう。
おーい! アインスー!
(ほーい、ひっぱりだしてみるよー)
それから少しの間彼らの配置を見ていた。
ぶっちゃけこっちの"以心伝心"みたいなものを彼らが使えたりはたまたそういう装置があると厄介なのだが……
見たところ例のブザーもあるし比較的よく出来た魔導機械といったところなのだろう。
はっきりいって魔法的な仕組みが多くあって意味不明な部分が多いが前世の機械に似た機能を参考によくみた。
まああとはスキルそのものだな……
とりあえず連れてきたは良いが危険なスキル持ってないと良いけど。
1番の問題は彼らがここの場所を上に知らせること。
正直それを考えるとお持ち帰りしないほうが良かったかも。
"正気落とし"して気絶させてから運んだから彼らはここがどこかはわかっていないはずだから平気……だとは思う。
それでも持ってきたのは追撃と奪還を恐れたから。
全員いるここならかなりしっかりと見はれるからね。
ワープもして移動したから場所割れはしてはいないはずだが……はてさて。
現地やはたまた別の場所でも考えたが管理が困難になるうえやはり場所を知られても迂闊に手を出されない場所の方が良い。
こちらの戦力も合わせればそこそこだ。
向こうも少数でパッと来るには厳しいだろう。
時間もすぐに終えるつもりだから大部隊動かされるようならその前にニンゲンたちに渡してしまう。
今夜にもね。
それに気持ちを見透かしている割に『期待』やら『嘲笑』が含まれていないのが気になる。
完全に諦めている。
この世界のスキル的に変に発信すると逆探知されるとかあるのかもしれないが、それを避けるために末端は連絡手段が少ないとか……?
まあそこらへんは推測を出ないか。
1番の部分はやはりブザーで呼ばれて駆けつけてくる程度に仲間意識はあるという点か。
もし何か来たら堂々と人質にとれるので拠点の方がこもりやすくやりやすい。
なので何重かの隠蔽の末持ってきて検査している。
こっちの悪意が向こうの悪意を上回っていますように。
魔物相手は魔物相手でも変な組織っぽい相手なんて慣れていないのだから。
とりあえずこの状態で質問してみよう。
「こんにちは、あなたたちは魔王を復活させるための組織か何かの一員?」
「……」
何も話さない。
だが。
(それで『私は魔王様復活ためにある秘密結社の手駒です』なんて言うと思っているのか……?)
残念ながら思うだけでもアウトだ。
さらに眼の前のパペットだけではなくおなじく反応を示さないまわりのパペットの心も良く見透かしつつ話を進める。
「なんで森の魔物たちを狩ったの?」
(命令……)
(魔王様を復活させるための命令を……)
よし、隣のやつがふと思った事を拾えた。
こんな調子で聞いていこう。
あくまで表面上は困ったなといった風に装って。
「ふむ……じゃあ悪魔の爪は? あれはなんで刈ったの?」
(逃げにくい地形に誘導し……)
(力を誇示……? 命令だ)
(薬の材料を少しずつ独占すれば……)
(資金源……)
(苦しみを煽れる……)
ノイズもまじるのは仕方ないが複数理由かあるようだ。
依頼主からして怪しいと踏んで考えたほうが良いな。
治療薬を出来るだけ独占して単価を釣り上げつつ民衆の不安を煽り情勢を不安定にして……何が狙いなのか。
ひとつふたつならともかく多くの薬でそれをされると困る。
傷を癒やすための薬のベースにはかなり共通した材料を使っていると聞くし悪魔の爪も重要な痛み止めに使われる。
魔法での治療も限度があるだろうし……
ただ今得た情報をこいつらに聞いたら抵抗されてしまうだろう。
出来ることならニンゲンたちに引き渡したい。
だとすると後は……
「うーん、何なら答えてくれるかな……そうだ。魔王を復活させるというのは本気?」
まただんまり……
なのでスキルを――
「……当然」
……使おうとしたら答えた。
さらに不気味な音がパペットたちの口から流れ出す。
いやこれは。
笑っているのか……?
パペットたちなりに不気味に不敵に高らかに笑っている。
ゾクリとした。
何も映さない作り物の瞳なのにそのことだけは本気だという点だけを強く表していた。
とりあえず"無敵"は再度かけておく。
"ヒーリング"との同時使用は危険だろう。
回復した途端に逃げられそうだ。
像がそれで治るかはわからないがリスクが高い。
不気味な彼らはジャグナーにまかせてカムラさんの元へ行く。
メガネをしまいこんでスカーフをしめなおす。
うんこっちのほうがしっくりくるな。
カムラさんはユウレンと同じテントにいた。
休んでいたようだ。
「おや、ローズ様」
「ちょっとローズ! うちのカムラが服ごと身体がボロボロなダメージはダメでしょ!」
「ご、ごめんごめん……」
これに関しては謝るしかない。
あんなに強い相手と当たる事になるとは。
「ユウレン様、あれは私の判断ですから」
「わかっているけれど、それはそれよ」
カムラさんが擁護してくれるがユウレンはそれを突っぱねる。
ただユウレンもこれ以上追求する気はないらしく手を顔の前で軽く振った。
「それで、何か用があって来たんじゃあないの?」
「カムラさん、大丈夫かなと思って」
「カムラならもう私が治したわよ。傷としてはもう平気ね」
「ええ。ただ行動力の消耗はありましたので休んでいました」
カムラさんはもう執事服だからわからないが生命力ならぬ耐久力はもう問題ないらしい。
ただ行動力の消費は確かに大きそうだ。
私の感覚で戦いにつき合わせるとこういうところにズレが生じそうだから気をつけないと。
「それは良いけど服よ。ビリビリよ?」
「私のも穴だらけに……」
「直しに行きましょうか」
確かに服は見るも無残に。
「じゃあ早速……あ、いや。戦った後なのにキレイになっているのはマズいですね」
「そう言われればそうですね。致し方ないからその時まではこのままでいきましょう」
「お気に入りだったのに……」
ユウレンが小さくそうつぶやいた。